展覧会をやる度に色々と気づかされることがある。
今回も様々な気づきがあった訳だが、その中から会期前にアシスタントに入ってくれたアーティストの石黒君の話をひとつ。
彼は苦労人で壁画が描きたくて壁画等を中心に行う造形の会社へ就職したのだが、
配属されたのはFRPを使った作り物の部署で新入社員の頃は延々と同じ大理石のイミテーションを作らされたとのこと。
それでも壁画への情熱は失わず、例えばお茶を出す時に腕の良い壁画職人たちが何をやっているかを観察したりして全く独学で技術を取得したそうだ。
中でも彼が今でも尊敬するある壁画家は刷毛をバンバンと壁に打ち付けて絵を描いていたそうな。先輩たちのお茶やお菓子を用意しながら耳をダンボにしてそばだてている石黒君の表情が目に浮かぶ。
そして彼も同じように音をたてながら描いてみると、確かに絵具の乗りが違うという。会期ぎりぎりで窮していた私は彼にキャンバスの下地塗りなどもお願いしたのだが、やはり私が塗ったものと比べると一色置いただけのキャンバスの重みが違う。これには驚かされた。
彼は「ただ刷毛を動かしていると絵具も同じように動いているだけなんです。絵具はしっかりと画面に置かないといけません。」と言う。なるほど。
ある時期から私はドローイング的な生々しい強さを求め、ベースとしてきたが、久しぶりに「ペインティング」の強さを意識させられた次第。
石黒 昭ウェブサイト>>http://ishiguro-ya.com/
写真は石黒君が撮ってくれた私の展覧会の様子。