目覚めた瞬間、路線図が頭に浮かんだ。とある駅名が点滅している。今回の霊はそうきたかと思った。私には霊感があったり無かったりする。霊の方も自分の存在を知る人物を好む傾向にあるらしい。しかし残念なことは、自信を持って自分に霊感があるとは言いがたいことだ。ときどき霊の気配を感じるかもしれないし、感じないかもしれない。私の霊感はとても優柔不断な能力なのだ。
霊が私の存在をどうやって知るのかは不明だが、彼らは手を変え品を変え私を呼ぶ。彼らはどうやら寂しいらしい。私はフリーランスのライターとい職業なので、常にネタを探している。霊感的なことを感じると、その気配には乗るようにしている。幸い今日の予定は特に無い。
ワンマン電車が走るローカル線の無人駅を降りて私は歩いていた。電車には私しか乗っていなかったが、降車した後の運転手以外、誰も乗っていない無人電車も結構なホラーだな。走り去る電車を見送りながらそんなことを考えていた。
真夏の太陽が照りつけるホームに一人立っていると一瞬気が遠くなった。時刻表を確認する。次の電車は二時間後だ。
気のせいかなと思った。金属の車輪が重量感を持って転がる音が聞こえたような気がした。私は真っ直ぐに延びるレールを見た。蜃気楼の様に歪む熱気をかき分けてこちらにやってくる車両が見えた。ばかな、単線ローカル線では運行不可能な電車だ。その車両は鉄道オタクではない私でも知っている。昨夜ニュースで見た次世代新幹線だ。私は絶句する。新幹線は停車することなくホームをそのまま走り抜けた。ホーンが五回なる。私の頭のなかでこう聞こえた
「イ・カ・ス・ダ・ロ」
夢中でデジカメのシャッターを切った。しかし、当然の様に何も映っていない。私は感慨深く思った。電車も幽霊になるのだな。