臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日俳壇から(7月14日掲載・其のⅠ・日曜特集版)

2014年07月20日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

(高槻市・山岡猛)
〇  雲中に白き都や雲の峰

 「白き都」とは、「雲の峰」を一望しての幻視ならんか?
 〔返〕  お天守に巨象馳せ來る雲の峰


(大村市・小谷一也)
〇  道をしへ行方不明となりにけり

 それは亦とんまなことよ!
 そんなことでは、到底、街歩きは適いません。
 〔返〕  道教へ白き車に誘はれし


(龍ヶ崎市・浅山伊佐見)
〇  昼寝覚駈け回りしは夢と知る

 どっしりと寝汗を掻いたりして。
 〔返〕  昼寝覚め引っ掻き廻せし背(せな)の疵


(青梅市・青柳富也)
〇  能面のやうな色なき風の来る

 デーモン閣下の顔の如き無表情の「風」が吹いて来るのでありましょうか?
 〔返〕  デーモンの面貌暑し名古屋場所


(霧島市・久野茂樹)
〇  草刈りの人も砥石も痩せてをり

 夏山の「草刈り」は汗だくだくで疲れるものですから、「草刈りの人も砥石も痩せて」いるのは当然の事でありましょう。
 草刈り鎌で草刈りをする場合、所要時間の三分の一は「砥石」で鎌を砥いでいる時間だとか?
 〔返〕  夏越しや草刈り鎌の錆びもせず


(鶴岡市・野村茂樹)
〇  麦秋の黄をあふれしむ狂気かな

 「麦秋の黄」と言えば、あのフィンセント・ファン・ゴッホ描く「収穫(麦秋のクローの野)」の黄の色彩の、何と狂気じみていることよ!
 〔返〕  麦秋のクローの野辺の黄に狂ひ


(松戸市・大井東一路)
〇  天守より忍びのごとく黒揚羽

 天守閣の矢狭間よりヒラリと身をかわして舞い降りてきた「黒揚羽」を、「しのび」即ち「忍者」に見立てたのである。
 〔返〕  信長の首を獲らんと岐阜城の天守に忍び入りたる揚羽


(東京都・長谷川茂子)
〇  狙撃弾逸れて今日ある終戦日

 「1914年6月28日にオーストリア=ハンガリー帝国の皇帝の継承者、フランツ・フェルディナント夫妻が、サラエボ(当時オーストリア領、現ボスニア・ヘルツェゴビナ領)を視察中、ボスニア出身のボスニア系セルビア人の青年、ガヴリロ・プリンツィプによって暗殺された事件」がいわゆる「サラエボ事件」であり、この事件がきっかけとなって第一次世界大戦が開戦の運びとなったのである。
 今年の6月28日は、「サラエボ事件」の100周年に当たっていたのであるが、サラエボの在る東ヨーロッパに於いては、ウクライナ共和国政府とロシアに後押しされた親ロシア派国民との交戦が続き、中東のパレスチナに於いては、イスラエルとパレスチナ自治政府とが激しい火花を散らすなど、第一次世界大戦の開戦前夜と似たような様相を呈しているのである。
 こうした時期を敢えて選び、自公連立政権は、同盟国アメリカの為なら海外派兵も辞さないとする暴挙を、圧倒的な国民の意志を無視し、国会決議に拠らないで企てたのであり、本作はそうした国際情勢や国内情勢をも頭の中に入れて、作者自らの被狙撃体験を一句に託したのでありましょう。
 ところで、本作の作者の長谷川茂子さんよ、「狙撃弾逸れて今日ある終戦日」とのことですが、我が国に於ける「終戦日」とは8月15日である。
 だとしたら、「終戦日」には未だかなり早いのではありませんか?
 〔返〕  入選を果たす為ならなんのその一箇月前でも其れが終戦日

 
(富士宮市・渡邉春生)
〇  文学の夢捨てきれず桜桃忌

 今どき「文学の夢捨てきれず」なんて馬っ鹿じゃ無かろうかしらん?
 その上、「文学の夢」と「桜桃忌」の組み合わせはあまりにも月並みで、作者の頭の程度が知れるような一句である。
 詠む方も馬鹿だが、それを敢えて選ぶ方も馬鹿である!
 〔返〕  馬鹿が詠み馬鹿が選んだ月並み句


(四街道市・深澤川舟)
〇  炎天を鬼の顔して帰りけり

 この炎天下を日傘も差さないで歩き回っていたら、誰だって「鬼」みたいな顔になりますよ!
 〔返〕  炎天を仏の顔して二度三度歩ける奴は色素不足だ