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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「タブロイド」

2006-03-12 16:32:04 | 映画(た行)
エクアドルを舞台に人間の暗部と二面性を描いたサスペンス。海外の映画祭での評価も高い作品。
監督はセバスチャン・コルデロ。
出演は個性派俳優ジョン・レグイザモ。「トーク・トゥ・ハー」のレオノール・ワトリング。


不幸な交通事故から発展する冒頭のリンチシーンからいきなり衝撃を受けた。
確かに、その事故で息子を失った父親には同情する面はあるのだけど、そこからリンチへと発展していく過程は何とも恐ろしい物を感じる。確かに悲しい事故だけど、なぜそこまで人を痛めつけられるのだろう、なぜ誰も止めないのだろう、と観ながら僕はずっと思っていた。
これが人間が内に抱えもっている残虐さなのだろうか。映画の冒頭から、そんな重苦しい思いを抱かずにいられなかった。

リンチを受けた男は家族思いの優しい男である。多分、途中まではみんな彼に同情をするだろう。しかしそんな男が実は猟奇的な連続児童殺人鬼かもしれないのだ、と判明してくる。
外側から見える善良部分とは異なり、内部にはすさまじく醜いものが潜んでいるのかもしれないのだ。そのギャップが何とも言えず不気味だ。

主人公のテレビレポーターは、そんな男を相手に、たとえ相手が殺人鬼だったとしても、説得できるだろうと考えている。
しかし、彼はただのそこいらにいるテレビレポーターでしかなく、真実を完全にえぐりだせる天才ではないのだ。
結果的にレポーターは何もできないままで終わる。それだけではなく彼は真実に蓋をして、自身の保身のために行動をする。何とも苦々しい結末である。

この作品は基本的に人間の醜い部分を描いていると思う。そのため決して明るくは無い。しかし重厚で見応えがあるなかなかの良作である。人には勧められないが、こういう映画は個人的には好きだ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「トニー滝谷」

2006-02-26 18:52:41 | 映画(た行)


2005年作品。村上春樹の短編をもとに映画化。孤独なイラストレーターの姿を描く。本作はロカルノ映画祭でトリプル受賞を果たした。
監督は「つぐみ」の市川準。
出演はイッセー尾形、宮沢りえら。


物静かな映画である。淡々として静謐さを湛えた映像、抑制されたトーンのナレーション、加えて生々しい生活感を描かないことで、独特の詩情を映画の中に生み出している。
そして、その詩情の中にぽっかりと空いた不在の感覚が映画全編を支配している。その大きな欠落感が印象深い作品であった。

はっきり言ってストーリー的には何ということも無い作品だ。
しかしその淡々とした世界観は心地よくさえある。これは雰囲気を味わい、その世界に浸るタイプの映画だろう。
決して傑作とは呼べないが、すばらしい小品と呼ぶに足る作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「単騎、千里を走る。」

2006-02-05 00:35:59 | 映画(た行)


「紅いコーリャン」で名声を博し、最近は「HERO」などのエンターテイメントも手がけるチャン・イーモウ。彼が高倉健の映画を撮りたいと願い、その夢が結実した作品。
中国を舞台に人と人との繋がりを描く。


暖かい映画である。しかしあまりに素直すぎるし、ストーリーも平板だ。
この映画に出てくる人は基本的に善人ばかりで、義に厚い。そうでなければ、無駄に無口で、加えて「ありがとう」すら中国語で言わない主人公が旅することは絶対不可能だったろう。
そういうトーンなので、心に傷のある主人公が救いと癒しを見出していく過程はよくわかる。
だけど現実はこれほど多くの善人に溢れているはずは無い。ひねくれ者の僕はどうしてもその様な考えが捨てきれず、フィクションめいた印象を拭う事ができなかった。

もちろん所々には光る場面があった。
個人的には中盤にあった長いテーブルでみんなで食事をするシーンに胸が熱くなるものを感じた。また中国の家並みや雄大な自然も見ていて心地良かった。
しかし当然のことながら、映画としてはそれだけではダメなのである。

評価:★★(満点は★★★★★)

「ディア・ウェンディ」

2006-01-05 18:18:56 | 映画(た行)
一つの美しい銃に見せられた少年の物語。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアーが脚本を手がける。監督は「セレブレーション」のトーマス・ヴィンターベア。出演は「リトル・ダンサー」で主人公を演じたジェイミー・ベルら。


いろいろと突っ込みたくなる映画である。

とりあえずテーマ自体は悪くない。銃を持つことで、その存在におぼれ、銃を持つことで自分自身に自信をもつことができるという少年たちの描き方は興味深い。また、銃を持つけど、撃たないという平和主義の論理は子供じみており、それゆえその先にある破滅が想像でき、ある種の期待をもって物語に入り込むことができる。加えて作中に出てくる平和主義という言葉も現代社会と軍事とのメタファーともとれなくもなく、色々な深読みは可能だ。

しかし物語は僕が想像していた方向とは違った方に進んでしまい、正直その進み方に唖然としてしまった。
作り手はおそらく物語を耽美的な方向に持って行きたかったのだろう。しかしそのためにストーリーの整合性をあえて放棄しているように僕には見えた。
たとえばクライマックスの銃撃戦は僕には必然性がない様な気がしてならないし、一番ラストの銃撃も説得力に欠けている。そのため、見ていてなんとも居心地が悪かった。

この作品は料理の仕方によっては、もっと違った魅力を放っていたことだろう。題材が良かっただけに、残念で、もどかしい気持ちで一杯である。

評価:★★(満点は★★★★★)

「ターネーション」

2005-11-29 21:54:38 | 映画(た行)
かつてはモデルとして美しさを誇った母が精神病に苦しむ現状、家を捨てた父、幼い頃に受けた虐待の記憶、自らも蝕まれていく【離人症】という病による精神と肉体の分裂、ゲイであるセクシャリティ、アメリカの家族のあり方-。
そして今なお安らぐことのないアメリカの魂の、未来への希望を描いたドキュメンタリー。


ドキュメンタリー映画である。上にも書いてある通り、監督であるジョナサン・カウエットの家族史が描かれているわけだが、これがなかなか激しく、愛憎に満ちている。
個人的には精神に異常をきたした母親の様子や、そんな実の娘を前にしての祖父の態度に恐ろしいものを感じた。作り物とはちがう、ドキュメンタリーゆえの迫真性は見ていて胸に迫るものがあった。
題材が刺激的ということも大きいのかもしれない。

しかし編集の仕方のせいか見づらい面もあり、映画としての盛り上がりには欠ける。そのため、刺激的な題材の割に若干退屈でさえあった。

評価:★★(満点は★★★★★)