映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『ソルトバーン 〜Saltburn〜』

2024年05月27日 | 映画~さ~
2023年 イギリス・アメリカ映画






アマゾン・プライムで視聴しました。



まず最初に驚いたのが、日本ではこの映画は劇場公開はされずにプライムでの配信のみだったということ!


これほどまでの作品・豪華な俳優陣でも、配信のみということがあるんですね。…いや、他にも配信のみの良作はたくさんあることはわかっているのですが、あまりに素晴らしい作品だったのであらためてそれに驚きました次第です。





オックスフォード大学で知り合った社会階級の異なる学生が出会うところから物語は始まります。


富裕層の学生が集まるそのカレッジでは、奨学金で入学し古着を着るオリバーはどこか見下げられています。
この始めのシーンをみていて、歌手のリナ・サワヤマもケンブリッジ大学で心理学を専攻していた時に階級や人種で差別を受け、メンタルのバランスを崩したと言っていたのを思い出しました。(*もちろん、ケンブリッジやオックスフォードでは差別が当たり前ということではありませんが、残念ながらそういう経験をした人たちもいるということです。)


イギリスは、階級(クラス)がかなりはっきりと分かれており、それぞれに生活の仕方が異なります。念のために言っておきますと、どの階級が良い悪いでは全くありません。大雑把に言えば収入の差によるのですが、実際はそれだけではなく、趣味や余暇の過ごし方、食べ物や話し方、業種、住んでいるエリア、出身など様々なカテゴリーがあり、それらを総合的に見てクラスは分けられます。また、クラスは固定ではなく流動的でもあります。


労働者階級で両親は依存や薬物の問題を抱えた家庭出身、奨学金でオックスフォード大学に進学したオリバーは、貴族家系のフェリックスと出会います。


フェリックスの家は、ほぼお城。
何人もの執事を抱えるお屋敷で、風変わりなフェリックスの家族と夏休みを過ごすことになります。



実際に桁外れのお金持ちでエキセントリックな性格の方々がイギリスにはいます。
映画だからかなり強烈なキャラとして登場人物が描かれていますが、ある意味一般のイギリス人が思い描く「浮世離れした常識のないお金持ちのイメージ」そのままだったりします。(*もちろんお金持ち全員がこうではありません!)



全てが十分すぎる以上に与えられているフェリックス。
しかし、どこか満たされなさや常にチヤホヤされる現状に不満を持っています。
庶民(底辺)のオリバーの生活は彼にとっては「インスピレーション」という名の驚きの連続で、どんどんオリバーに興味を惹かれていきます。



風変わりで一人一人が強烈な個性を放つフェリックスの家族に、持ち前の読心術や賢さ、知的好奇心の高さや教養から、オリバーは一目置かれ、存在感を増していくのですが…。








表現されている内容は、風変わりという言葉では足りないほどにエキセントリックで、浮世離れした人々と、人間の欲望や変態性やサイコな部分を描いています。

強烈で極端で、そもそもの生活レベルが一般人のそれとは比較にならないのですが、ここで描かれる欲望や変態性って実はどんな人も多少は持っているものであるような気がしました。だからこそ、この映画の狂気じみた部分を笑いながら目が離せなくなってしまう(少なくとも私は、笑)。


オリバーの人の心を掴むテクニックは、あからさまに媚を売ったり褒め称えるものではなく、ピンポイントで相手が欲しい言葉や興味を差し出せる技術。これを見ている時に、ちょっと「頂き女子リリちゃん」を思い出したんですよね。人が欲しがっているもの、特に他の人がなかなか気づかなかったり与えにくいものに気づき、さりげなくそれを差し出せる。オリバーの場合は、気遣いやさりげない言葉、態度、眼差し、興味・関心の向け方や性癖にまで幅広く対応しているわけですが。



主演のバリー・コーガンが素晴らしいのは言わずもがな。
どちらかというと表情豊かなタイプの容姿ではないし、そこからは感覚を読み取りにくいと思うのですが、だからこそ醸し出せる不思議な存在感があり、この役に関しては淡々と周りの人を満たす行動を積み重ねていく様にぴったりで、彼以外の人がこの役を演じていたら全く別の映画になっていたと思います。



とにかく脚本、キャラクター設定が秀逸で、一人一人から目が離せませんでした。




個人的なお気に入りは、フェリックスのいとこのファーリー。
あの意地悪さったら!そして、叔父に金の無心をしなければならない屈辱を味わいながらも、超大金持ちの叔父家族にお金を恵んでもらう俺という立場をカラオケで披露(しかも歌がうまくて笑ってしまう!)したり、全く下手に出ないところが本人は明日の生活がどうなるかわからないというレベルで困っているわけではなく、寄宿学校(お金持ちが通う、年間の学費は数百万。叔父が出資)出身で金銭感覚はボンボンのまま…というのもとてもリアルだなと。



そしてフェリックスの両親を演じた、リチャード・グラントとロザムンド・パイク。
上流階級のアクセントで話し、家族の死を目の前にしても表向きは平常心を保ち続けるという狂気。こういう役を演じるためにリチャードがいるとすら思えてしまう。ロザムンド・パイクは、私の中では浮世離れしたエキセントリックな中産・上流階級を演じさせたら右に出るものはいないと思っていて、例えば『ゴーン・ガール』や『パーフェクトケア』のサイコパスがハマり役すぎて、この人こういう性格なんじゃないかとうっすら嫌悪感すら持っていたのですが、今回も期待以上の振り切りぶりで、嫌悪から称賛へ。手のひらを返さずにはいられませんでした。





執事もずいぶん独特な雰囲気だし、招待客らもちゃんと浮世離れした無礼さを携えていて、いちいち笑ってしまう。





正直なところ、どうしてオリバーはそれを執拗に求めていたのか、どうしてそれほどまでに手に入れたかったのはか私にはわからなかったし、喜びに声をあげたり笑顔を見せるわけでもなく、しかしソフィー・エリス=ベクスターのヒット曲『Murder on the Dance Floor』に載せて真顔で全裸で踊ったり、理由が明確にならない不透明さが彼の常人にはわからないずれ具合を表しているような気がしました。







ストーリだけでなく、セリフや家や色々なポイントがくまなく面白くて、大満足の作品でした。





おすすめ度:☆☆☆☆☆


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