紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「古書店アゼリアの死体」若竹七海

2005年02月28日 | わ行の作家
架空の都市・葉崎市のシリーズは、コージー・ミステリーと
いわれているようです。その定義をあまりよく理解していない
からなのかもしれませんが、あまりコージーな感じは
しないんだけどなあ。もちろん、笑いどころもあるには
あるけど、でも、若竹さんらしく結構シビアなんですよね。

家財道具一式を自分の軽自動車に積み込み、着の身着のまま
辿り着いたのは、葉崎市の海岸。勤め先が倒産し、泊まった
ホテルでは火災に遭い、友人からは怪しげな新興宗教に入るよう
迫られ、やっとの思いで逃げてきたのだ。海に向かって
「バカヤロー!」と叫ぼうとしたそのとき、今度は溺死体を
発見してしまう…。

まあ確かに、ここだけみればコージー・ミステリーだろうな(笑)。
相沢真琴は、葉崎市で運良く古書店「アゼリア」の店番の仕事に
ありつきますが、そこでもまた、さまざまな奇禍に遭うのです。
ここで起こる事件の陰には、葉崎市の名門・前田家が関係しているので、
なかなか捜査もままなりません。が、そこでキーパーソンとなるのが、
アゼリアの店主・前田紅子さん。現前田家当主の叔母にあたる紅子さんは、
大のロマンス小説好き。アゼリアで扱っているのも、ロマンス小説
ばかりで、真琴が店番に抜擢されたのも、ロマンス小説に対する知識と
愛情が認められたからなのでした。しかし、ロマンス小説を読んだことが
ない私には、何が何やら(笑)。ま、それを無視しても、充分楽しめるの
ですが、知っていた方がより楽しめることは間違いないでしょうね。

ストーリーとしては、“まさか”“まさか”の連続。
スピード感といい、ひねりの効いた展開といい、そして
毒を含んだラストといい、若竹さんらしくてとてもよろしい。
しかし、やっぱり若竹さんは短編の方がキレがよくていいなあ、
なんて思ったり(笑)。ただ、紅子さんはとてもいい味を出していて、
例えば、とある作家のとある作品のとある登場人物を思い起こさせます。
とあるデパートの屋上のうどんスタンドの婆ァなのですが(笑)。


「古書店アゼリアの死体」若竹七海(光文社文庫)