何かを待ち焦がれる気持ちはだれにでもあるだろう。少し昔、北欧の企業に勤めていた時、日本駐在員の奥様とお話しする機会があった。北欧のその国では、冬の寒さが厳しく、しかも大変長い。数か月もの間、雪に閉ざされた家屋の中で過ごす毎日は、さぞかし大変だろう。そんな中で、戸外の雪解けの音が聞こえると、何とも言えな嬉しさに包まれるのだそうだ。ポトン、と最初の雪解けの音。
私には、それは桜の花かもしれない。町中がピンクの色に囲まれて、ふんわりとした空気と辺りに漂う香しさ。
元気だった父も一人になり、めっきり出歩かなくなった春。遠くに住んでいる弟が何を思ったのか、花見に行こうと誘ってきた。可愛いレンタカーまで借りている。父と一緒に乗って、実家近くの桜の咲いているところまで行った。
いつもの帽子をちょこんとかぶって、池のそばのベンチに一人たたずむ父。きっと母の事を思っていたのだろう。満開の桜を見ても、うつろな顔つきに母を思う気持ちが重なる。
そんな父も、空の上で無事に母に会えて、二人で仲良く上からお花見をしているだろうか。