ザラダンは消えなかった。
正確に言えば、ザラダン「だった」魔法使いは確かに消滅した。
その代わり、「銀の門」があった場所から湧き出た黒い煙が
ザラダンを覆って混ざり合い、一つの形を取り始めた。
雄牛のように見えるその顔は、冥府の魔王。
魔法使いと戦士が戦う伝承歌で知っている、そのままの姿だった。
考えれば、自明の話だった。
異界に潜むというなら、その地に住まう者と契約する必要がある。
「銀の門」が壊れた時、この魔王が召喚される仕組みだったのだ。
たちまち一帯は、甚大な瘴気に包み込まれた。
猛烈な悪臭に吐き気がした。
全身に痛みが走り、立てない。目も開けていられなくなった。
まるで、体中を内側から、無数の太い杭で貫かれているようだった。
これも当然。今の俺の身体は魔術で創られている以上、影響を受ける。
言わば、魔力が体内で暴走している状態だ。
何らかの方法で鎮めなければ命も危ない。
……待て。なぜ俺は、そんな事を知っている?
さっきのザラダンの呪文もそうだ。
あれがどんな術なのかを詳しく承知していた理由は?
思い出せ。恐らく俺は、一番大事な事を忘れている。
未だ喋るのを拒む自分、莫大な魔力、呪文の知識。
駄目だ、バラバラな言葉がつながらない。
意識を保ち続ける事自体が、もう限界だった。
正確に言えば、ザラダン「だった」魔法使いは確かに消滅した。
その代わり、「銀の門」があった場所から湧き出た黒い煙が
ザラダンを覆って混ざり合い、一つの形を取り始めた。
雄牛のように見えるその顔は、冥府の魔王。
魔法使いと戦士が戦う伝承歌で知っている、そのままの姿だった。
考えれば、自明の話だった。
異界に潜むというなら、その地に住まう者と契約する必要がある。
「銀の門」が壊れた時、この魔王が召喚される仕組みだったのだ。
たちまち一帯は、甚大な瘴気に包み込まれた。
猛烈な悪臭に吐き気がした。
全身に痛みが走り、立てない。目も開けていられなくなった。
まるで、体中を内側から、無数の太い杭で貫かれているようだった。
これも当然。今の俺の身体は魔術で創られている以上、影響を受ける。
言わば、魔力が体内で暴走している状態だ。
何らかの方法で鎮めなければ命も危ない。
……待て。なぜ俺は、そんな事を知っている?
さっきのザラダンの呪文もそうだ。
あれがどんな術なのかを詳しく承知していた理由は?
思い出せ。恐らく俺は、一番大事な事を忘れている。
未だ喋るのを拒む自分、莫大な魔力、呪文の知識。
駄目だ、バラバラな言葉がつながらない。
意識を保ち続ける事自体が、もう限界だった。