やっち@十月祭とビール好きの部屋

町田の小さな麦酒屋さんの奮闘記と、訪れた仲間たちのブログです

勇気をありがとう!

2013-11-02 20:05:03 | 日記


“Hさん亡くなったんだって”

昨夜営業中、来店されたお客さんの一言。
いつかその日が来るのは覚悟していたが、聞いた瞬間頭が真っ白になった。
顔は笑っているものの、やっていることはチグハグで、お客さんにも“プロだろ!”って注意されちゃった。

因果な商売だ。

Hさんが癌の宣告を受けて、その足で来店された時もそうだったっけ。
ちょうど混んでいて、入り口に現れた彼が私を手招きした。
“どうしたの?入んなよ”
そういう私を制止して、自分の病状と余命、もう来れないこと告げた。

店の喧騒と自分のテンションに、現状のピントが合わず、頭が霞んだ。
気の利いた言葉も、心からの言葉も、どちらも言えず。黙ってしまった。
“じゃあ行くね”
“うん、また…”
言った瞬間、それもあるんだろうかと思って言葉が詰まった。
私だったらこんな夜、側に誰かいて欲しい。
追いすがりたかった。彼を独りにしたくなかったのに、私には店が、お客さんがいた。

もしかしてこれが最後なのかと、彼の後ろ姿を見送った。
微妙な問題なので他言無用だと思った。
店に戻った私に、お客さん達は“Hさんどうしたの?”って言った。
“今夜は帰るみたい”とだけ答えた。
胸が苦しかった。

Hさんが初めて来店されたのは3年少し前、ちょうどマースⅠグランプリが始まる前だった。
ふらっといらした彼は少し酔っていた。
料金とジョッキのサイズの説明をしたら、マースを選ばれた。
大きな手でマースを湯呑みのように掴み、あっという間に1リットルを平らげた。

アットホームな雰囲気と豪快さが気に入られたのか、それからちょくちょく立ち寄られるようになった。
そして、初めて来店された時の私の対応をいつもからかわれた。
執拗に金額の話をしたって…。
ハーフパンツによれよれのシャツ。釣りの帰りに寄られた彼の風貌が“コイツ金あるのかよ”って思ったんだろうって…
バレてた。

それからも何度も通われ、自然と仲良くなっていったのに、彼は自分の事を話したがらなかった。
集合写真にも入ろうとはしなかった。
“これからどこに飲みに行くの?”って聞いても教えたがらなかった。イベントの連絡したいから連絡先聞いても教えてくれなかった。
私も詮索はせず、ただの“Hさん”として、何となく言葉遊びのような時を徒に過ごした。

彼の後ろ姿を見送った日からしばらくして、人づてに彼の事を聞いた。
あんなに隠したがった彼の素性。
どうしたことか?彼は話したがっているという。
あるbarのマスターに“メルマガに載せてくれ”と頼んだらしい(事情が事情なので断ったらしいが)。
blogも開設したらしい。

私は驚いた。

余命を告げられると人はこうも変わるのか。

それから、意外なほど彼をあちこちで見かけるようになった。
皆に印象を残したいのか、嫌がっていたはずの写真も積極的に入った。

奇妙なほど人に深入りするようになった。

“俺には飲み友達しかいない。だから飲めなくなったら誰も居なくなる”
赤い目で私にそう言ったね。
怖かったんだよね。

こんなこと言ったら不謹慎だけど、私は羨ましいよ。

最期にちゃんとみんなに自分を解ってもらえて、あげたい人にあげたい物をあげて、お礼を言えて。

あなたのためにどれだけの人が献杯しているか。

人の命はいつまでかなんて、誰も知らない。

人見知りだとか、シャイだとかぬかして出会いをパーにしてるやつらバカじゃねーかって思う。
言いたいこと言わないでどこまで持っていくのかって思う。
チャンスをみすみす逃す決断力のなさも愚かだ。

自営なのに自分を殺して愛想笑いして何が“自営“だとも思う。

明日かもしれない最期の日

なのに私は何が出来てる?

友達と言える人はいる?

わだかまりをそのままにしてない?

Hさんの死を羨ましいと言いながら、何故か涙が止まらない。
この感情はなに?

人は干渉されたい。
理解されたい。
誰かの心に残りたい。

…少なくとも私はね。

彼の死は私に勇気をくれた。
私の生き方は間違っていない。
これからも一瞬一瞬真剣に人に向き合って、傷だらけで生きていくよ。
うざがられたって、嫌われたって平気さ。

力をください。
見守っていてください。

“だからダメなんだよ!”言葉が聞こえそうだね。




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