禁煙マラソン
カズオは舌打ちしながら喫煙所を探していた。数キロ歩かないと喫煙所自体が無い状態になっていた。二五世紀に突入した世界ではタバコは吸うものではなく、ニコチンだけを抽出したタブレット状の舌下錠として販売されていた。カズオの様に紙に巻かれたタバコに火をつけて、肺からニコチンを吸収する行為は少数中の少数になっている。
喫煙の主流がタブレットになって良くなったことは、ニコチンの量を操作しやすくなり、禁煙の成功率が飛躍的にあがったことだ。しかし、シガレットを吸っているカズオにはその恩恵は受けられない。そしてカズオは何度と無く禁煙には失敗している。カズオの悩みの一つでもあった。そんなときカズオはネットで見かけた文章に目が止まった。
「百パーセント成功させます。禁煙マラソン」
カズオは絶対的な自信を感じて申し込みボタンを押していた。
後日指定された日時と場所にカズオは出向いた。都内の公園だった。しかし普通の状態では無い。ゼッケンを付けた沢山のランナー達がウォームアップを行っている。
(まさかな)カズオはいやな予感を感じていた。ジャケット姿の場違いな格好でうろつくカズオをめがけて男が話しかけてきた。
「禁煙マラソンでエントリーされたカズオさんですね。代表の岡野です」ちょびひげの男が握手の手を差し出しながら近づいてきた。岡野の体格は鍛え上げられたアスリート、規格外の体格だった。ますますカズオにいやな予感しかしなくなった。
「もしかしてこの大会にエントリーしたのですか?」
「そうです。マラソンお好きなんでしょう」
「私の目的は禁煙であって、マラソンは言葉のあやかと思いましたが」
「いえ!」
ちょびひげの岡野はきっぱりと断定した。
「言葉のあやではありません。今から強制的にフルマラソン走ります。走っている間はもちろん禁煙百パーセントです」
岡野がスタッフに目で合図を送った。カズオをがっちりと両脇から押さえつけて、骨格だけのパワードスーツにカズオを押し込み手足を固定し始めた。
「これは」カズオは岡野に聞く。
「アシストスーツです。タバコの欲求を感じると、スーツが強制的に走り出します。あなたがタバコを吸う事をあきらめるまで走ることを止めません。我が社のクライアントの禁煙率は百パーセントです」
岡野の説明を聞き終わる前にスーツを着たカズオは叫び声だけを残して走り出していた。
店員ニンジャ
客「酒とおつまみは買った。彼女に頼まれた牛乳とロールぺーパーも買った。短気だから早く帰らないとまた怒られる。遅いってな。でもレジに店員さんいないな」
ボム!煙がカウンター内に立ちこめる
客「うぉ!」
店員「安心めされい、ただの目くらまし」
客「目くらまし?ちっとも安心じゃない。あんた店員?ずいぶん変わった制服だね。まるでニンジャ」店員は目だけが見える全身青い格好だった。
店員「よくわかったな。令和の時代に生きるニンジャの末裔、学生ニンジャでもあり、バイトニンジャでもある」
客「簡単に言うとアルバイトの学生だね」
店員「そうとも言う。本日はこれから戦か?酒と食べ物で鋭気を養い、白い液体で身を清め、さらしの上に水で濡らした巻き紙をぐるぐるに巻き、刃物が通らないようにするのじゃろう。よしワシも褒美しだいでははせ参じるがどうじゃ」
客「戦ではありません。ただ帰宅して洗濯するだけです。バイトニンジャよ、どうでもいいが、早くレジをすませてくれるか」
店員「あい、わかった。しかし、拙者レジの使い方がわからんので、店長ニンジャを呼ぶのでそこで待て」
ボン!煙が出て、バイトニンジャが目の前から消えた。
カウンターの下から入れ替わるように男が現れた。髪を真ん中で分けたおっさんだ。
店員「いらっしゃいませ」
バイトニンジャと同じ声だ。
客「お前バイトニンジャだろ」
店員「いえ、私は忍びブロック長です」
客「何勝手に出世させてるんだ。たのむから早く会計をすませてくれバイトニンジャ」
店員「あいわかった」