先頃の台風、特に台風15号では、千葉県の広い範囲で停電し、倒木などもありその復旧
にはずいぶん時間がかかりました。 まだまだ暑さが厳しく、エアコン、冷蔵庫が使えない
苦痛、不便さは勿論ですが、電気が無いと、水もトイレも止まってしまうところもあり大変
です。 この時は、広域に断水もあって、地域の人々はそれこそ慣れない不自由な経験を
されたのでした。
これまでも、通行妨害、災害時の電柱倒壊による交通遮断の弊害や、街の景観を損ねる
などから、電柱の地下化(地中化)が叫ばれてきましたが、地中化に要するコストは10倍
(5.3億円/㎞)とも言われていて、なかなか進んでいないのが実情です。
私も、設備の計画担当部署にいた頃、毎年(相当の)予算を計上しており、幹線ケーブル
などは、電力・水道などと一緒に地下のトンネルに施設する「共同溝」(とう道)を推進
していましたが、幹線から各住宅に配線する電線の地中化は、特定の理由のあるところが
優先されていましたね。
(ネット画像より)
そんなこんなで、日本は、‛17年度末で3585万本の電柱があり、毎年7万本ふえているとい
い、「電柱大国」などと言われているのです。
電柱には電力会社の送配電の電柱(もしくは電力柱)、通信会社の電柱(電話柱、昔は
電信柱)、これら両社共用の共用柱(共架柱)、さらに鉄道会社の架線柱などがあります。
電柱本数の推移 (国交省HPより)
政令市等の無電柱化 (国交省HPより)
なかなか本題に入りませんが、もう少しだけ・・。
日本に初めて建てられたのは電信柱であり、明治2年(1869年)に電信の供用が始まり、
その後、電話の発明もわかっていたけれども、まずは電信専用のものとして幹線のネット
ワークが1870年代に形成されました。この時代は、真空管の発明以前で多重通信技術は無く、
1回線につき1本の通信線が必要であったため、1本の電信電話柱に数十本の架線が張られて
いたのです。 何十本の電線にスズメがたくさん止まっている光景を覚えている人はもう
ほとんどいないかもしれません。
1883年には電力会社もでき、電信柱、電話柱、電気柱は、当時『 一定ノ法規ナク、専ラ
慣例ニ依リ 適宜ニ必要ノ土地及営造物ヲ使用シ、敢テ故障ナク円滑迅速ニ処理 』されて
いたようです。
いよいよ本題に入ります。 ウイキペディアによれば、
『電柱の存在は欧米の都市部では一般的ではない。パリやロンドンでは電線の地中化が100%
となっており 完了している。また、ニューヨークでは約70%が地中化されている。』 とあり、
国交省のグラフを見ても、日本は圧倒的に遅れていることが分かります。
主要都市の無電中華率 (国土交通省HPより)
19世紀末のイギリス・ロンドンでは、ガス、電気による街燈建設が重要事業の一つであっ
たそうですが、ガスは地中、電気は架線ではコスト的に公正な競争とならないことから、
どちらも地中化が義務付けられた、とあり、アメリカ・マンハッタンの場合では、架空電線
が裸線だったため、人が触れて感電死する悲惨な事故が続発したことで地中化が実現した
などとそれぞれの事情があったそうです。
私がかって、ロンドンに出張で訪れた時、目的は、新しい技術の討論でしたが、ついでに
街中を歩いて(目視ですが)調べたら、ビル(建物)の裏側の適当なところに、添架(電線
が張られている)されているのを発見したことがあります。
表通りは、電線はありませんが、建物の裏側に電線が張られていたのです。 木造の凸凹
ではなく、コンクリートの同じような建物ですから、こんな芸当ができたのだと思います。
しかし、上のグラフでは、総ケーブル延長に対する比率と“断り”がありますから、100%
完全に地中化されているということなんですが、ちょっと腑に落ちないところが残っていま
す。本当なのか?
実は日本でも、配電線の地中化が試みられたそうです。明治44年(1911年)ころだといわ
れていますが、その後、大正9年(1920年)には、東京市長に就任した後藤新平が無電柱化に
熱心だったそうで、昭和初期の東京の一部では、電柱・電線がなくすっきりとした景観が見
られた とありました。
しかし、戦後、復興のために低コストで実現できる電柱方式が電気・電話とも採用され、
その後も高度成長期に入り、急激に拡大する需要に対処するため電柱を立てて架空線による
方式が一般化していったのです。
2016年の東京都知事選で、「無電柱化」を公約に掲げた小池知事は、2017年に「都道での
電力、通信会社などの関係事業者による電柱や電線の新設禁止」や、「都と関係事業者は、
コスト削減のために技術開発を行う」などを骨子とした、都道府県初の「東京都無電柱化
推進条例」が施行され、法的な整備も整ってきています。また、「電柱の設置料金(占用料)
を10倍に上げることが一番の早道だ」などと指摘する御仁も出ているとか。
実際、コストダウンを図る施策は、いろいろと講じられています。車道、歩道とも埋設
深度を浅くしたり、電力と通信のケーブルを同じ側溝状のボックスに入れて埋めるようにする、
埋戻しの際に発泡スチロール状の部材を使用して工期の短縮が図られたりと工夫が凝らされ
ています。
一方、経産省では、今回の台風による倒壊を受けて、鉄塔、電柱の基準強度の見直しが検
討されるなどの対策も打ち出されていました。