紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「松本清張傑作短篇コレクション(上中下)」宮部みゆき責任編集

2005年02月14日 | ま行の作家
以前、ビートたけし主演で「張込み」を2時間ドラマで見ました。
ストーリーはあまり憶えてないけど(笑)、それなりに面白かったと記憶してます。
少し前には、中居正広主演の連ドラ「砂の器」を見てましたし。
原作ドラマはよく見てるんですよね。もしかしたら「点と線」とか見てるかも。
でも、実は未読だったのです(まあ、こういう作家って実は多いんですけど^^;)。
いきなり長編に手を出すよりは、やっぱり短編で様子を見たいと思い、
しかも今回は“宮部みゆき責任編集”。彼女が推す作品なら、読んでも
間違いないだろうと思って、ようやく、ホントようやく手に取りました。

松本清張は「或る「小倉日記」伝」で第28回芥川賞を受賞してるんですね。
ミステリーだと、どうしても直木賞を想像しますが。
上巻はこの「或る「小倉日記」伝」から始まります。
それぞれ、カテゴリーごとに宮部が選別(というか選抜)。
この3冊で、さまざまな松本清張が読めます。うーん、お得。

読み始めて最初に思ったのは、どういうところが“社会派”なのか、ということ。
一般的に清張は社会派の代名詞のようにいわれてますが、社会派ミステリー
というのは、清張のどういうところを指していうのか、それが知りたかった。
まあ、それを知るには、代表作(長編)を読むのが早いんでしょうけどね(笑)。
ただ、語り口が硬い。淡々としている。それが新聞記事を読んでいるような
気になりまして、もしかしたらそういう、語り口も含めて社会派なのかな、とか。

いちばん心に残ったのは、中巻の「空白の巨匠」。身につまされます(笑)。
鳥肌立ちます。新聞社の広告部に実際にいた、ということだから、
余計にリアルに感じられるのかも。でも、これもそうですが、
宮部も書いてますけどね、“淡々としたラスト”が清張の特徴でしょうね。
バッサリ斬って余韻を残す方法もあるでしょうし、
逆に、最後まで淡々と語り続けることで心に残ることもありますしね。
最後の1行でゾっとする、という作品は結構あります。

ミステリーはないと思われるのですが「真贋の森」は好きです。
最後に主人公がどうにもしない、というところがまたいい。
淡々としてるんですよ、これも。淡々としているから、なお怖いというのが、
「書道教授」。“便乗”して犯罪を犯すのですが、それが思いもしない
ところから、ひとつずつ綻びていくのを、見ているしかない、という。
それを、抑揚をつけずに描いているところがスゴイ。
淡々としているというと、面白みとは無縁な感じがするんですが、
それが返って面白かったというのが「支払い過ぎた縁談」。
…どれもミステリーではない気がしますが(笑)。

のめり込んで読んだ作品、どうしても入り込めず読み飛ばした作品、
いろいろありましたが、でも、なんとなく“清張さんってこんな人”
というのが少しだけでも分かった気がします。しかも、宮部みゆき
というフィルターを通すことで、より身近に感じられるのも事実。
さらに、というか当然、宮部は、清張初心者になるであろう
若者から、何作も読んでいるコアなファンまで全部を視野に入れて
みんなが楽しめるように編集してるんですね。私なんて、
きっと宮部じゃなかったら読まなかっただろうし(笑)。
そういった意味で、とても門戸の広い短編集だと思います。


「松本清張傑作短篇コレクション(上)(中)(下)」宮部みゆき責任編集