「おや、まだ分からないのか。ライアン。
そもそも、その姿を与えられなければ、お前は生きる事も
ままならなかったというのに。
あの時、私はお前に敬意を表して、全霊をかけてマランハの力を注いだ。
その成果が今のお前だ」
ザラダンは再び微笑んだ。慈愛に満ちた穏やかな顔だった。
「私は長年、マランハの実験を繰り返していた。
最初は小動物から始め、ついに高等生物、人間に至った。
人間を、より上位の超人へ進化させる事が、私の最終目標だ。
その最初の成功例が、お前と、お前の部下たちだった!」
違う。アイツらは部下なんかじゃない。
一人で戦おうとする俺に付いてきてくれた、大切な仲間だ。
首を回して、部屋を見た。ベッド、タンスの服、机、望遠鏡。
俺はコレを使っていた。この自分の部屋で。あの日も、当たり前に。
「ほう、この部屋も思い出したか?
掃除をしていなくて申し訳ないが、あの時のままにしておきたくてね」
そうだ。こうしてザラダンと対峙していた、あの時から変わっていない。
「ただ残念ながら、お前の部下たちは、お前と違い、
試練に耐えられなかった。
例えばハニカスの部屋にいたオーク達は、そう、お前はリジーと
バーゴンと呼んでいたな。彼らは、望ましい進化に至れなかった。
もっとも、私と戦わずに船から逃げた臆病者よりはマシだが。
あの子連れの冒険者の、リチャードの味はどうだったかね?」