石原延啓 ブログ

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nobuhiro ishihara blog 

19世紀

2009-08-19 19:45:30 | Weblog


先日、旧知の横浜美術館の主席学芸員の天野さんとお会いする機会があった。
私は日本の伝統文化の源となった中世に興味をそそられているという話をしたが、天野さんは最近「19世紀」に興味があるとのこと。様々な問題が噴出する現代の状況を考える上でも、それらの兆候は既に19世紀に存在していたのではないかということだ。モダニズムの問題は語り尽くされてきたにもかかわらず、それでもなお調べなおしているらしい。その中で例に出されたのがワシントンのナショナルギャラリーに収蔵されているマネの「鉄道」という作品だ。
長い間ヨーロッパの人々を支配していたキリスト教の呪縛から開放された当時のアーティストたちは近代の象徴とも言うべき鉄道などをよくモチーフとして選んだようだ。但しマネのこの作品は鉄道という題名にもかかわらず、女性と子供のモデルの後ろに蒸気機関車から排出された煙のみ描かれている。女性はけだるい表情で画家を観ている。女の子は背を向けて柵の向こうを行く汽車でも眺めているのだろうか。女性との関係も定かではない。発表当時この作品は相当物議を醸し出したようだ。
天野さんはこの絵を観るたびに何か置いてきぼりをされてしまった感じがしてしまうと言う。そして近代の黎明期になぜマネはこのような不思議な謎掛けをおこなったのか非常に興味をそそられるらしい。なるほど。
神が死にテクノロジーの時代の幕開けにマネは煙の向こう側に何かを見たのだろうか?輝かしい未来?どん詰まりのモダニズム?
それ以上突っ込んだ話はしなかったが、私は久しぶりに「絵読み」の楽しみを味あわせてもらった。同時に私の作品に対して大きな示唆を頂いた気がした。