アングル:高層アパート崩壊が映す金正恩氏の「アキレス腱」
[ソウル 21日 ロイター] - 北朝鮮の首都平壌中心部で起きたアパート崩壊事故。当局が異例の謝罪を行った今回の事故は、金正恩第1書記の「アキレス腱」を浮き彫りにしたかもしれない。
事故は5月13日、特権階級らが住む平川で発生。23階建てのアパートが崩壊し死者が出た。アナリストらからは、当局による謝罪の背景には、国民の怒りを鎮める目的があったとの声が聞こえる。
韓国政府関係者は、崩壊したアパートには92世帯が入居しており、数百人が死亡した可能性があると指摘。ただ、事故は午後に起きたこともあり、多くの住民が職場や学校にいた可能性もある。平川は正恩氏の執務室から歩ける距離にある。
大韓建築学会(韓国)によると、北朝鮮では通常、20階建て以上の建物は労働党幹部や学者、国家機関の幹部らに割り当てられるという。
ある韓国政府関係者は、「(アパートの住民は)国家が何もなかったことにし、無視できるような人たちではなかったようだ」と語る。
また、韓国の情報機関に勤務する脱北者のKwak In-su氏は、このアパートの住民は北朝鮮の最上級階級ではないものの、「権力やお金を持っている人たちだ」とコメント。
その上で「北朝鮮国民は携帯電話を所持しており、国民世論の広がりが政権に悪影響を及ぼすことも考えられる。政権はそれを未然に防ぎたかったのだろう」と謝罪の背景を説明した。
<日常茶飯事>
北朝鮮では、正恩氏の指示で馬息嶺スキー場をはじめ、アパートや道路、橋の建設を加速させており、崩壊したアパートもそうした「建設ブーム」の一環だ。
正恩氏の建設計画は、国外のアナリストらには驚きをもって受け止められ、貧困国の北朝鮮が必要な資材をどう供給しているのかには疑問の声が上がっている。中には、鉄筋など欠かせない資材を使わず、あるいは少ない量で建設されているのではとの指摘も出ている。
前出の韓国政府関係者は、こうした事故は場所が違うだけで「日常茶飯事だ」と発言。「今回のケースは、労働者階級のアパートではなかったことが特殊な点だ。よりよい資材が使われ、安全基準にも従っていたはずだ。それでも事故は起きた」と続けた。
衛星写真を分析する米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のカーティス・メルビン氏によると、同地区には完成したものも含め17棟以上の高層ビルが建設されているという。
2011年には、潜入取材を行ったアジアプレス・インターナショナルが、平壌で建設中のビルについて写真付きで報道。建築資材や作業員向けの食料が不足している実態を伝えた。
報道された写真の一つには、20階以上ある高層アパートが写っており、その窓のサイズが階ごとに若干異なっていることが確認できる。また、停電が頻繁に起きるため、エレベーターが備わっていないビルが多いという。
メルビン氏は「崩壊したアパートは、最初に完成したものでなければ、最高級のものでもない」とし、「このことは、他の建物の安全性をめぐる深刻な疑問につながる」と話した。
(Jack Kim記者 Ju-min Park記者、翻訳:野村宏之、編集:橋本俊樹)
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