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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「亀も空を飛ぶ」

2006-01-17 21:14:33 | 映画(か行)
イラク北部クルディスタン地方を舞台に、イラク戦争前のイラクの現実とそこに生きる子供たちの姿を描く。監督はイランのクルド人監督で、「酔っぱらった馬の時間」のバフマン・ゴバディ。


戦争が起こる直前のイラク。日本に住んでいる僕にはその現実は見えにくいものだった。だがここにはあの時、あの土地でどのような人々がどのような暮らしをして生きていたかを教えてくれる。

イラクの子供たちは生活レベルで深く深く戦争と結びついているということが、この映画を通してはっきり見えてくる。
例えばメインキャラの少女はサダム・フセインの兵隊にレイプされ、望まない子供を身籠り、出産をしている。映画に登場する子供たちは地雷を掘り出して、それを売りさばいてお金を得ている。また勉強が大事だと語る先生の意見は無視され、子供たちは機関銃を買い求め、それを設置する作業に従事している。
平和な国に住む者にとって、それは明らかにどこかが狂ってしまった世界としか思えない。

また、この作品には両腕をなくした少年、杖を突かなければ歩けない少年といったように実際に地雷で傷を負った子供たちが出てくる。そのリアルな映像だけで充分に戦争というものの残虐さを伝えてくれる。

ここに出てくるものはあまりにリアリスティックで、それだけに日本とのギャップが明確になっている。
この映画にはそういった戦争という狂った価値観に対しての怒りと、容易に癒されることのない絶望を見る思いがする。最後の少女の行動といい、胸をえぐられるような思いを抱かずにはいられない。本作は戦争に残虐さに対する告発なのだ、と強く感じる。

正直言って、物語としてこの作品が優れているとは思わないが、その告発にはやはり大きな意味がある。
この映画はそういう観点からして、観るべき価値があると僕は思う。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「空中庭園」

2005-12-26 23:32:56 | 映画(か行)
直木賞作家、角田光代の作品を映画化。家族の光と影を描く。監督は「青い春」の豊田利晃。出演は小泉今日子ら。


原作は角田光代の作品で、僕も好きな作品なのだが、本編は原作を適度にいじっている。
大概の原作物は本編を不必要に改変し、原作の良さを損なわせるだけでしかないのだけど、ここでは改善という言葉がぴったりなくらい優れた出来に仕上がっている。原作とは違う映画としてのトーンを生み出しているように思った。

本編の家族は秘密を持たないというルールを持っているのだけど、明らかにみんな秘密を持っていて完全にその前提が崩れている。しかしそれを取り繕うようにしているから、全てがいびつに見えてしまう。ソニンの言葉を借りるなら、学芸会を家族全員で演じているようなものだ。

後半の方で、夫の愛人と祖母を含めた食卓のシーンがあるのだが、これがなかなか怖くて、鬼気迫るものがある。少し取ってつけたような感じがするし、小泉今日子の口調の変貌などに違和感はあるものの、その恐ろしさはこの家族のいびつさを象徴しているような気がする。それだけに家族が抱えている問題がすさまじく深刻であることが伝わってくる。

しかし家族というものはまったく秘密を抱えていても、何かしらの愛情をそれぞれに対して持っている。そもそも愛情が無ければ家族など成立するわけが無いのだ。秘密はあるし、人に言えないことも人間だから抱えている。それでも人を思う所から物事は出発する。
それだけに、そのことに気付くラストは前に踏み出した感じがして個人的には好きだ。

この作品はいくつもの欠点を抱えている。誇張された描写、特にラストの赤い雨はメタファーとしては理解できるけれどやりすぎだと思った。
しかしそれらの欠点を補って余りあるほど、優れた作品に仕上がっていると個人的には思った。

付け加えると、この作品はストーリーだけでなく、キャラも際立っていい。永作博美のエキセントリックなキャラや(やりすぎだけど)、板尾の情けないくらいなチョロ介の姿も面白い。二人には笑わせてもらった。

豊田監督はこの作品が公開される前に逮捕されてしまった。そんな状況の中でよくぞ公開してくれたと思う。関係者の英断に拍手を送りたい。
豊田監督もこれに懲りて、今後はこの作品を越えるほどの優れた作品を生み出していってほしいと思う。当分先だとは思うけれど。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「キング・コング」

2005-12-18 21:12:06 | 映画(か行)


特撮映画の名作である1933年の作品のリメイク版。監督は「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン。オリジナル版を見て映画監督を志したと語るように本作に対して並々ならぬ情熱を持って取り組んでいる。出演はナオミ・ワッツ等。


「怪獣の出る映画はB級だ」みたいなことを本編でジャック・ブラックが言っているが、そのセリフに全て集約されているだろう。この映画は確かにB級テーストだ。しかも金をかけたB級映画である。

とにかくすべてにおいてやり過ぎである。
元々キング・コングという設定自体がB級っぽいのだが、そこに恐竜が登場するわ、出演者は恐竜と競走するわ、崩れる崖を俳優陣が駈け続けるわ、等々でとにかくやりたい放題の詰め込み放題。盛り上がるものであれば何でもやっておけ、って感じでひたすら派手だ。そのテーストそのものがいかにもなB級で、サービス満点である。

キング・コングがとっても純情チックだったのも個人的にツボである。格好はあんな感じなのに、性格がキュートなのがおもしろい。

もちろん引っかかる部分はある。殊にストーリーについて不満だ。
だがここまでB級だとストーリーの粗もどうでも良くなってくる。むしろB級だしこんなものだよな、って思ってしまう。B級にそこまで突っ込むのは野暮な話だろうみたいな感じになるからふしぎなものだ。そういうB級テーストを楽しめた僕にはそれなりに満足した映画だ。
でも、いかんせん3時間超は長すぎだ。もう少し短くできたら良かったと思う。

評価:★★★★(満点は★★★★★)