現代アート道楽の日々。

首都圏の展覧会の感想など。しばしば遠征。【不定期更新】

アン・ハミルトン展@熊本現美

2006-05-27 | アート感想@遠征
熊本市現代美術館に行ってきた。

アン・ハミルトン[ヴォーチェ]

横トリでのプロジェクトが記憶に新しいアン・ハミルトンの個展。作品は、2つの展示室をまるまる使った作品《ヴォーチェ》1点のみ。

最初の展示室(テーブルの部屋)に入ると、作業台(木製のテーブル)が所狭しと並んでいる。作業台は半透明のビニールシートですっぽりと覆われ、ビニールシートの中には古いラジオ、卓上ランプ、着物が入っていて、その卓上ランプの明かりでぼんやりと着物の柄が見える。ラジオからは雑音が流れ、入り口付近で借りたヘッドホンからは鳥の鳴き声が聞こえてくる……。

作家の指示どおり作業テーブルに上がり、この不思議な空間を見渡す。作業台・古いラジオ・着物といった懐かしい物たちが浮かび上がってくる。そして、ヘッドホンから聞こえてくる鳥の鳴き声に答えるかのように、鳥になったつもりで鳴いてみた。

   ……。

ほんの少しだけど、私が鳥になったような気がした。枝にとまって、歴史という大地を見下ろしているかのような、そんな錯覚を覚えた。

奥の展示室(映像の部屋)では、天井からぶら下がった帽子のような物体が、音を立ててびゅんびゅん回転している。この帽子のような物体はスピーカーで、作家が熊本で集めた音を流している。壁に目をやると、顔や足が並ぶ卒業写真の一部を写した映像が、ゆっくりと回転するプロジェクタから投影されている。

せわしなく回転しながら音を発し続ける8台のスピーカー。懐かしさを感じさせるモチーフを映しながら、四方の壁づたいにゆっくりと流れる2つの映像。これらを眺めていると、歴史という空の中を飛んでいるような感覚だった。

   あなたの中で、きっとなにかがかわりますよ。

作家は「(作品の)楽しみ方」の中でこう述べているけど、私にとってそれは「鳥になった気持ち」が芽生えたことだった。ひょっとしたら、鳥だった頃の記憶が蘇ったのかもしれない。

熊本市現代美術館にて、6月4日まで(火曜休館)。

霧島アートの森(樹林ゾーン編)

2006-05-27 | アート感想@遠征
続いて、樹林ゾーンの作品を鑑賞。マイナスイオンを浴びながら、木々の間に潜む作品を探すのが楽しい♪

このゾーンで最も気に入ったのが、アントニー・ゴームリー《インサイダー》(写真)。針金のように細い人体が、林の中に隠れるように5体立っている。遠くからだと木々にまぎれてしまい、探すのに時間がかかったけど、なんとか全員と遭遇。

このほか、神殿を思わせるような白い壁が円形に並んでいて、その隙間から森を覗き見るカサグランデ&リンターラの《森の観測所》や、葉っぱの形をしたステンドグラスを下から眺めるタン・ダ・ウの《薩摩光彩》も良かった。

最後に、アートホールのカフェでランチをとり、霧島アートの森を後にした。

霧島アートの森(野外広場編)

2006-05-27 | アート感想@遠征
続いて、野外広場の作品を鑑賞。

アートホールを出ると、正面にジョナサン・ボフロフスキーの《男と女》がそびえ立つ。この黒く、巨大な人の形の板は、2枚の板が十字に組み合わさったもので、正面からだと女性、横からだと男性の形に見える。近づいてみると、意外に大きいのにビックリ。

今回、私が最も気に入った作品が、ダニ・カラヴァンの《ベレシート(始めに)》。高台の広場から谷に突き出すように、コールテン鋼の四角い筒(歩廊の橋)が設置されている。歩廊の中に入ると、コールテン鋼に設けられたスリットから光が入り込み、内部に光のラインが描かれている。歩廊の先端は、壁一面が強化ガラスになっていて、ここから霧島の自然を一望。地上から約8.5メートルの高さがあって良い眺め。さらに、ガラスにはヘブライ語と日本語で「はじめに神は天地を創造された」との文字が……。壮大なスケールを感じさせる作品だった。

この他、アートなのか遊具なのか区別がつかない牛嶋均の《キリシマのキチ》や、タイトルで使い方が一目瞭然のチェ・ジョンファの《あなたこそアート》(写真)が印象に残った。

次の記事に続く。

霧島アートの森(屋内編)

2006-05-27 | アート感想@遠征
久々の九州遠征で、霧島アートの森へ行ってきた。

メインゲートでは、草間彌生の《シャングリラの華》がお出迎え(写真)。

まず、早川邦彦設計のアートホールにて、屋内作品を鑑賞。

コレクション展 パートI

ここは屋外作品がメインなんだけど、20点ほど展示されていた屋内作品もなかなかの充実ぶり。

ジェームズ・タレルの《NHK-lite》は、光を使ったインスタレーション。暗室に入ると、35センチ×45センチの窓から柔らかな光が洩れている。この光は、テレビモニターから出る光を反射したもので、明るくなったり暗くなったりするのを見ていると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。解説によると、日本の公共放送をイメージした作品とのこと。

村上隆の《フィジカル・パイ》は、ボウリング球や砲丸をドーナツ型運動マットに載せ、パイに見立てた作品。解説によると、日本の教育のはらむ危険性や、大衆文化の持つある種の凶暴性などを表しているらしい。豊田でも観たけど、この時期の村上作品は、非常にシャープで面白いと思う。

この他、ジェニー・ホルツァーによる文字が流れるLED作品《ブルー》や、阿仙(アー・シャン)による磁器の彫像に花柄の絵付けをした《チャイナ・チャイナ・シリーズ 胸像no.47》が印象に残った。また、水戸で観たオノ・ヨーコの《絶滅に向かった種族2319-2322》にも再会。

7月9日まで。その後、「明和電機」展が開催予定(7/21~9/3)。

次の記事に続く。

佐久島情報

2006-05-19 | アート情報その他
この秋、「直島スタンダード」が開催される直島(香川県)が話題になっているけど、「三河湾最後の聖域」にして「知る人ぞ知るアートの島」の佐久島(愛知県)でも、面白そうな展覧会が開催されるとのこと。
内藤礼 『返礼』 Givig Back / Reconnaissanse
2006年9月30日(土)~11月5日(日) 月曜休
会場:佐久島弁天サロン 2階歴史資料室、野外
開館時間:9:00~17:00 (12:00~13:00昼休)
入館無料
大山崎(京都)での展覧会と同じタイトルで、同じ流れの作品とのこと。でも、内藤礼初の野外作品(土日のみ展示、申込み不要)も展示されるのが佐久島ならでは。このほか、「舟送り」(11/5、申込み予約制)や、中沢新一との対談(10/29、申込み予約制)も。

ニュースソース
 →三河・佐久島アートプラン21

以前、私が佐久島に行ったときの記事
 →三河・佐久島アートプラン(前編)
 →三河・佐久島アートプラン(後編)

「こども」展2つ@豊田市美

2006-05-05 | アート感想@遠征
豊田市美術館に行ってきた。この日は無料入館日だったけど、お客さんの入りはそこそこで、じっくりと作品を観ることができた。

開館10周年記念 VISION II 「The Child-内なるこども」

「こども」をモチーフにした国内コレクション約80点による企画展。青木繁オーギュスト・ルノワールなど20世紀初頭の絵画から、加藤泉播磨みどりなど今世紀の作品まで、約100年の美術史を「こども」というテーマで概観できる展覧会でもある。

会場に入ると、荒木経惟の写真《さっちんとマー坊》シリーズが目に入ってくる。活き活きとした子どもの表情を見ていると、あの頃の感覚がよみがえってくるような気がした。この展覧会を象徴するような作品かも。

続いて、木村伊兵衛岸田劉生土門拳高松次郎パウル・クレーエドヴァルト・ムンク古賀春江など、ビッグネームの作品が並ぶ。私が好きなクリスチャン・ボルタンスキーの《聖遺物語(プーリムの祭り)》もあったけど、明るい場所に展示されていたのがちょっと残念。

そして、シメはお待ちかねの現代アート。1980年~94年に制作された奈良美智作品を、7点まとめて観られたのが良かった。あと、豊田市美術館の宝(?)会田誠の《あぜ道》もあり。

豊田市美術館にて、6月18日まで(月曜休館)。


秘密基地-現代美術とこどもをテーマにしたコレクション展

前述の「The Child-内なる子ども」展にあわせたコレクション展。「秘密基地」というタイトルのとおり、あの頃のワクワク感を思い出させるような展覧会。

なかでも最初の展示室が素晴らしかった。室内から伸びたレールに誘われるように展示室に入ると、大量の銃のレプリカが整然と並んでいて異様な光景(榎忠《秘密基地 You're on call at the “HUSH-HUSH”》)。その周囲を線路が取り囲み、奇妙な電車が3台停まっている(ヤノベケンジ《サヴァイバル・システム・トレイン》)。そして、そして壁を飾るのが丸亀で観た大岩オスカール幸男の《エイジアン・ドラゴン》。もう、この部屋だけでお腹いっぱい。冒頭の写真は、この展示室を上から眺めた様子。

このほか、コブラ・タテゴトアザラシ・イワシクジラなどの皮で作られたカラフルなランドセルが並ぶ、村上隆の《R.P.(ランドセル・プロジェクト)》や、回転型球形ジャングルジムに小さな写真を大量に貼った、小沢剛の《グローブ・ジャングル》が印象に残った。あと、中原浩大の《無題(レゴ・モンスター)》を上から覗けるのも面白い。それから、須田悦弘の《雑草》も、とある場所にあり。

私にとっては、企画展よりこっちの方が面白かったかも。それにしても、コレクションだけでこれだけの展覧会ができるとは……恐るべし、豊田市美術館。

豊田市美術館にて、6月18日まで(月曜休館)。

鴻池朋子展@大原美術館・児島虎次郎記念館

2006-05-04 | アート感想@遠征
続いて、倉敷アイビースクエア内にある児島寅次郎記念館へ。

MOTで観た《第4章 帰還-シリウスの曳航-》を皮切りに、森美術館で観た《第3章 遭難》、ミヅマで観た《第2章 巨人》と、鴻池朋子は4つの絵画による“物語”を逆順で発表してきたけど、今回ついに《第1章》を発表!しかも、既発表の3作品も並べて展示されていて壮観だった。

チラシや鴻池朋子展HPで公開されているイメージは、《第1章》の中央付近を切り取ったほんの一部(以下ネタバレのため、一部伏字)。○が舞うなか、薄暗い○に囲まれた○の上に○○の塊が浮遊している。その○○の塊から○。○のようなものが生えている、もしくは○。○が○○の塊に吸収されているようにもみえる。これから起こる“物語”を予感させるとともに、“物語”の終結も表現しているような絵画だった。

1章~4章の順の“物語”なんだけど、逆順でも“物語”は成立しそうだし、1章と4章がつながって環状の“物語”になっているようにもみえる。残念だったのは、スペースの関係で1章と2~4章とでL字型に展示してあったこと。正方形の展示室を使って、四方の壁にそれぞれの絵画を展示すれば、もっと“物語”の世界に浸れる展示になったのではないかと感じた。

このほか、絵本『みみお』の原画もこちらで展示。

さて、前の記事でちらっと書いた『Chapter #0』なんだけど、2会場に展示された作品すべてと倉敷の街全体を包み込む第0章の作品という設定で、配られた地図を頼りに倉敷の街を観客が探索するというもの。地図は作家本人による細かい描きこみだけど、道の形を除くと実際の街とは全く別のものが描いてあり、まさにパラレルワールドといった感じ。この地図を頼りに倉敷の街を歩くと、街が全く別の世界に見えてくるよう。なかでも阿知神社と倉敷貯金箱博物館がオススメ。

このほか、工房Ikukoでも鴻池朋子個展『阿知に不時着』も開催していた(こちらは5月7日終了)。以前、ミヅマで観たインクジェットのマルチプルなどを展示。

大原美術館(倉敷) 有隣荘(平成18年春の特別公開)・児島寅次郎記念館にて、5月28日まで(月曜休館)。

鴻池朋子展@大原美術館・有隣荘

2006-05-04 | アート感想@遠征
倉敷の大原美術館に行ってきた。

鴻池朋子 第0章 -世界はいつも密やかで 素晴らしく 謎めいている-

大原美術館本館から川を挟んで向かい側にある有隣荘(大原家旧別邸)と、倉敷アイビースクエア内にある児島虎次郎記念館で行われている特別展。有隣荘の公開は年2回だけで、昨年春は「会田誠・小沢剛・山口晃」展を開催。「歴史的な建物+現代アート」って、なかなか刺激的な組み合わせ。

まず有隣荘へ。こちらの展示は、鴻池朋子が4つの絵画(後述)で描いた“物語”から抜け出してきた狼たちが、巨大なオブジェとなって家中に棲み付くといったもの。1階洋間、1階和室、2階和室の3部屋で、複数の作品によるインスタレーション作品を展示。

1階洋間は《幾つもの森を抜け やがて地上を照らし出す》という展示。部屋の中央には、全身鏡張りの巨大な狼が力強く歩く姿がある。その狼の後ろ足を見ると、脱皮した皮を引きずるように、もしくは狼たちが鏡張りの狼にしがみつくかのように、何頭もの狼の毛皮が鏡張りの狼の足元から後方に伸びている。部屋全体を眺めると、温室や暖炉などに、鏡の破片が重なり合わないように敷き詰められていて、鏡張りの狼のイメージを増幅させているかのよう。

1階和室は《風蕭蕭と窓を鳴らし 愁雨凄凄たる夜》という展示。まるでナイフの雨が降っているかのように、部屋全体に透明プラスチック製のナイフがぶら下がっている。床には鳥の巣のようなもので縁取りされた楕円形のスクリーンがあって、おそらくMOTで観たものと同じ鉛筆画アニメーション(12分)を映写。

2階和室は《月はしばらく雲に覆われる》という展示。畳の上には苔のようなものが敷かれていて、その上にはMOTで観た《第4章 帰還-シリウスの曳航-》に出てきた巨大な狼たちの玉が!かなりインパクトのある作品だった。ディティールも凝っていて面白い。

有隣荘の窓から外を見上げると、煙突や木に腰掛けた下半身だけの子供の姿が!さすがにこれにはビックリ。これは《わが家の瞳孔のうちにひそむもの》という作品。私は5体見つけたけど、全部で何体あるんだろうか?

このほか廊下などに、アニメーションドローイングや《Chapter#0》(後述)の原画の展示もあり。

続く。