
森アートセンターのオープニングでドバイから来ているプランナーの方を紹介された。夕食を共にしている時にたまたま神話についての話になったら、中東は砂漠だから部族は食事や水を求めてうろうろしているうちに様々な不思議な話が口伝で親から子へと伝わっているんだよと教えてくれた。宗教ではないからモスリムとは別個だよとも。中東=イスラムと思い込んでいた私には非常に興味深い話。
そして口伝というところで先日聞いた話を思い出した。
東チモールから来たアーティストによると、自分の家系というのは大きな樹になぞえられてご先祖様の逸話とともに長男にのみ伝承されているとのこと。同じ樹の中では結婚できないなどなど決まりもあるらしい。かつて柳田國男が自邸に出入りしている老大工に「あんたは死んだらどうなるんだい?」と聞いてみると「わしゃ死んだらご先祖さまになるんだわい」と答えられて非常に安堵したという話を読んだことがある。しかし、こういった価値観が守られていた血縁的地域的なコミュニティーは西欧で発見された「個人」という近代的な自我の蔓延と共に崩壊してしまった。
今さら再び昔のコミュニティーの再生を望むのはナンセンスだけれども、行き詰まりを感じさせる現代社会の仕組みの中で新しいコミュニティの可能性を探る時に、信頼しているディレクターの方がおっしゃっていた「同じ場所におらずとも価値観を共にする者同士が星座の星のように点在してひとつひとつのプラットホームをつくることなんじゃないかなあ」という言葉が印象的でした。インターネット時代ならではの話。民主主義が成熟してくればくるほど、個人が名前を出して責任を持って行動するということが重要であるという話には襟元をぴしりと正されました。