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安倍官邸が総務省に圧力をかけて放送法4条1項2号の解釈を変えさせ、放送局の番組全体から判断するのではなく一つの番組の内容からでも、政治的公平性が判断され、総務大臣はその放送局を電波停止処分にできるとした問題。
この放送法第4条1項の
放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない
一 公安及び善良な風俗を害しないこと
二 政治的に公平であること
三 報道は事実をまげないですること
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
という条文が、実は法的義務を生じる法的規範ではなく、単なる倫理的義務を放送局に負わせるだけの倫理規範に過ぎず、電波法の電波停止や放送法の業務停止などの根拠にはならないというのが学会の通説だ、ということを昨日書きました。
そうでなかったら、放送法4条1項自体が憲法21条1項の表現の自由・報道の自由を侵害するので違憲無効になってしまいます。
是枝監督は作品も識見も本当に素晴らしい。
放送法4条1項2号が定める「政治的公平」規定は倫理規範に過ぎず、その違反をもって総務大臣が放送局を電波停止や業務停止にすることはそもそもできないというのが学会の通説。安倍政権の悪の遺産に騙されるな。
このことは、放送法が1959年に改正された当時、当時担当大臣だった田中角栄郵政相も認めていました。
すなわち、田中郵政相は放送法4条について
「準則および番組審議機関を設けて、放送事業者の自律によって番組の適正をはかる」
「その順守は公衆の批判に任せる」
と答弁しているんですね。
つまり、放送法4条1項各号が定める番組編集準則は放送局が自主的・自律的に考慮すべき指標であり、それを放送局が守らない場合でも国が強制する法的義務でなく、視聴者が批判して守らせる倫理義務に過ぎないことを、田中大臣は明確に認めたんです。
以上の通り、放送法4条1項2号の「政治的公平」も、放送事業者の自主的責務である倫理規定にすぎないのです。
表現の自由と第三者機関 (小学館101新書)
「そもそも、政治的公平に関するこの規定(注 放送法4条1項2号のこと)は、当初は選挙放送に関して定められたものであり、かつNHKに関する規定であった。それが、「番組準則」のなかに盛り込まれ、民放の出現後も、ほとんど議論もなく番組の一般原則となったものであり、違憲性の疑いのある規定である。」
「かりに規定自身は憲法に違反しないとしても、それを根拠に放送局が処分の対象になるとすれば、違憲の疑いが極めて濃いため、この規定は、あくまで放送局に対する倫理的義務を定めたもの、とするのが通説となっている」
なぜ放送法4条は倫理規範なのか(どうして総務大臣の電波停止・業務停止は許されないのか)。
この解釈は政府でも維持されていたのですが、いわゆる椿事件で、自民党政権は「政治的公平」は法的義務であるという解釈に変更します。
ちなみに、椿発言とは1993年の総選挙で自民党が過半数割れをしていわゆる「55年体制」が崩壊し、非自民の細川政権が誕生した際に、テレビ朝日の椿貞良報道局長がニュースステーションなどの報道について
「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」
と発言したと産経新聞に報道され、政治的公平に反すると問題になったんですね。
この報道を受けて、当時の郵政省の江川晃正放送行政局長が緊急記者会見して、放送法4条1項2号に違反する事実があれば電波法第76条にもとづく電波停止もありうると言いだし、この時から政府は放送法4条1項は放送局の法的義務であり、電波停止もありうるという立場に変わったのです。
まあ、椿発言もたいがいですが、この解釈変更は自民党による自民党のための解釈変更だったのです。
放送の自由: その公共性を問う (岩波新書)
そして、この「政治的公平」を欠くか否かの判断は、その「放送局の番組全体を見て判断される」というのが郵政省→総務省の見解でした。
ところが、安保法案をゴリ押しして強行採決した安倍晋三首相や磯崎陽輔首相補佐官や高市早苗大臣がTBSやテレビ朝日の報道を不快に思い、特に磯崎氏はTBSの「サンデーモーニング」という番組を問題にしたため、総務省に対して
「一番組の内容」
だけでもその放送局が政治的公平性を欠くとして電波停止処分にできる、と解釈変更させたというのが、今回明るみに出た総務省文書なわけです。
それ自体が安倍政権の私利私欲で酷い話ですし、一番組の一回の内容だけでも放送局全体の電波を止める可能性があるとなったので、それはそれはテレビ局は萎縮することになりました。
逆に、フジテレビの番組の安保法案特番では安倍首相が出演して安保法案の必要性と正当性を強調して、他の出演者は特に批判を述べるわけでもなく聞いていたなどということもあったのに、そちらはまるで問題にされないのですから、政治的公平という基準がいかに権力に都合よく、いい加減なものかがわかります。
放送法に関する最高裁判決と通説の通りだ→BPO委員長、首相らの批判に反論 政治介入に「NO」。
しかし、そもそも放送法4条1項の規定ができた時から政府もこれは倫理規範に過ぎず、電波停止などの根拠になるわけではないと認めていたのです。
そしてそれはなぜかというと、総務省が放送の中身を判断して「政治的に公平」でないと判断したら、電波を停止できるだなんて、放送局の報道の自由や視聴者の知る権利という基本的人権を侵害して違憲に決まっているからです。
先に見た田中角栄大臣の
「準則および番組審議機関を設けて、放送事業者の自律によって番組の適正をはかる」
という趣旨に則ってNHKと民放連が自主的につくったBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が2007年に出した決定第1号にこういう下りがあります。
『日本の放送界は、放送法と電波法によって直接に行政の監理下に置かれ、折々に行政指導を受ける、という特殊な環境にある。欧米民主主義国などではどこも、政府から相当程度独立した規制機関が設置されているが、日本の場合、ロシア、中国、北朝鮮などと同様、公権力を監視すべき放送メディアが、公権力によってじかに監理監督される、という状態がつづいている。こうしたいびつな状態を是正していくためにも、放送界がみずからを律し、多様・多彩な放送活動を通じて、視聴者から信頼され、支持されることがますます大切になる。』
安倍政権下で安倍首相や高市総務相や磯崎首相補佐官がやったことは、日本をさらにロシア・中国・北朝鮮化する暴挙でした。
放送法4条1項2号の「政治的公平」は放送局の法的義務ではなく倫理的な義務に過ぎず、政府がこれを放送局に押し付けることはできないこと。
総務省など政府がこれを根拠に放送局に行政指導やまして電波停止処分などをすることはできないのだということを、私たち市民がよくよく肝に銘じなければならないのです。
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かつて安保法案に反対する放送局は電波停止処分と言った高市早苗大臣が、放送法の解釈を変更するやり取りを記載した総務省内部文書が捏造でなければ「辞職」と言った!
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かように権力に濫用される危険性のある放送法4条に存在価値があるとすれば、それは私たち視聴者が放送局の政治的公平について「その順守は公衆の批判に任せる」という趣旨にのっとって、NHKや民放を監視していくための道具としてです。
政府寄りの情報ばかり垂れ流すテレビ局や、維新べったりの報道を繰り返す関西のテレビ局には、政治的に不公平だとどんどん文句を言っていかなければなりません。
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姑息で汚ない高市早苗が問題を捏造の有無に矮小化してますが、そもそもあの電波停止発言の時点で議員辞職が適切であったと思われます。
しかし、頭がワルくて腹黒い自民党の政治家が言う通り、個別の番組でも政治的中立を必ず確保しなければならない、というのを適用してみると面白いことになるかもです。
例えば、大阪のテレビ局がやったような「府知事と市長と黒幕にゲストで来ていただきましたー!」みたいな番組をやるときは、「個別の番組でも公平を保つため」、共産党や立憲の府議団長とか市議団長やらを必ず同数で呼び、しかも同じ尺を与えなければならない、となるでしょう。
或いは、どこかのテレビ局が「総理に聞く!」とかいうインタビュー番組を企画したとしたら、総理大臣のインタビューを全体の半分以下に抑え、同じ時間を泉さんだったり志位さんに与えて存分にしゃべってもらわねばなりません。
さらに、終わってしまって久しいですが、「笑っていいとも」のテレホンショッキングに安倍晋三を呼ぶなら、友達の友達として福島瑞穂あたりを同時に呼んで、タモリの横に並んで座ってもらわなくちゃ、ということになるでしょう。まあ、前後でもいいですけど。
アホか、と。