National Geographicsが、学術誌「Nature」に発表された調査報告をレポートしていた。それによると、地下水が汲み上げられている河川流域が、2050年までに40%〜79%消滅する恐れがあるという。人類は化石燃料燃やして地球温暖化するだけでなく、数々の地球破壊を行っている。地下水の吸い上げもその一つで、地下水が吸い上げられている河川領域の生物の生態系が壊滅的なダメージを受けてしまう。

地面の下には、大量の地下水が隠されている。そこは「地下帯水層」と呼ばれ、淡水としては氷床に次ぐ水量を誇る。地下水は、世界の川にとっても極めて重要な役割を果たしており、干ばつの際でも川の流れが保たれているのは地下水があるおかげだ。
だが人類は、地下水を何十年にもわたって大量に汲み上げてきた。その結果、世界中の多くの河川生態系が「ゆっくりと干からびつつある」とする論文が、10月2日付けで学術誌「Nature」に発表された。地下水が汲み上げられている流域の15%〜21%が、すでに重大な「しきい値」を超えており、その比率は、2050年までに40%〜79%に急増する恐れがあるという。
しきい値を超えるとは、つまり、川の水が足りなくなり、流域に暮らす動植物が危機にさらされることだと、論文の筆頭著者であるドイツ、フライブルク大学の水文学者インゲ・デ・グラーフ氏は言う。
「その生態学的な影響は、まさに時限爆弾のカウントダウンのようなものです」と同氏は話す。「今、地下水を汲み上げても、10年後、あるいはもっと後にならないと、その影響はわかりません。現在の私たちの行為が、今後何年も環境に影響を与えるのです」
現代の生活を支える地下水
米国アリゾナ州を流れるサンペドロ川は、この地域でダムが造られていない最後の川だ。以前はよく氾濫を起こし、渡り鳥の鳴き声が響き、川の深みには珍しい魚が泳いでいた。
しかし1940年代、近隣に井戸が掘られ、きれいで冷たい水を地下帯水層から汲み上げ始めた。
すると、川を流れるかなりの水は、雨や上流からの雪解け水ではなく、地下水に由来することが判明した。帯水層から水を汲み上げるほど、川を流れる水は減り、その影響はサンペドロ川の水量だけでなく、流域に広がる湿地や木々、動物にも及んだ。
地下水は、現代生活の多くを支える縁の下の力持ちだ。世界の食物の約40%は、地下から汲み上げた水で育てられている。
しかし、地下水の源である帯水層に水を満たすには、数百年、あるいは数万年もかかる。現在、帯水層にたまっている水は、2万年前に地面の割れ目から染み込んだものかもしれないのだ。
地下水の多くは、たまるよりもはるかに速いペースで汲み上げられている。そのため地下水に依存している地域では、飲料水の確保や作物の栽培に大きな影響が及ぶ可能性がある。ただし、このような影響を人間が受けるよりもかなり前に、川やその周辺の生態系が影響を受ける。
「帯水層は、水と砂で満たした浴槽のようなところです」と自然保護団体「Nature Conservancy」の研究者エロイーズ・ケンディー氏は説明する。その砂の表面に指で線を引いてやると、砂から水が染み出してくるだろう。これがいわば、川だ。
「浴槽から水を少し汲み出しただけでも、川は干上がるでしょう。浴槽に水がたくさん残っていたとしてもね」と同氏。「川は悲鳴を上げたり叫んだりしないので、問題があることがわからないでいたのです」
水は命、なくなるまでは
今回の研究では、乾期における川の水位が、年平均の90%を下回った場合を重大な「しきい値」と設定、速いペースで地下水が汲み上げられ、このしきい値を超えている世界中の河川を調べた。しきい値を超える状況が、1年のうち3カ月以上、少なくとも2年連続で続くと、淡水系の動植物が危険にさらされる、と水の専門家である水保護団体「Sustainable Waters」の科学者ブライアン・リヒター氏は言う。
「地下水の影響を受けていても、川の水が完全に枯れることはごくわずかしかありませんが、生態への影響は大きいのです」と同氏は話す。健全な川に依存している淡水の生物は、世界的に危機に陥っている。かになった(世界中の河川の全流域の約半分で、地下水が汲み上げられている)。気候変動によって世界各地で干ばつが深刻になっているなか、地下水利用の影響はより重くのしかかってくる可能性ががある。
しかも、今回の研究では、2010年の世界の水需要をベースに気候モデルを作り、地下水系への負担をシミュレーションしている。今後、人口が増えて食料需要が高まれば、その負担はさらに加速することになる。
しかし、地下水の過剰な汲み上げの影響が目に見えるようになるのには、数十年とは言わずとも数年はかかる。 降水量の変化はすぐに川の流量を変化させると、米テキサスA&M大学の水文学者であるグレッチェン・ミラー氏は説明する。豪雨が降れば、川が氾濫することからも明らかだ。しかし、地下水はわかりにくい。変化が明るみに出るまでに長い時間がかかり、その影響が現れる場所も、必ずしも汲み上げが行われている場所とは限らない。このように帯水層の管理は極めて難しい一方で、迫り来る難題への対策を立てている地域は、ごくわずかしかない。
河川は「炭鉱のカナリア」だと、リヒター氏は語る。「河川は、持続不可能な方法で水を使っていることを警告するシグナルなのです。私たちは何をしているのか、厳しく見直す必要があります」