昔の望遠鏡で見ています

昔の望遠鏡による天体観望と、その鏡景写真についてご紹介します

撮影用接眼鏡

2021-08-27 | 天体望遠鏡
 寝苦しい夜に窓を開けると、カーテンの隙間から一筋の光が床に差し込んだ。初め街灯の光かと思ったのだが、その光の来る方向から月の光だと気が付く。背を低くして夜空を見上げると、軒先に淡い黄色の月が昇っていた。中空には、木星や土星も見えているようだ。部屋を見渡すと、床の月明かりに加え、壁や天井はそれぞれが街灯で照らされおり、都会の夜は思いのほか色々な光で溢れているのが判る。
 光があれば、影が出来る。空が暗いところでは、星も影を作るという。このことを、いつも試す友人がいた。彼は金星が見えると、手のひらと人差し指を使って、金星の影が出来ないか確認する。星空の下では、つま先を上げて、その見え具合で空の暗さを判定していたのも忘れない。その頃も、つま先が見えないくらいの夜空の下で、星を見たいものだと話し合っていたのだが、残念ながらこれまで経験したことは無い。

 一方、空が比較的明るくとも楽しめる対象もある。一番の代表選手は、月惑星だ。そんな月惑星を撮影しようと、かつて専用の接眼鏡を揃えたことがあった。





 タカハシとペンタックスの、NPとXPとういうシリーズのものである。共に撮影重視の思想で設計された製品だが、両方とも眼視にも使用できるものだ。NPに見える丸に横棒の印は、拡大率を求める際にフィルム面との距離が必要になるのだが、その時に用いる基準線を示すものである。痒い所に手が届く製品とは、こういうものなのだろう。XPは、金のラインで高級感を出しているだけでなく、対物側の迷光処理もしっかり行われており、当時評判が良かったのも判るものだ。

 これらは銀塩時代のもので、CCDカメラ全盛の今の時代では無用の長物なのかもしれないが、昔ながらの接眼鏡を用いた拡大撮影を楽しむなどして使って行きたい。

ミザール10cm反射

2021-08-20 | 天体望遠鏡
 かつて、10cm反射はいくつものメーカーが製作していた売れ筋の望遠鏡だった。その中でもミザールのH100は、ベストセラーだったのではないかと思う。その頃天文ガイドの裏表紙の内側は、ミザールの広告の指定席で、「いま一番日本でよく売れている」の枕詞も忘れられない。手元に同社の10cmF10鏡筒があるが、R100型という経緯台のもので、耳軸と上下微動竿が取付けてあったところに穴があるものだが、基本的にはH100と同仕様の鏡筒である。譲ってもらった際には、主斜鏡のメッキが劣化し、ヘリコイド式の接眼部が微動リングを回しても前後しない状態だったが、ミザールに問い合わせたところ、対応可能という事だったので、修理をお願いし見事に蘇っている。

 ご存じのように、この望遠鏡の最大の特徴は、ヘリコイド式接眼部であろう。修理後の接眼部は、ビスの打ち直しによって、一番奥まで収納できなくなったのだが、そのことによる支障は小さく、それよりも少しのガタもなくスムーズに動くようになったのには、驚いたものだ。ちょと回転が重いような気もするが、精密なピント合わせには有用だと思う。

 この鏡筒は初期のタイプで、ファインダーは二本脚のタイプである。ファインダー本体が付いていなかったので、3cmファインダーならどれでも合うだろうと同社のものを入手したのだが、後期型の全長の短いファインダーだったようで、残念ながら合わなかった。そうすると、悪い癖なのであるが、正規の状態それもなるべく綺麗な姿に、戻したくなってくるのである。その結果、長焦点のものを何本か揃えることになってしまっている。架台も中古のH100赤道儀を購入したのだが、どういうわけかタバコのような匂いがして、好みの状態ではなかったので、手持ち望遠鏡の有効利用を口実に、同口径の鏡筒バンドを持つT社の赤道儀まで入手してしまった。古い望遠鏡を入手すると、このように周辺の部分まで手が広がってしまうので、注意が必要なのである。

 後日、同社のカメラアダプターを手に入れたのだが、箱の中には接続金具が数種類付属していた。その中には、なんと30.5mm用の接続リングまであるではないか。これは昔のH100(R100)鏡筒などの接眼筒の規格であり、ミザールが昔の望遠鏡のユーザーも大切にしているということを知り、うれしくなったものだ。




 接眼筒の繰り出し量は、約27mmである。




 主鏡側である。押し引きネジが、周辺より奥まった位置にあるため、鏡筒を立てかけることができる。ただ主鏡保持部は、鏡筒側リングの内側へすっぽり入る所に位置していれば、もっと良かったであろう。




 観望の際には、アメリカンサイズの接眼鏡を利用することが多いので、使用しているADについて紹介する。
 上方は、ドイツサイズのオリジナル接眼ADで、取付けネジの規格は30.5mm径のピッチ0.75mmである。下方は、左から30.5mmのオスを、36.4mmピッチ1mmのオスにするリング。真ん中は、36.4mmピッチ1mmのメスメスのリング。右は、一般的なオスの36.4mmピッチ1mmネジを持つアメリカンサイズADである。この組み合わせで、アメリカンサイズの接眼鏡を利用している。



 アメリカンサイズADを取り付けたところ。これで、格段に覗きやすくなっている。



 同社のカメラADを、紹介する。
 真ん中の部品の下部には、見えていないが30.5mmのネジがある。これを、まず接眼筒に取付ける。右の部品は、真ん中の部品にそのまま被せることができる。



 対象を確認する際の状態。



 写真を撮影する際の状態。実際には、この上にカメラが取り付く。

 ミザールは、各地の星まつりに出店しているので、いつも寄らせてもらっている。HPもいろいろ工夫されており、楽しいものだ。同社には老舗として、マニア向けの製品も是非作ってもらいたいと思う。



エイコー9cm反射

2021-08-08 | 天体望遠鏡
 中学生の時には、天文クラブには入っていなかったが、同じ趣味を持つ者同士は引かれるのだろうか、望遠鏡を持っている友人が二人いた。それぞれの望遠鏡は、V社6cm屈折経緯台と、デパートから購入した10cm反射経緯台だった。V社の望遠鏡を持っていたのは大学助教授の息子で、親の理解もあるのだろう、すんなり買ってもらったようだった。席が近く、よく話をしていたのだが、越境入学だったのか、ずいぶん遠くから通っており、実物を見せてもらう機会は無かった。もう一人は、小遣いを貯めて買ったと聞いた。比較的家が近かったので、望遠鏡を前にいろいろ話をした記憶がある。望遠鏡は、中学生でも容易に扱えるF8位の物だったと思う。メーカー名は判らなかったが、鏡筒の奥底の鏡が怪しく光っているのが印象的だった。あの頃、筒内気流を防ぐために、筒先にラップをかけると良いという都市伝説があり、どうなんだろうなどと話をしたのを憶えている。また、D社に問い合わせ、赤道儀を購入したのだが、鏡筒バンドの寸法が合わずがっかりしていたのは、本当に気の毒だった。
 その頃は今と違って、複数の会社から小口径反射が販売されており、その中の売れ筋の一つが、エイコーの9cm反射経緯台だった。独特の斜鏡支持金具を持つもので、惑星観測家だった小石川の初めての望遠鏡としても、知られていた。この望遠鏡は、懐かしいと感じられる方も多いのではないかと思う。以下に、格納状況や鏡筒の細部などについて紹介する。


 
 外箱である。9cmではなく、3.5インチと表示されている。



 三脚と鏡筒が見える。望遠鏡の型式は、STH1650型である。定価16,500円とあるから、型番は定価と連動しているようだ。また、印刷物の隅に書いてある数字やその価格から、昭和45年頃の製品と思われる。



 鏡筒は、整形された発泡スチロールに収まっている。



 鏡筒の外観である。蓋や鏡筒前後のリング及びファインダー脚の塗装は、チリメン塗装である



 斜鏡支持金具が円形をしており、他に類を見ないものである。



 少し斜めから見たもので、斜鏡関係の各接続部の様子が判る。




 赤矢印は、斜鏡支持金具の取付部の補強板である。



 ファインダー脚は、指で回す二本のネジで着脱ができる。



 ファインダーを外したところであるが、指で回すネジの中間に、プラスネジが見える。これは、ファインダー脚を取り付ける際に、裏にナットを入れなくても済むように設けられた、裏板をとめているものである。先の斜鏡支持金具の補強板と併せ、細かなところにも気を使っているのが判る。



 主鏡側である。底の部分の塗装は、ちりめん塗装ではなく、光沢のあるもので、仕上げに統一性は取られていないようだ。



 接眼鏡の一つはH20である。バレルの側面にH.20mmと表示されているのは、珍しいものだ。先端にはサングラスが、装着されている。

 天文ガイドに連載されていた ' 天体望遠鏡をテストする ' に、同じ斜鏡支持金物を有するダウエル90mm反射経緯台が取り上げられている(1968年12月号)。その中で、筆者の富田弘一郎は「この望遠鏡の最大の特徴がこの斜鏡支持部です。他社製品は3本の吊棒で、鏡筒からささえていますが、これは写真のように板金を丸めて作った支持具で、この程度の反射用としてはたいへんけっこうです。この構造のものはディフラクションの出方が3本支柱の場合と違って、二重星の観測などにはたいへん有効なことがあります。」と述べている。このことから、同じ機構を有するエイコーの9cmも素性の良い望遠鏡だったということが判る。

 昔の天文ガイドの ' わたしの愛機のコーナー ' には、このエイコー9cmを始めとする小口径反射は毎月のように紹介されていた。これは、鏡筒が軽量でシンプルなので、天文少年が実際にいろいろ触って楽しむことのできる対象だったからなのではないかと考えている。夜は星を見て楽しむ、そして昼間は触って楽しむ。現代にも、そのようなものがあればと思う。