私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ゆれる」

2006-08-22 21:27:53 | 映画(や行)


2006年度作品。日本映画。
東京に出て写真家として成功した弟と、実家に残り父の家業を継ぐ兄。二人の関係は幼馴染の女性が橋から転落死したことで揺らいでいく。
監督は「蛇イチゴ」で注目を浴びた西川美和。
出演は「メゾン・ド・ヒミコ」などのオダギリジョー。「鬼が来た!」などの香川照之 ら。


この監督の作品は初めて見るのだが、そのセンスの高さに非常に驚いた。少し寝不足気味の中での鑑賞だったが、眠気など一瞬の内に吹き飛んでしまった。

一人の女性の死を巡る、「藪の中」のようなストーリーだ。その真実を巡る過程の中で湧き起こる、兄弟の心理を丁寧かつ繊細に描き出している。

兄弟は世間一般で言えば勝ち組と負け組みの二人だ。
負け組の兄は弟にいいところをもっていかれて、嫉妬心を抱いて生きている。しかし彼は常にいい人を演じ、たとえ自分が好きだった女を弟に持っていかれても、あくまで笑顔で接しようとする。
しかしいつまでもその感情を押し隠したままで生きていくことはできない。彼の感情は事件を契機に噴出することになる。彼の心の苦しみはあくまで切なく苦しい。

ラストの手前で、兄は弟の欺瞞を見抜き、そのことを糾弾する。多分、兄にとっては弟のその欺瞞に嫌悪感を持っていたからこそ、とった行動だろう。そして自分自身の罪悪感をあがなうために(つまりは服役するために)とった行動とも言える。
何かその行動には痛々しさすら感じる。何とも見ていて苦しい。

この映画を見ていて、人の心は何とあやふやなものだろうと僕は思った。嫉妬や怒り、怨みといった負の感情のようなふとしたきっかけで簡単に揺らぎ、人を傷付け裏切ってしまう。何とも悲しい事実だ。しかしその奥で確かに揺るがないものもあるはずだ。僕はそう信じたい。
そしてその証左はきっとラストの中にある。

この作品のラストは見る側に委ねられている。兄の笑みに何を観るかは観客次第だ。
僕はこの作品を見終わったあと、兄の笑顔の中に弟への赦しを見た。罪悪感に苦しみ服役した兄が、弟に与える赦し。それは二人が幼い頃から築いてきた関係だからこそ、生まれる感情だ。
僕はそう読み取ったし、そう信じたい。

何はともあれ、すばらしい映画である。若干感情の読み取りに難解な面もあるが、それゆえにいつまでもこの映画のことが忘れられない。
いやはや何ともすごい監督が邦画界に現われたものである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「ユナイテッド93」

2006-08-21 21:21:27 | 映画(や行)


2006年度作品。フランス=イギリス=アメリカ映画。
9/11同時多発テロでハイジャックされた4機のうち、唯一目標に到達しなかったユナイテッド航空93便。その機内で何が起こったのかを綿密なインタビューを元に再現する。
監督は「ボーン・スプレマシー」のポール・グリーングラス。
出演はハリド・アブダラ。ポリー・アダムス ら。


きわめて臨場感に溢れた映画だ。
管制官役に当人を登場させるなど、リアリティを追求しているだけあって、そこで描かれた情景は9/11に起こったであろう雰囲気を生々しいくらいに再現している。

たとえば、管制塔に流れるハイジャックされたのではないかという緊張感や、世界貿易センターに飛行機が突っ込んだ際の戸惑いと、混乱と軽いパニックはひと言すごかった。そこには誇張めいた誇張は感じられない。とにかくリアリスティックで、それだけに観客である僕もその世界の中に紛れ込んでしまったような雰囲気を味わうことができる。
映像の中の世界の空気が張り詰めれば、僕も緊張し混乱し少しだけ泣きそうになった。

そしてそれはもちろん管制塔の中のシーンだけではなく、飛行機の中のシーンにおいても同様である。本当にこのようなことが、ユナイテッド93便に起こったかどうかは別として、そこで描かれた雰囲気は確かな手応えをもって僕の前に迫ってくる。
飛行機内の乗客たちの混乱と恐怖は、本当に生々しい。そして同時にその結末がわかっているだけに切なさみたいなものを感じることができる。見ている最中、何度も泣きそうになってしまった。

乗客たち、管制官、この映画の中に出てくる人々と感情を共有したような錯覚を味わうことができる。観客と映画世界の距離を縮めるほどのすさまじいまでの臨場感は必見であろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「夢駆ける馬ドリーマー」

2006-05-28 17:12:40 | 映画(や行)


2005年度作品。アメリカ映画。
名馬Giant's Causewayの母親Mariah's Stormの実話を元に映画化。骨折し、安楽死されるはずの馬が再起を果たす姿を、その馬を預かる家族を通して描く。
監督はこれが初監督作となるジョン・ゲイティンズ。
出演は「バックドラフト」のカート・ラッセル。天才子役ダコタ・ファニング ら。


ドリーマーというタイトルが示すように、夢見る者が夢を叶えていく物語である。
そういうわけで、良くも悪くもおとぎ話じみている。言い方を変えるならばベタだ。展開から結末まで全て甘いし、悪役はわかりやすいくらい悪役として描かれている。そのためプロット的に細かい粗が目立ち、今一つ見ていて収まりが悪い。特にラストのレースはあまりに無茶苦茶で、思わず失笑してしまった。
だがおとぎ話に対して、いちいち細かい突込みを入れるのも野暮というものかもしれない。おとぎ話はおとぎ話として、広い心でその暖かさを受け入れるものなのだ。
本作はきっとそういう姿勢で臨むのがベストだろう。
そうすれば、映画としてはそれなりに起伏があるため、素直に物語を楽しむことができると思う。

個人的にはFusaichi Pegasusや、モデルとなった馬の息子Giant's Causewayが見られて満足である。
また蹄の音も耳に心地良かった。この音を聞いていたら、久しぶりに競馬場に行ってみたくなった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「歓びを歌にのせて」

2006-01-25 21:08:32 | 映画(や行)
著名なオーケストラ指揮者が村人の聖歌隊を指導するうちに、音楽のすばらしさを思い出していく。本国スウェーデンでヒットし、アカデミー賞外国語映画部門にもノミネートされた作品。監督はケイ・ポラック。


音楽を通して、それぞれの人たちが自分自身を解放していく話だ。
基本的にいい話だとは思う。音楽も美しい。だけど、どうもいまひとつピンとくるものがなかった。

僕個人が今ひとつ納得いかなかったのが、ダニエルと村の人たちとの交流だ。
確かに互いの間に連体が生まれていることはわかるし、メンバーが歌うことに喜びを感じているのは伝わってくる。だけど、何でみんながそこまでダニエルに感謝をしているのかがわからない。
これは作中でちゃんと表現されていたのだろうか。それともこれは僕個人がちゃんと映画を観れていないという証拠なのだろうか。少し不安になる。

とにかくそういった点もあって、観ていても何となく腑に落ちず、いまひとつ心に響かなかった。これは個人の趣味の問題としか言いようがない。

評価:★★(満点は★★★★★)
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