ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

中井久夫『隣の病い』2010・ちくま学芸文庫-ていねいで温かな精神科医に学ぶ

2023年07月10日 | 精神科臨床に学ぶ

 2019年のブログです

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 中井久夫さんの『隣の病い』(2010・ちくま学芸文庫)を再読しました。

 これもかなり久しぶりの再読。

 付箋とアンダーラインがすごいことになっているので、少し整理をしながら、しかし、またたくさんの印をつけながら、読みました。

 例によって、今回、印象に残ったことを一つ、二つ。

 一つめは、統合失調症の患者さんの幻覚妄想について。

 患者さんにとって、幻覚妄想はたいへんな症状ですが、しかし、発病時の表現しがたいような恐怖体験に比べれば、幻覚妄想は言語化と視覚化がなされているので、まだ耐えられやすいかもしれない、という理解をされます。卓見だと思います。

 二つめは、以下の文章。

 「いかにデータとして欲しくても、患者さんにとって意味のないことはしない」

 すごいです。当たり前のことなのですが、大学教授の言葉として、すごいと思います。

 三つめは、河合隼雄さんとの出会いの思い出。

 1969年11月の芸術療法研究会(今の芸術療法学会)に中井さんが顔を出したところ、河合隼雄さんが、当時はまだ知られていなかった箱庭療法の症例について発表をされていて、そこで意気投合をされたということで、なかなか感動的です。

 中井さんは、これは使える、と考えて、さっそく病院で手作りの箱庭を作って、試してみられたそうで、その熱意と研究心がすごいです。

 さらに、そこから中井さんの有名な風景構成法にも発展をしたといいますから、お二人の出会いは本当にすばらしいものだったと思いますし、お二人の熱意と探求心はすごいと思います。

 読んでいて、なんだかこちらにまで勇気をもらえるような、そんな気がしました。

 いい本を再読できてよかったなと思います。       (2019. 11 記)

 

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石井次雄『拓北農兵隊-戦災集団疎開者が辿った苦闘の記録』2019・旬報社-なつぞら・天陽くんの苦労を想う

2023年07月10日 | 北海道を読む

 2019年秋のブログです

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 石井次雄さんの『拓北農兵隊-戦災集団疎開者が辿った苦闘の記録』(2019・旬報社)を読みました。

 拓北農兵隊、あの天陽くん一家が十勝で苦労をした開拓団。

 そして、開高健さんの『ロビンソンの末裔』にも描かれています。

 本書を読むと、時の政府やお役人のいいかげんさと現地の困惑ぶり、その中でたいへんな苦労を強いられた人々の姿がよくわかります。

 著者自身も北海道の長沼町というところに開拓に入って、苦労をされたかた。その筆は重いです。

 感情に流されずに、たくさんの貴重な資料や書物をもとに、冷静に、客観的に、この農業政策の無謀さと無責任さを描き出しています。

 立案者には戦後、政治家や企業家になるかたもいますが、おそらくはきちんとした総括はなされていないでしょう。

 ましてや、組織の一員だったそれぞれのお役人の無責任さも追及されていないのだろうと思います。

 組織と官僚制、無責任体制の問題は今も大きな課題ですが、戦前はもっともっとたいへんだったと思います。

 その犠牲者、そして戦争を起こした軍人たちや政治家たちの犠牲となったのが、この開拓団だったといっても過言ではないのかもしれません。

 その体験は過酷で、簡単には読み進めません。二度と同じようなことが起こらないことを願うばかりです。

 なお、本書で引用されている書物の中には、じーじがすでに読んだことのあるものもあったのですが、拓北農兵隊のことだと気づかずに読み流していたものもあり、さらにきちんと読む必要があるな、と反省をさせられました。

 さらに勉強をしていこうと思います。 (2019.9 記)

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 2021年10月の追記です

 児童文学作家の加藤多一さんのエッセイ『北に行く川』(1990・北海道新聞社)を再読していたら、滝上町の拓北農兵隊の記述に出会いました。読み落としていました。まだまだ勉強不足です。 (2021.10 記)

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 2021年12月の追記です

 菊地恵一『もうひとつの知床-戦後開拓ものがたり』(2005・北海道新聞社)を再読していると、知床の拓北農兵隊の記述がありました。これも読み落としです。もっともっと勉強をしなければなりません。 (2021.12 記)

 

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