ただ生きるのではなく、よく生きる

自然の法則をとらえ、善(よ)く生きるために役に立つ情報を探して考えてみる

シットはわが身を亡ぼす

2016-09-02 18:21:22 | 知恵の情報
中年で未亡人となった安江は、一人息子の正一の成長を唯一の生きがいとして、
無事大学を出させ、就職も一流会社へきまり、やれやれとひと安心した。そして
この上はよい嫁を持たせれば、これで母親としての役目はすむと安江の次の
目標は嫁探しであった。知人の誰彼から紹介があって、候補者も四、五人あった。
親孝行な正一は自分の意思を母親が代行してくれるものとして、嫁選びは
母親の意見で決まってしまった。多くの候補者からよりぬいたのだから、さぞ
よいお嫁さんで母親はこれで楽隠居ができる、と当人も世間もそう思ったので
ある。

ところが安江は日がたつにつれ原因不明の不安に襲われだした。と同時に
立派な嫁であるはずの嫁の欠点がやたらに目につきはじめたのである。
なぜだろうか?安江は無意識のうちに正一を嫁にとられない防御から、いち
ばん取り柄のない嫁を選んでしまったのである。原因不明の不安はこんな
ところに原因があった。その自責のあらわれが、嫁さんの欠点発見ということ
になって、ついに嫁さんは離婚というはめになった。

正一君は、母親の嫁選びにもう信をおかなくなり、こんどは職場の女性と
恋愛結婚してしまった。安江は前よりも一層不安であった、明らかにシット
という苦しい衝動で嫁と対抗しなければならない。が、しかし新しい嫁は
バカではなかった。そういう姑の対抗意識を巧みにかわして母親を孤独に
させない心づかいをした。たとえば洗濯物を干すにしても、自分ら夫婦の
ものは並べないで、その真ん中へ姑のものを干して、のけ者にされたと
いう感情を未然に防ぐ、といった具合である。

シットとは、愛されることの欲望が満たされないときに生ずる激しい自己愛
である。

─『一日一言 人生日記』古谷綱武編 光文書院より

人の気持ちを察知するということはとても大切なことだと思う。
相手にシットを抱かせないということは、すばらしい・・・