現代アート道楽の日々。

首都圏の展覧会の感想など。しばしば遠征。【不定期更新】

吉原治良展@竹橋

2006-06-25 | アート感想@関東
この日は竹橋へ。

生誕100年記念 吉原治良展

「具体」のリーダーとして知られる吉原治良の東京では初となる大回顧展。約190点の絵画が出展されていて、かなりのボリュームがあった。

最初期の作品は、海が見える窓辺に魚が置かれたものが中心。海にいるはずの魚がリアルに描かれている一方で、空間が微妙にゆがんでいて、妙な感覚が味わえる絵画。こういった絵を数多く描いていた吉原は、当時「魚の画家」と呼ばれていたらしい。しかし、一時帰国中の藤田嗣治に「他人の影響がありすぎる」と批判され、吉原は前衛の道を歩み始める。

そして、シュルレアリスム的な作品や抽象的な作品を経て、吉原は単純にして多様な「円」の表現へ到達する。実を言うと、「円」以外の吉原作品はほとんど観たことがなかったけど、今回「円」に到達する過程をはじめて観て、あの「円」のまた違った面が見えてくるような気がした。

東京国立近代美術館(竹橋)にて、7月30日まで(月曜休館、7/17開館、7/18休館)。

ナム・ジュン・パイク展@ワタリウム

2006-06-24 | アート感想@関東
続いて外苑前へ。

さよなら ナム・ジュン・パイク展

今年1月29日に亡くなったビデオ・アートの巨匠ナム・ジュン・パイクの追悼展。決して広くない会場には、所狭しと作品が並び、この偉大な作家の生涯を振り返ることができる。

なかでも印象的だったのは、7mの天上高の空間に展示された《ケージの森/森の啓示》。ジョン・ケージと「啓示」をかけたベタベタなタイトルはともかくとして、植物に20台のテレビがたわわに実る光景は、今見ても圧巻だった。

このほか《マースによるマース》や《ガダルカナル・レクイエム》など、代表的な映像作品も鑑賞可能。会期中何度でも入場できるパスポート制なので、1時間以上あるこれらの大作をじっくり観るのも良いかも。

ワタリウム美術館(外苑前)にて、10月9日まで(月曜休館、ただし7/17・9/18・10/9は開館)。

大巻伸嗣展@東陽町

2006-06-24 | アート感想@関東
東陽町に行ってきた。

大巻伸嗣 Shinji Ohmaki : Liminal Air -Descend- 2006

昨年、都内3箇所で同時期に展覧会を行った大巻伸嗣の個展。一言で言えば「体験型インスタレーション」。自分で体験するのも面白いけど、他人が体験しているのを見るのも面白い。この体験を言葉にしようと思ったけど、私の言葉は作品に比べあまりにも貧弱過ぎて挫折……。というわけで、展覧会チラシより以下引用。
光を反射する柔らかい白線が無数降下し、観客を包み込む。天空から降下したかのように見える糸の下端に立った時、床面から反射する光とともに、天に導かれるように空間と融合する体験を得られることだろう。
このうち、無数の白線は全て作家本人が切ったものらしい。それから、展示室には腰巻が用意されているけど、スカートは避けた方が無難かも。

GALLERY A4(ギャラリーエークワッド)(東陽町)にて、8月11日まで(日・祝休廊)。

照屋勇賢展@墨田

2006-06-18 | アート感想@関東
今日は隅田川のほとりのギャラリーへ。

照屋勇賢 水に浮かぶ島

沖縄に生まれ、社会問題を題材にしつつも、決してそれだけで終わらない作品を発表してきた照屋勇賢の個展。スポンサーの関係でビールがらみの作品が多いけど、彼の作品をこれだけまとめて見られるチャンスって滅多にないかも。

会場に入ると、色とりどりの鮮やかな液体が入ったビアジョッキの一群が目に入ってくる。これは《水の住む山》という作品で、沖縄の自然を色で表現した作品とのこと。

横浜トリエンナーレで観た《Notice-Forest 告知-森》も、当然のように展示されている。ここでは1点だけだけど、第2会場のアサヒビール本部ビルでは10点ほど展示。

《Towels Swing and Swim》は、壁にかかったタオルに魚が刺繍され、滝登りを表現している作品。タオルの脇には踏み台があって、この上に立ち壁に耳を澄ますと……この先は会場でのお楽しみ。

《空の上でダイヤモンドとともに》は、ビニールハウスの中に自転車が並んでいる作品。観客はハウスの中に入ることができるんだけど、何とそこには蝶が!虫が苦手でない方は是非。サナギの抜け殻も美しい。

《Rain Forest》は、トイレットペーパーの芯から枝の形を切り抜いた作品。《Notice-Forest 告知-森》よりシンプルだけど、それだけに紙と木の関係がダイレクトに伝わってくる。

このほか、巨大なパフェで沖縄の海を表現した《Dessert Project》が良かった。あと、《Are you talking to me?》は、耳をすませることを忘れずに!

すみだリバーサイドホール・ギャラリーにて(第2会場:アサヒビール本部ビルロビー)、7月18日まで(会期中無休)。

天上のシェリー@銀座エルメス

2006-06-10 | アート感想@関東
この日は銀座へ。

天上のシェリー/西野 達展

銀座、メゾンエルメスの屋上に仮設の小屋が出現(写真)。これは、横浜トリエンナーレ2005で《ヴィラ會芳亭》を発表した西野達(達郎から改名)の最新作。

正面玄関から建物に入り、エレベータで8階へ。改装中の仮囲いの脇を通り、非常階段を上って屋上に出ると、そこには工事現場で使うような仮設階段がさらに上に続く。仮設階段を上ってブルーシートで囲まれた小屋に到着。下を見ると人が蟻のようでちょっとコワい……。

靴を脱いで小屋に入ると、そこは十代の少女をイメージした部屋。しかし、ベッドの上には、馬に乗った巨大な花火師の像がどどーん!現実離れした光景にしばし唖然。予想はしていたけど、実物はもっとスゴかった……。

この花火師の像は、エルメス150周年を記念して花火イベントを行った際、実際にパリで使用した像の一つを、お店のシンボルとして屋上に設置したもの。普段は下から見えるんだけど、間近で見られるチャンスなんて、もう二度とないかも。

メゾンエルメス8階フォーラム(銀座5-4-1)にて、8月31日まで(6/21・7/5・7/19・8/16休廊)、11:00~19:00(入場は18:30まで)。


このほか、この日に回ったギャラリーのうち、私が気に入ったのは下記のとおり。

オラファー・エリアソン Your constants are changing
ギャラリー小柳(銀座)にて、7月8日まで(日・月・祝休廊)。

塩保朋子 ブレッシング ウォール
INAXギャラリー2(京橋)にて、6月29日まで(日・祝休廊)。

町田久美展
西村画廊(日本橋)にて、7月1日まで(日・月・祝休廊)。

アフリカ・リミックス@森美術館

2006-06-09 | アート感想@関東
会社帰りに六本木の森美術館へ。22時まで開館しているのが嬉しい(火曜は17時まで)。

アフリカ・リミックス 多様化するアフリカの現代美術

アフリカ大陸全土にわたる25カ国・84名の作家による約140の作品で構成された展覧会。でも、私が名前を知っていたのはウィリアム・ケントリッジぐらい(知らなさ過ぎ?)。展望台目当てのお客さんが多い森美術館で、ここまでマニアックな展覧会を企画したのには唖然。以下、気に入った作品をいくつか。

モアタズ・ナスルの《タブラ》は、「空の容器がいちばんうるさい音をたてる」というインドの諺にインスピレーションを得た映像作品。画面には美しい外皮をまとった「タブラ」(足に挟んで叩く太鼓)が映り、リズムを刻みはじめると、画面の前に並んだ多数の地味なタブラが画面に呼応するかのようにリズムを刻む。人間社会の縮図を思わせる作品。

エメ・ンタティカの《マグリット》は、タイトルどおりマグリット風の写真作品。一目瞭然で分かりやすい。

ハッサン・ムサの《グレート・アメリカン・ヌード》は、トム・ウェッセルマンの有名なシリーズからタイトルを引用し、ブーシェの官能的な作品から構図を引用した作品。これだけだと単なるヌードだけど、モデルの人物が……これはインパクト大!

イングリッド・ムワンギの《不動の漂流》は、日焼けの跡で国の形を表現した写真作品。一方はドイツの形に肌が焼けていて“BURN OUT COUNTRY”との文字が、もう一方はアフリカ大陸が白抜きになっていて“BRIGHT DARK COUNTRY”との文字が書かれている。なかなか考えさせる作品だった。

ウィリアム・ケントリッジの《パリの次に素晴らしい都市、ヨハネスブルグ》は、約8分の木炭画アニメーション。この作家の作品は悲しみがじわ~っと伝わってくるものが多いけど、今回の作品はわりとストレートなメッセージ性がある作品だった。

森美術館にて、8月31日まで(会期中無休)。

ヨロヨロン 束芋@原美術館

2006-06-07 | アート感想@関東
会社帰りに御殿山の原美術館へ。水曜日だけは20時まで開館。

ヨロヨロン 束芋

75年生まれにもかかわらず、世界各地で目覚ましい活躍を続ける束芋の個展。原美術館の空間にあわせた新作3点が目玉。

新作の1点目は、受付の隣の部屋に展示されている《真夜中の海》。部屋の床面がスクリーンになっていて、観客は脇の覗き窓から映像を鑑賞。真っ黒なバックに、白線で描かれた波が次々と現れ、スポットライトで照らされたように不思議なモチーフ(髪の魚?)が重なる。白と黒だけのシンプルで端正な作品だった。あとで別の場所からもう一度楽しむことも可能。

2点目は、日没後のみ鑑賞可能の《ギニョラマ》。この作品のために私は夜に来たんだけど、あえて日没後限定にしなくても……というのが正直な感想。色使いのセンスとキモチワルサは、さすが束芋といったところ。

3点目は、2階の奥の部屋に展示されている《公衆便女》。束芋お得意の3面スクリーンによるアニメーションで、現代社会の暗部を淡々と描いた作品。扱っている題材はかなり深刻なものもあるけど、それを徹底的にクールに表現していて、かえって恐ろしさを感じてしまう。束芋の「毒」が結実した見事な作品。なお、この作品の奥には奈良美智の部屋もあるので、2つの作品のギャップを楽しむのもいいかも。

このほか、映像インスタレーション《にっぽんの台所》、アニメーション《hanabi-ra》、朝日新聞夕刊に連載中の『惡人』の原画、新作アニメーションの原画など、盛りだくさんの内容だった。

原美術館にて、8月27日まで(月曜休館、ただし7/17開、7/18休)。