吹奏楽コンテスト会場、まばゆい光であふれるステージ上に大編成のビックバンドが夢のように浮かび上がっている。最高に緊張しているであろう少年少女たちの表情はどの顔も固い。
舞台袖より指揮者が観客の拍手に答えながらゆったりと登場した。一段上の壇に上がり観客に頭を下げた。拍手はさらに大きくなった。カリスマをまとった指導者として彼は有名人だった。会場の空気を完全に掌握した彼は、指揮棒を持った手を軽やかに振り上げる。その手は挑みかかるように停止する。永遠かと思われる静寂が会場を支配する。指揮棒が静寂を切り裂く。
官能的なメロディーを管楽器が刻む。ステージ上はピンクのライトに変わっている。カリスマ指導者の頭にはサザエさんのお父さんの波平風のカツラが素早く装着されておりネグリジェ風の衣装にもチェンジされていた。
「ちょっとだけよ」
「あんたも好きねえ」
この曲で今年もグランプリを勝ち取った