友人が定期便として送って下さる記事「情報工場」の丸ごと転載です。
このような発想をしている人たちもいるのですね。建設的~?
エコノミスト誌 2011.4.30 ~5.06号から・・・
The Economist 2011/04-30 & 05-06号 p66
300ドルのアイデアには無限の価値 ビジネスの知恵を結集しよう
(A $300 idea that is priceless - Applying the world's
business brains to housing the poor)
【要旨】世界中の貧しい人たちに、 300ドルで手に入る家を、知恵を集めて
実現すべきだとする1つのブログがいま知識人の間で大きな反響を呼んでい
る。世界の貧困者数は 8億2,700万人にものぼる。このままでは2030年に、
その数は倍増すると国連では試算している。
貧困から脱出させるには、まず住居から改善すべきだという考えである。
どうすれば 300ドルで1軒の家を提供できるか。1日1ドルか2ドルで暮ら
す人たちにとっては 300ドルでも手の届かぬ大金である。一方、先進国市場
の成熟で将来の発展が期待できなくなった大企業は、いまピラミッドの底辺
をなすこの貧困者市場への関心を高めている。
------------------------------------------------------------
Friedrich Engelsは、1884年に書いた本『The Condition of the Working Class in England』の中で、マンチェスターのスラム街Angel Meadow地区を
見て、「地上の地獄」と呼ぶにふさわしいひどい場所だと表現した。今日で
も、世界のいたるところに同様の光景が見られる。2010年、国連は、全世界
でスラム街に暮らす人は 8億2,700万人にものぼると試算した。この数は
Engelsの時代の世界人口に匹敵する。そして、2030年にはその数は倍増する
とみているのである。
昨年、Dartmouth大学Tuck School of BusinessのVijay Govindarajan氏は、
マーケティングの専門家Christian Sarkar氏と一緒に、Harvard Business
Reviewのブログに、挑戦的な一文を載せた。その内容は、世界には超優秀な
ビジネス界の頭脳が集っているのに、なぜ貧困者の生活を救う方法を考えな
いのかというものだった。まずもっと住まいらしいしっかりした家を与える
べきだというのである。頑丈な材料を使い、敵から身を守れるようなもので
なければならない。水の浄化装置や太陽光発電の装置なども設備されるのが
望ましい。ニーズに応じて柔軟性も必要だが、価格は 300ドル以上であって
はならないという条件をつけた。
300ドルというのは注目されることを計算してつけられた値段だが、根拠
があるとすれば、Grameen Bankを創立したMuhammad Yunus氏が、貧困から脱
出するときの住宅の平均価格が 370ドルだったとしたことが参考にされてい
るのかもしれない。
インドのTata Motorsが、1台約 2,200ドルの自動車Tata Nanoを開発した
のも、ただ安い車を作るというだけでなく、同様の狙いによるものだった。
注目されることを狙ったGovindarajan氏の意図どおり、このブログは賛成
意見を巻き起こした。300house.comというウェブサイトも作られた。世界中
から 900人もの熱心なアドバイザーがここに集ったのである。4月20日、
Govindarajan氏は、このような住宅のプロトタイプ設計を公募した。
なぜたった一つのブログ投稿がこれほどまでの反響を呼んだのか。明らか
な理由は、「倹約精神のイノベーション」の時代を反映しているといえよう。
徹底した安いコストで最高の価値を持つものを作ろうという動きである。
General Electricは、2,000ドルもしていた心電図をわずか400ドルででき
るようにした。Tata Chemicalsは、1世帯が1年間に使う飲み水の浄化装置
をわずか24ドルで売り出した。
もう1つの理由は、住宅が貧困から脱出するための有効なツールになると
いうことにあった。貧しい建物は問題を多く生む。適切な衛生や換気の装置
がないため、病気が蔓延しやすい。子供たちは明かりがないため勉強をせず、
それが貧困を継続させる。粗末で燃えやすい家は安全性が低い。
Govindarajan氏のアイデアは、住宅を照明、換気、衛生といった観点を重
視するエコシステムであるという点が力を発揮した。
このような問題解決のためにすでに多くの試みがなされている。Habitat
for HumanityというNGOは、ネパールで竹を材料にしたしっかりした家を作っ
ている。コンサルティングのIdealabでは、工場で生産する組み立て式の住
宅を開発している。1軒の家が 2,500ドルで手に入る。照明、換気、衛生も
設備されている。 Philipsは、値段が安く、すすが出ないクッキング・スト
ーブChulha(かまどのようなもの)を売り出した。煤煙が原因で死ぬ人は世
界中で年間160万人にのぼる。Solar Electric Light Fundは、灯油やローソ
クと同じ程度の値段で手に入る太陽エネルギーを提供している。
300ドル住宅を考案するには、3つの問題をクリアしなければならない。
コストを下げるには量産が必要なことから大企業の協力無しにはできないこ
と。小額融資の制度が準備されていること。1日2、3ドルで暮らしている
人たちにとって 300ドルは途方もない大金である。またスラムで生活する人
たちは何の所有権も持たない。安い家が手に入るとしても、身分証明になる
ものも、家を建てる土地もないのである。これらの問題を解決するには、企
業、NGO、設計者、新興国政府など、幅広い協力関係が不可欠である。
しかし、いま心強いのは、新興国にやればできるという信念が芽生えてい
ることだ。同様の精神は1940年代の後半に起こり、アメリカで住宅の大量生
産が始まったという歴史的な先行事例がある。
新興国政府は就労の保証を実現し、スラムを解放するプロジェクトに着手
している。先進国の成熟市場ではもはや多くを望めないとみた大企業は、ピ
ラミッドの底辺をなす潜在大市場に期待を寄せる。Idealabの Bill Gross氏
は、低額住宅市場は少なく見積もっても 4,240億ドルの規模になるとみる。
市場価値もさることながら、この地球からスラムがなくなるという現実的な
価値はそれよりもはるかに大きいといえよう。
コメント: いま人類は拡大・繁栄を求めてきた流れを変えようとしている。
資源の浪費や贅沢をなくして、もっと人間らしく質素に生きることを考え始
めたといえよう。東日本大震災が、日本だけでなく、世界にむけて新しい生
き方を示すものになれば、不幸を幸いに転じることになるかもしれない。
Copyright:株式会社情報工場
曲は、マイ・ショール ザビア・クガート楽団
軽快なラテン音楽をもう一曲 (mak)
Roberto Delgado and His Orchetra Amapola
このような発想をしている人たちもいるのですね。建設的~?
エコノミスト誌 2011.4.30 ~5.06号から・・・
The Economist 2011/04-30 & 05-06号 p66
300ドルのアイデアには無限の価値 ビジネスの知恵を結集しよう
(A $300 idea that is priceless - Applying the world's
business brains to housing the poor)
【要旨】世界中の貧しい人たちに、 300ドルで手に入る家を、知恵を集めて
実現すべきだとする1つのブログがいま知識人の間で大きな反響を呼んでい
る。世界の貧困者数は 8億2,700万人にものぼる。このままでは2030年に、
その数は倍増すると国連では試算している。
貧困から脱出させるには、まず住居から改善すべきだという考えである。
どうすれば 300ドルで1軒の家を提供できるか。1日1ドルか2ドルで暮ら
す人たちにとっては 300ドルでも手の届かぬ大金である。一方、先進国市場
の成熟で将来の発展が期待できなくなった大企業は、いまピラミッドの底辺
をなすこの貧困者市場への関心を高めている。
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Friedrich Engelsは、1884年に書いた本『The Condition of the Working Class in England』の中で、マンチェスターのスラム街Angel Meadow地区を
見て、「地上の地獄」と呼ぶにふさわしいひどい場所だと表現した。今日で
も、世界のいたるところに同様の光景が見られる。2010年、国連は、全世界
でスラム街に暮らす人は 8億2,700万人にものぼると試算した。この数は
Engelsの時代の世界人口に匹敵する。そして、2030年にはその数は倍増する
とみているのである。
昨年、Dartmouth大学Tuck School of BusinessのVijay Govindarajan氏は、
マーケティングの専門家Christian Sarkar氏と一緒に、Harvard Business
Reviewのブログに、挑戦的な一文を載せた。その内容は、世界には超優秀な
ビジネス界の頭脳が集っているのに、なぜ貧困者の生活を救う方法を考えな
いのかというものだった。まずもっと住まいらしいしっかりした家を与える
べきだというのである。頑丈な材料を使い、敵から身を守れるようなもので
なければならない。水の浄化装置や太陽光発電の装置なども設備されるのが
望ましい。ニーズに応じて柔軟性も必要だが、価格は 300ドル以上であって
はならないという条件をつけた。
300ドルというのは注目されることを計算してつけられた値段だが、根拠
があるとすれば、Grameen Bankを創立したMuhammad Yunus氏が、貧困から脱
出するときの住宅の平均価格が 370ドルだったとしたことが参考にされてい
るのかもしれない。
インドのTata Motorsが、1台約 2,200ドルの自動車Tata Nanoを開発した
のも、ただ安い車を作るというだけでなく、同様の狙いによるものだった。
注目されることを狙ったGovindarajan氏の意図どおり、このブログは賛成
意見を巻き起こした。300house.comというウェブサイトも作られた。世界中
から 900人もの熱心なアドバイザーがここに集ったのである。4月20日、
Govindarajan氏は、このような住宅のプロトタイプ設計を公募した。
なぜたった一つのブログ投稿がこれほどまでの反響を呼んだのか。明らか
な理由は、「倹約精神のイノベーション」の時代を反映しているといえよう。
徹底した安いコストで最高の価値を持つものを作ろうという動きである。
General Electricは、2,000ドルもしていた心電図をわずか400ドルででき
るようにした。Tata Chemicalsは、1世帯が1年間に使う飲み水の浄化装置
をわずか24ドルで売り出した。
もう1つの理由は、住宅が貧困から脱出するための有効なツールになると
いうことにあった。貧しい建物は問題を多く生む。適切な衛生や換気の装置
がないため、病気が蔓延しやすい。子供たちは明かりがないため勉強をせず、
それが貧困を継続させる。粗末で燃えやすい家は安全性が低い。
Govindarajan氏のアイデアは、住宅を照明、換気、衛生といった観点を重
視するエコシステムであるという点が力を発揮した。
このような問題解決のためにすでに多くの試みがなされている。Habitat
for HumanityというNGOは、ネパールで竹を材料にしたしっかりした家を作っ
ている。コンサルティングのIdealabでは、工場で生産する組み立て式の住
宅を開発している。1軒の家が 2,500ドルで手に入る。照明、換気、衛生も
設備されている。 Philipsは、値段が安く、すすが出ないクッキング・スト
ーブChulha(かまどのようなもの)を売り出した。煤煙が原因で死ぬ人は世
界中で年間160万人にのぼる。Solar Electric Light Fundは、灯油やローソ
クと同じ程度の値段で手に入る太陽エネルギーを提供している。
300ドル住宅を考案するには、3つの問題をクリアしなければならない。
コストを下げるには量産が必要なことから大企業の協力無しにはできないこ
と。小額融資の制度が準備されていること。1日2、3ドルで暮らしている
人たちにとって 300ドルは途方もない大金である。またスラムで生活する人
たちは何の所有権も持たない。安い家が手に入るとしても、身分証明になる
ものも、家を建てる土地もないのである。これらの問題を解決するには、企
業、NGO、設計者、新興国政府など、幅広い協力関係が不可欠である。
しかし、いま心強いのは、新興国にやればできるという信念が芽生えてい
ることだ。同様の精神は1940年代の後半に起こり、アメリカで住宅の大量生
産が始まったという歴史的な先行事例がある。
新興国政府は就労の保証を実現し、スラムを解放するプロジェクトに着手
している。先進国の成熟市場ではもはや多くを望めないとみた大企業は、ピ
ラミッドの底辺をなす潜在大市場に期待を寄せる。Idealabの Bill Gross氏
は、低額住宅市場は少なく見積もっても 4,240億ドルの規模になるとみる。
市場価値もさることながら、この地球からスラムがなくなるという現実的な
価値はそれよりもはるかに大きいといえよう。
コメント: いま人類は拡大・繁栄を求めてきた流れを変えようとしている。
資源の浪費や贅沢をなくして、もっと人間らしく質素に生きることを考え始
めたといえよう。東日本大震災が、日本だけでなく、世界にむけて新しい生
き方を示すものになれば、不幸を幸いに転じることになるかもしれない。
Copyright:株式会社情報工場
曲は、マイ・ショール ザビア・クガート楽団
軽快なラテン音楽をもう一曲 (mak)
Roberto Delgado and His Orchetra Amapola