この会合の冒頭、江田氏は、3日前に枝野元代表が党内の消費減税派を批判し、離党を促すかのような発言をしたことについて、「大変残念な発言で、党是である多様性を尊重するという理念にも反しているし、政策論議を封殺しようというのは看過できない」と厳しく批判した。

同じ日には小沢一郎衆院議員も、枝野氏の発言について、「非常に失礼、無礼、傲慢(ごうまん)な印象を与える」と厳しく批判した。 

立憲民主党内では、財源なき減税に慎重な姿勢で議論の行方を見守るとする野田代表のもとで、深刻な亀裂が生じつつある。

なぜ消費税をめぐる議論は、ここまでの対立を呼び起こしたのだろうか。  

 

立憲は11日午後、夏の参院選の公約作りに向けて、経済政策に関する党内議論をスタートさせた。焦点となるのが、党内で求める声が勢いを増している消費税の減税だ。  

開催された財務金融部門会議・経済財政部門会議・税制調査会の合同会議は、約1時間半に及び、所属議員約40人が発言した。  

出席した議員によると、物価高に伴う経済対策としては、消費税の減税をめぐる議論が中心で、減税派が発言した数は慎重派の3~4倍にのぼったという。  

経済財政部門を取り仕切る馬淵元国交相は、記者団の取材に対し、「経済対策としての減税は強い要望があった。(一律で)5%の減税と、食料品ゼロ税率の話はかなり強めに出た」と明らかにした。一方で、「消費税の減税を安易に言うべきではない。社会保障の財源だ」といった慎重な意見も出たという。  

この会議の数時間前、記者会見に臨んだ野田代表は「議論がキックオフだと聞いている。議論の推移を注視していきたい」としたうえで、「虚心坦懐に党内の議論を受け止めていきたい」との考えを示した。  

さらに記者から、旧民主党政権で首相在任時に消費税率10%への道筋をつけた自身としての減税への考え方を問われると、「虚心坦懐に見ているという状況だ」と述べるにとどめた。  

一方で、野田氏は「物価高対策が依然として必要だという中では、1つの政策の方向性だ」との認識も示し、「精緻な議論をしてほしい」と求めた。  

消費税の減税をめぐっては、日本維新の会や国民民主党が物価高対策として実施を求めているのに対し、立憲は中低所得者の消費税負担の一部を税額控除と給付で軽減する「給付付き税額控除」を掲げている。  

この「給付付き税額控除」について、野田氏は「今も到達点だと思っている。一方で、今の経済情勢の中でそのままでよいのかどうかという議論を今している」と述べた。  

そのうえで、「給付付き税額控除を変えろという話はないと思う。逆進性対策としては軽減税率より正しいと思っている人が多い」との見方も示した。  

 こうした野田氏の発言について、野田氏に近い幹部は「党内の議論を見たうえで、必要であれば消費減税も柔軟に検討する考えを持っている」との見方を示す。
一方、別の幹部や関係者は「基本的に慎重な姿勢は変わっていないのではないか」と見ている。  

 

これまでに立憲では、江田元代表代行や吉田晴美衆院議員などの勉強会「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」のほか、末松衆院議員が会長を務める消費税率5%への引き下げを求める勉強会が発足している。そして、それぞれの勉強会が、参院選の公約への反映を目指し、執行部への提言を取りまとめるなど動きを活発化させている。  

野田氏に近い幹部は、「党として減税派にも配慮した方針を取りまとめなければ、党内が持たないのではないか」と苦しい胸の内を漏らす。  

しかし、こうした流れに待ったをかけたのが、立憲民主党を立ち上げた枝野元代表だ。
地元・さいたま市で12日に講演した枝野氏は、消費減税派を厳しく批判した。  

「税金だから誰だって安い方がよいに決まっているが、借金でやったらインフレになり、次の世代にツケを回すことになる。無責任なことを無責任に言ってはいけないというまっとうな有権者の皆さんの受け皿を、私は立憲民主党という名前で作ったつもりだ」  

さらに枝野氏は、党内の減税推進派を念頭に、語気を強めてこう言い切った。  

 「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作ってください」  

枝野氏の発言の背景には、かつて枝野氏が所属した旧民主党時代の苦い教訓があるのは間違いない。旧民主党はマニフェスト(政権公約)の中で、数多くの魅力的な政策を掲げ、政権交代を果たしたが、その後、財源問題に直面して苦しみ、政権を失った過去があるからだ。  

そして、枝野氏の「口撃」はこれにとどまらなかった。
枝野氏は、分かりにくいと指摘されることもある立憲の消費税負担軽減策「給付付き税額控除」について、「分かりにくいことを説明するのが政治家の仕事だ」と意義を強調し、「消費税分をキャッシュバックするのは分かりにくいから説明できないと、分かりやすい政策を取るなら政治家を辞めろ」と主張。 

そのうえで、2024年の党代表選挙で「給付付き税額控除」を主張した自身と野田氏が決選投票に残ったことを指摘し、「党として決着はついている」と強調した。  

さらに、枝野氏は「野田さんは同じ思いでいてくれるので、うちの党は大丈夫だと思うが、私はポピュリズムには走らない」と訴え、その理由としてアメリカの大統領選挙に言及し、「アメリカ人がみんなトランプ氏を応援したわけではない。日本はポピュリズムに走らない有権者がもっと多いと思う」との見方を示した。  

そして、ビジネスの世界で、競争の激しい既存市場「レッドオーシャン(赤い海)」に対し、競争のない未開拓市場を「ブルーオーシャン(青い海)」と呼ぶ概念があることをふまえ、こう訴えた。  

「その人たち(ポピュリズムに走らない人たち)の受け皿が1つぐらいなければ困るのではないか。逆にその受け皿になったら、ものすごいブルーオーシャンではないか。私は1人でもこのブルーオーシャンを取り込みたい」  

そのうえで、枝野氏は「減税を言っている人は諦めるか、別の党を作るか、どちらかだ」と迫ったのである。  

立憲の源流である旧民主党では、今回とは逆に、消費税の増税を引き金に分裂した歴史がある。野田氏が首相だった2012年、消費増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し、政権を失う大きな要因となった。  

枝野氏の発言に対し、党内からは「言い過ぎだ。党の分裂を誘発するつもりか」といった反発や、「政策ごとに党が分裂していたら、政権交代なんて夢のまた夢だ」などの厳しい批判が出ている。  

一方で、野田氏に近い関係者は「枝野氏と野田氏はお互いに信頼している。減税派が勢いを強める中で、バランスを取るための発言だったのではないか。減税に慎重な野田氏が代表として言えないことを、あえて枝野氏が強めに言ったのではないか」との見方を示す。