タクシー
予定時間を過ぎて、非常にあせっていたM子さんは、海浜幕張駅から、タクシーに乗った。
行く先は海。
M子さんは、30代はじめの若い女性である。
ミラー越しにM子さんを一瞥した運転手は言った。
「冬の海へ、あなたひとりで? この時季に珍しいですね」
明らかに疑われていた。
自殺しに行く若い女性だと思われたに違いない。
確かにせっぱつまった顔はしていたけれど・・・。
必要があってタクシーを使っているのに、変な詮索をされたのではたまらない。
「ロケハンに行くんですよ。仕事で」
M子さんは、自分がカメラマンであることを明かした。
(なあーんだ。)
後ろから見える、運転手の片頬がゆるんだ。
(その2)
まだ東西線に西葛西駅が存在しない時代のこと。
5歳の長女を連れ、1歳の次女をおんぶして、葛西駅からタクシーに乗った。
乗り込む時の運転手の行き届いたサポートが有難かった。
「はい、気をつけて下さいね。もう少し頭をひくくして、はい、大丈夫ですよ。そのままそのまま」
降りる時にも十分な配慮があった。
私達が、父の葬儀からの帰りと知って、乗車中もなにかとやさしい言葉をかけてくれた。何だか気持ちがほんわりとしたのだった。
その運転手の名前も、タクシー会社の名も全く覚えていないのに、
”あのとき、受けたやさしい心遣い”だけは、春の雪洞のように今もほの明るく灯っている。
娘達は当時の私の年齢を、すでに越えた。
予定時間を過ぎて、非常にあせっていたM子さんは、海浜幕張駅から、タクシーに乗った。
行く先は海。
M子さんは、30代はじめの若い女性である。
ミラー越しにM子さんを一瞥した運転手は言った。
「冬の海へ、あなたひとりで? この時季に珍しいですね」
明らかに疑われていた。
自殺しに行く若い女性だと思われたに違いない。
確かにせっぱつまった顔はしていたけれど・・・。
必要があってタクシーを使っているのに、変な詮索をされたのではたまらない。
「ロケハンに行くんですよ。仕事で」
M子さんは、自分がカメラマンであることを明かした。
(なあーんだ。)
後ろから見える、運転手の片頬がゆるんだ。
(その2)
まだ東西線に西葛西駅が存在しない時代のこと。
5歳の長女を連れ、1歳の次女をおんぶして、葛西駅からタクシーに乗った。
乗り込む時の運転手の行き届いたサポートが有難かった。
「はい、気をつけて下さいね。もう少し頭をひくくして、はい、大丈夫ですよ。そのままそのまま」
降りる時にも十分な配慮があった。
私達が、父の葬儀からの帰りと知って、乗車中もなにかとやさしい言葉をかけてくれた。何だか気持ちがほんわりとしたのだった。
その運転手の名前も、タクシー会社の名も全く覚えていないのに、
”あのとき、受けたやさしい心遣い”だけは、春の雪洞のように今もほの明るく灯っている。
娘達は当時の私の年齢を、すでに越えた。
(その3)
父の死でひとり暮らしとなった母は、時々娘達のところにも出かけて来た。
末の妹が心配して、お正月や春休みの頃に母を呼び出してくれたので、そこをベースにして、たまに、家にも来た。
まだ学生だった下の娘が、おばあちゃんに、近辺を案内してくれる事になり、タクシーを呼んだ。
乗っている間も、あれこれ解説したり、話をして楽しい時間を過ごした。
帰って来るなり母が、
「今日、運転手さんに、褒められちゃったのよ」
と、話しだした。
車内での、おばあちゃんと孫娘の会話を聞いていた運転手が、降りるときに言った。
「やさしくて、ほんとうにいい娘さんですね。今時、珍しい」
「ええ、自慢の孫なんですーー” 私も胸を張って、降りてきたのよ」
☆彡過去の記事ですが、捨てがたく~~お目汚しごめんなさい。