臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日歌壇から(10月28日掲載・其のⅣ・決定版)

2013年11月05日 | 今週の朝日歌壇から
[佐佐木幸綱選]


(瑞穂市・渡部芳郎)
〇  楢谷の黄葉を抜け美濃に入る飛騨に雪降る季遠からじ

 「楢谷」は、通称「せせらぎ街道」の飛騨側の出発点に当たる地の地名である。
 因みに、「せせらぎ街道」とは、岐阜県高山市清見町三日町から岐阜県郡上市八幡町城南町に至る約70kmの道路であり、宮川(神通川上流部)の支流の川上川の渓流に沿った風光明媚な街道であり、特に秋の紅葉の美しさは「飛騨・美濃紅葉三十三選」にも選定されていて、首都圏及び関西方面から大勢の「紅葉狩り客」を集めて大賑わいを見せているのである。
 街道自体に、約七百mの標高差が在るため、紅葉前線は、山(即ち飛騨)から麓(即ち美濃方向)へと徐々に下降して行くので、仮に、美濃方面からこの街道を通って飛騨の高山方面へドライブした場合は、「麓では紅葉の真っ盛りであったのに、せせらぎ街道を登り詰めて飛騨に入ったら猛吹雪であった」などという奇妙な現象さえ起こり得るのである。
 本作の作者はそれとは逆コースを辿って、飛騨から美濃へと山を下って行ったのでありましょうか?
 だとすれば、作中の「楢谷」は高山市清見町に在る地名なので、本作の作者は、「楢谷の黄葉」を通り抜けてご自宅の在る美濃方面へとドライブしながら、つい先刻、通り過ぎて来たばかりの「飛騨」に「雪」が「降る」季節が到来するのは「遠からじ」と思って慨嘆したのでありましょう。
 〔返〕  楢谷で五平餅召せ蕎麦も召せ美濃の蜂谷柿まだ渋からむ  鳥羽省三


(大阪市・末永純三)
〇  猫見ればつまの思ほゆこれのよに猫あるかぎり忘らえなくに

 ならば、本作の作者の奥様は、「猫被りの女性」であったのでありましょうか?
 それにしても、「これのよに猫あるかぎり忘らえなくに」とは、たかが「猫被りの女性」にえらい惚れ込みようである。
 〔返〕  これの世に猫ある限り忘らえず猫を被った猫好き妻女  鳥羽省三 


(瀬戸内市・安良田梨湖)
〇  父の腹で上下する猫に集まったスマホデジカメスケッチブック

 またまた「父の腹で上下する」ですか。
 身体にも心にも毒だから、無視、無視、無視させていただきます。


(三鷹市・橋本早苗)
〇  「ネコノチチ」神代植物公園入口の標本箱の木の実の名前

 「ネコノチチ」とは、「神奈川県以西~九州の山地の林内に生え、高さ5~8mほどの落葉低木」とのこと。
 私が参照させていただいた『松江の花図鑑』というホームページには、「樹皮は暗褐色で波状の縞模様がある。本年枝は帯紫褐色~灰褐色で、短い軟毛があり、楕円形の大きな皮目がある。葉は互生でコクサギ型葉序。葉身は5~13cm、幅2.5~4.5cmの長楕円形。先端は尾状にとがる。ふちには細かい鋸歯。側脈は7~9対で、ふちには達しない。表面は無毛。裏面脈上に軟毛がある。葉柄は長さ3~8mmで有毛。葉腋に直径3.5mmほどの黄緑色の花を4~8個つける。果実は核果で、長さ8~10mmの長楕円形で、黄色から黒色に熟す。花期は5~6月。冬芽は、長さ1~2mmの扁平な三角形。」との説明が為されている。
 思うに、「神代植物公園」の「入口」には、植物の「標本箱」が置かれて居て、その中の一つが「ネコノチチ」の「実」なのでありましょう。
 〔返〕  木の枝が乳房の如く垂れ下がり「ネコノチチ」とは名付けられたる  鳥羽省三


(香川県・薮内眞由美)
〇  皮剥の顔を笑ひてをりし子の皮はぐときを逃げ去りにけり

 「さっきまで顔を見て笑っていたくせに、いざ『皮』を剥ぐ段になると逃げ失せるとは、臆病者め!お刺身は、絶対に食わせてやらないぞ!」とか何とか仰ったりして。
 〔返〕  ママの顔トラカワハギに瓜二つ白黒斑の縞々模様  鳥羽省三


(富山市・松田わこ)
〇  背の高いススキにさわさわ見送られ中学校の見学に行く

 「背の高いススキにさわさわ見送られ」というところに、これから「見学に行く」「中学校」の恐ろしさがそれと無く示唆されているのかも知れません。
 公立の中学校に通うようになったら、松田わこさんのような優等生タイプの女子は、餓鬼どもに苛められてしまいますよ。
 ママにお強請りして、東京都内の私立の中学校の受験をさせて貰いなさいよ。
 〔返〕  ケチすると虎河豚のように膨れちゃう娘の将来考えなさい  鳥羽省三


(京都市・五十嵐幸助)
〇  千代紙を四十六度も折りかさね咲きたる赤の薔薇は匂はず

 「四十六度も折りかさね」とは、真に手間暇かけて「折りかさね」たものである。
 だとすれば、「汗の結晶」という言葉がありますから、汗の匂いぐらいはするはずである。
 〔返〕  体温が三十九度になったけど汗が出て来ぬ新型かしら?


(小松市・沢野唯志)
〇  カヌー漕ぐ湖面に浮かぶ名月に白山連峰青く際立つ

 「加賀三湖」とは、「石川県南部の小松市及び加賀市に点在する三つの潟湖」、即ち「今江潟、木場潟、柴山潟の総称」である。
 その中の木場潟に平成二年七月末、「カヌー競技場」が設置され、「木場潟カヌー競技場」と命名されたのである。
 「木場潟カヌー競技場」の湖面には、遠く聳える「白山連峰」がくっきりと影を映し、今風の言い方をすれば、「アスリートたちは元気を貰う」のである。
 本作は、木場潟カヌー競技場でのカヌーの練習風景に取材したものと思われる。
 〔返〕  カヌー漕ぐパドルをしばし憩はしめ湖面に映る月眺めたり  鳥羽省三


(神戸市・田崎澄子)
〇  シジュウカラの陽気に騒ぐ木の下の一羽のカラスの考える顔

 「カラス」の「思案あり気な表情」は、人も知るところでありましょう。
 その「思案あり気な一羽のカラスが、シジュウカラの陽気に騒ぐ木の下で、思案あり気な顔をしている」というのが、本作の内容の全てである。
 〔返〕  四十雀のけたたましき鳴き声にカラス目覚めて思案顔なり  鳥羽省三


(中央市・前田良一)
〇  万葉歌朗唱せむと水上の舞台に立てば君が手を振る

 インターネットで検索したところ、「過ぐる10月5日(金)から10月7日(日)迄、富山県高岡市の高岡古城公園を会場として、『第33回 高岡万葉まつり』が賑々しくも行われた」とのこと。
 件の祭典の第一番の呼び物は、何と言っても「『万葉集全20巻朗唱の会』が主催して、公園内の特設水上舞台に於いて、『万葉集全20巻4,516首』の全てをリレー方式で歌い継ぐビッグイベントである」とのこと。
 「万葉歌の朗唱者は日本全国津々浦々から募り集められ、連続三昼夜に亘り、2,000人を超える人々が高らかに万葉歌の全てを朗唱した」とのこと。
 思うに、本作の作者・前田良一さんも亦、何かのご縁で山梨県の中央市から、わざわざ越中富山の高岡市まで御み足をお運びになられ、2,000人を超える万葉歌の朗唱者の一人として、水上舞台の高きに登壇なさったのでありましょう。
 同伴者は、勿論、前田良一さんの奥様。
 その奥様は、額田王よろしく「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」とばかりに、フランス直輸入のレースの手袋で飾った御手をお振りになったのでありましょう。
 〔返〕  万葉歌朗唱せむと高岡へ運賃〆て100000円也  鳥羽省三


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