myminicity

ネットゲームを始めました アクセスに応じて町が発展します ので 皆さんのぞいて下さい
今では相当変わってますけど

外事大事:南シナ海の波高し=坂東賢治

2014年06月08日 | 国際

毎日新聞 2014年06月07日 東京朝刊

 「マストから『見えた、見えた』の歓声が雄々しくも朝の空気を揺すぶった。万歳、万歳、北双子島の椰子(やし)のトップがはじめて水平線からのぞきかけたのだ」

 1933(昭和8)年8月から9月にかけて、大阪毎日新聞の探検隊が台湾南部から漁船で約1500キロ離れた南シナ海の「新南群島」を訪れ、島々の状況をリポートした。中国やベトナム、フィリピンなどが領有権を争う現在の南沙諸島(英名スプラトリー)だ。

 同年7月、ベトナムなどインドシナを植民地にしていたフランスが新南群島と重なる9島を新たに発見した と領有を宣言し、日本世論が沸き立った。新南群島では1920年ごろから10年近く日本企業が肥料の原料になるリン鉱石の採取場を設置していたからだ。政 府は日本人が先に発見し、経済活動も行っていたと抗議した。

 探検隊は北部に位置する北双子島など数島に上陸し、日本企業が設置した標柱や神社の廃虚などを発見、台湾に戻ってから1面トップでルポを報じた。見出しは「見よ、至る所 日本の足跡は躍動」と勇ましい。

 フランスの領有宣言には当時の中国政府も抗議した。フィリピンを植民地にしていた米国も周辺で測量活動を行っていたというから、多国間の領有権争いに発展する種は80年前にはまかれていた。

 日本は日中戦争さなかの1938年12月に新南群島の領有を閣議決定し、台湾総督府の管轄とした。さら に海南島を占領し、仏領インドシナに進駐して南シナ海を支配下に置いた。戦後に南沙や西沙を接収したのが中国だった。中国が領有権を主張する背景にも日本 が関係しているわけだ。

     ◇  ◇  ◇

 南シナ海の荒波は現在、振り子のように緊張と緩和を繰り返してきた米中関係を再び、緊張させている。

 オバマ米大統領は5月末の米陸軍士官学校での演説でウクライナと南シナ海を同列に並べて「不正な攻撃が野放しにされれば、同盟国に衝撃を与え、我々の軍も巻き込まれる」と述べた。

 昨年11月に中国軍が一方的に東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定して民間航空機にまで通過の際の事前通告を求めた。直後の12月には南シナ海の公海上で、米海軍の艦船が中国海軍艦船に異常接近された。

 米政府は2月に南シナ海政策を転換し、中国が歴史的権益を有するラインとして主張する「九段線」につい て「国際法に合致しない」(ラッセル国務次官補)とする姿勢を明確にした。中国が国際法に反する行動を続けたことが契機だったとみられている。ベトナムが 「牛の舌」と呼ぶ「九段線」は1940年代の地図に描かれた線を基にしたもので、その内側の水域は南シナ海の8割を占める。中国は1994年に発効した国 連海洋法条約よりも前に存在した権利と主張するが、範囲は不明確で、どのような権利なのかも判然としない。

 中国に「九段線」を既成事実化させないことが米国の新戦略だ。フィリピンと新軍事協定を結び、西沙諸島周辺での中国の石油探査を非難してベトナム寄りの姿勢を取ったのもそのためだろう。

     ◇  ◇  ◇

 安倍晋三首相はシンガポールでのアジア安全保障会議で「国際法の順守」「航行の自由」の必要性を強調した。主要7カ国首脳会議(G7サミット)の宣言にも同様の内容が盛り込まれた。

 「国際法に照らして正しい主張をし、力や威圧に頼らず、紛争はすべからく平和的解決を図れ」という主張は正しい。しかし、問題は中国にどう受け入れさせるかだ。

 アヘン戦争後の没落や日英仏など大国に国土を踏みにじられた近代史を背景に、既存の国際秩序や国際法体系に対する中国の見方は複雑だ。大国化する中国に「秩序を決めるのは結局は力だ」と言わせないためのモラルが問われる。

 オバマ大統領は士官学校の演説で「米国の影響力は我々が手本となる時により強力になる」と述べ、米国がまだ参加していない海洋法条約の批准を上院に迫った。

 米国も力を背景に国際法を都合よく使い分けてきた面がある。中国に国際法順守を求めるなら、自らの姿勢も正さないと説得力がないという判断だろう。

 日本もかつては力で新秩序を作ろうとした。むしろ、こうした過去の歴史に謙虚に向かい合うことが国際法を盾に中国に対する上で日本のソフトパワーになるのではないか。(第1土曜日掲載)

==============

 ■人物略歴

 ◇ばんどう・けんじ

 専門編集委員。政治部を経て香港、北京、ニューヨーク、ワシントンの特派員、外信部長などを務めた。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿