昨日の最低気温が都心部で、なんと30.6℃と報じられていたが、これって、最低気温?
といいたくなる数字ですよね。 暑い暑いといってみたところで仕方のないことですが、道を歩いていて感じる
“この凄いエネルギー” が無駄に、というか害的に強制される自然の理不尽さをつくづく恨めしく思われるこの頃ですね。
いつものように、友人のH氏からの配送記事から情報として、ここに転載させていただきました。
まさしくその通りで、当たり前?かも知れませんが、そのことが基本として大事なことなんですね。
以下をご覧ください。
************************
文藝春秋 2013年08月号 p206-218
「日本再生の鍵はアジアにあり (1)マレーシア編
マハティールから日本への忠告」 江上 剛(作家)
【要旨】急成長するアジアの新興国市場を、日本はどのように自らの再生に結びつけていくかを探る
連載「江上剛のアジアビジネス最前線」の第1回。
「マレーシア編」の本記事では、マハティール元首相や、日本の現地法人などへの直接取材を敢行し、
マレーシアの国家戦略や日本企業の現地ビジネス、市場の動向などについて、日本ではあまり知られていない
現状も含め明らかにしている。
かつて「ルック・イースト」政策のもと日本を手本にしてきた同国だが、いまや中東も視野に入れたアジア全体の動向を見すえている。
日本や日本企業は、新たなビジネスモデルを模索する必要に迫られているのだ。
筆者は、元銀行員のキャリアを生かし、金融小説、経済小説の分野で多数の著作を発表している。
代表作に『非情銀行』(新潮文庫)、『腐蝕の王国』(小学館文庫)など。
------------------------------------------------------------
日本経済は依然として伸び悩み、いまだ明るい展望が見いだせない。
そのためか「成長するアジア市場を取り込め」という声が以前よりも大きくなってきているように感じられる。
しかし私は、こうした国を挙げての前のめりの姿勢に、すこし危うさを感じている。自らの利益だけを求め
アジアに押し寄せるのでは、かつて資源を求めて侵攻した日本軍と同じだ。それでは相手に歓迎されないだろう。
日本はどうすればいいのか。それを知るために、マレーシアを訪れた。
マレーシアの首都クアラルンプールにそびえる、ペトロナス・ツイン・タワーの86階にあがると、穏やかな
微笑みをたたえた男が迎えてくれた。彼こそが1981年から2003年の22年間にわたってマレーシアの
経済発展を主導した人物。マハティール・ビン・モハマド。マレーシア第4代首相である。
マハティール元首相が日本で知られているのは、彼が提唱した「ルック・イースト政策」のためだ。
「日本を見習え」という政策は私たち日本人に誇りと勇気を与えた。
私が「日本人は、あなたの言う“イースト”とは日本のことだと思っています。しかし最近は韓国や中国も
入っているようですね」と質問すると、マハティール氏は表情を変えることなく答えた。
「1982年にこの政策を打ち出したとき、日本は最高のモデルだったし、この政策への対応もよかった。
そこでまず日本へ焦点をあてたが、韓国、台湾ともよい関係を築きたいという意向は、当初からあった」。
低迷している国は、もはや注目に値しないということなのだろうか。いや、アジア各国は発展するために必死で
パートナーを探している。「日本」というブランドがいつまでも通用する世界ではないのだ。
思えば「ルック・イースト」政策が掲げられた時代は、日本もマレーシアも幸せだった。新興国の労働力を
日本よりも低い賃金で活用し、安価で品質の良い製品をつくって世界へ輸出する。こうしたビジネスモデルが
通用していた時代、日本は繁栄を謳歌できた。
じつはマレーシアも厳しい状況にある。「中進国の罠」という言葉をご存じだろうか。低賃金の労働力を活かして
経済成長を遂げた国が、賃金が上昇したことによって、それまでの成長路線が通用しなくなり、経済成長が
停滞してしまう現象を指している。マレーシアの人件費をみると、社会保障などを合わせた賃金の実質負担額が、
製造業の作業員でみると年間 6,340ドル。管理部門の社員では31,000ドル。これは中国やタイ、ベトナムなどより高い。
これでは、従来のビジネスモデルでは、マレーシアへ新たに進出するメリットは見つけにくい。
この従来型のビジネスモデルでは将来、確実に行き詰まることになる。いずれ、どの新興国でも人件費は上昇する。
いまこそ日本は、マレーシアのような賃金の上がった国とともに発展するビジネスモデルを考えなければならないのだ。
ペトロナス・ツイン・タワーの下層階は、「スリアKLCC」という巨大なショッピングセンターだ。各フロアには、
東京のように欧米各国の高級ブランドがずらり。ザラ、ギャップ、ユニクロなどの、カジュアルな店もある。
マレーシアで最も先端をいくエリアといっていいだろう。
いま、アジアの上位中間層の購買力は日本人と変わらない。マレーシアの若い人たちは、日本の同世代よりも、
もっと欲望に忠実だ。日本は、インフラや産業面では、アジアに対して一日の長はあるが、物欲や消費欲などに関しては、
完全に後塵を拝しているように感じた。
マレーシアで4店舗を運営しているイセタン・オブ・ジャパンの湯谷信治社長に、ツイン・タワーの下にある
KLCC店で話をきいた。いま伊勢丹の中心顧客層は40代以上の裕福な中華系だが、湯谷氏は今後、
メインとなってくる30代以下を見すえている。「海外の大学へ留学経験がある人も多く、欧米の文化が生活に
入り込んでいるし、感度も高い。食品はこの世代向けが好調なのですが、ファッションはこれからです。
ただ単に日本のブランドをそのまま持ってきても難しい。欧米のトレンドを日本経由で持ちこみ、彼らの買える価格で
提供できればチャンスはあると思っています」
日本文化を売ろうとしているデパートが、欧米文化と地元文化にはさまれて苦しむなか、がっちりと地元の顧客を
つかんでいるのがイオンだ。イオン成功の理由は、徹底的にマレーシアの消費者に寄り添ったこと。
その姿勢は店舗づくりにあらわれている。この国では民族ごとに住む地域が異なるが、マレー系住民の多い地域なら、
イスラムの教えに配慮して、アルコール売り場を小さくし、衣料品も体の線が出ないデザインを増やす。
新規に開店するときは、予定地周辺の家庭をマレーシア人社員が訪問して、細かくリサーチするという。
イオンは商品構成や人材など、様ざまなものをローカル化して成功を収めている。しかしそれだけではない。
「お客様第一」という日本の文化が成功につながっているように思える。日本風の丁寧な接客は、同社の重要な
武器になっているようだ。ローカル化に徹しつつ、日本文化で売る。これがイオンの成功から学ぶ教訓であろう。
マレーシアで取材していくと、これまで日本にはあまり伝わってこなかったマハティール氏の壮大な戦略が見えてきた。
彼は「ルック・イースト」策を掲げる一方で、“ウエスト”、西に位置する中東などのイスラム圏も見すえていたのだ。
明治大学の鳥居高教授は、こう指摘する。
「マハティール政権は、マレー系マレーシア人社会のアイデンティティ強化のひとつの柱として、イスラームの価値を
重視しました。しかも、それを国の経済開発の目標と結びつけようとしたのです」
彼のイスラム重視戦略の一つが「イスラム金融ハブ(中枢)」戦略だ。
この「イスラム金融」とは何なのか。専門家の国際協力銀行・吉田悦章氏に聞いた。
「端的にいえば『イスラムの教義にかなった金融』です。コーランでは利息が禁じられているため、取引で
金利の概念は用いません。同じくコーランの教えにしたがい、豚肉やアルコール、賭博、ポルノといった事業との関係も禁止されます」
このイスラム金融に最も積極的な日本の金融機関が、三菱東京 UFJ銀行だ。
「一度、イスラム金融の世界に触れると、その大きさに気がつきます。まだコンベンション(一般的な金融)市場の
1%の規模ですが、成長率は年16%です。マレーシア政府はフレームワークを作るのが早くてうまいので、
いま中東各国がマレーシアを見習っている状況です」と、マレーシア三菱東京 UFJ銀行頭取の中村正人氏は評する。
昨年、同行はブルネイの LNG輸送船の建造プロジェクトのファイナンス(融資)をイスラム金融方式で
まとめたところ、マレーシアの金融専門誌に表彰された。
マレーシアで私は、いくつもの「ゲートウェイ」を見た。いずれもゲートの先には広大な可能性が開けているが、
日本にいては見えないものばかりだった。私たちは国の中に引きこもらないで、もっとアジアの中に入らないと、
成長への道を見つけることはできないのではないだろうか。
私たちは、ともすると「アジアと日本」と言い、無意識のうちに、日本をアジアと切り離してしまう。
これから求められるのは「アジアの日本」として、異なる民族、宗教、文化、習慣の人たちと、ともに走ることだ。
コメント: 海外に進出する日本企業が、イオンのように、日本特有の美徳を生かしながら効果的なローカライズを
進めるためには、現地のいまの状況を深く理解するとともに、自社のコアバリューを明確にして従業員に浸透させること
が必要なのだろう。
それは、イオンでいえば「お客様第一」のような、全世界どこにいっても通用する普遍的なものであるべき。
根と幹をどっしりとさせたうえで、環境に応じて枝葉を変えていけば、存在感を示す大木になることができるはず。
一方的な「進出」ではなく、変わらぬ“コア”と現地特有の条件との「融合」をキーワードとして考えるべきなのかもしれない。
Copyright:株式会社情報工場