まあまあ、落ち着いて落ち着いてと、まず、そう自分に言って聞かせるところから始めなければ。
盆と正月がいっしょに来たような騒ぎだから、まずは原監督の試合後のコメントで頭を冷やすとしよう。
「このところ非常にいい風が、彼に吹いている。まだホップでしょう。
簡単にはステップはこない。そんな甘いものではない」。
その通り。
われわれ、おっちょこちょいなファンは、すぐに一喜一憂してしまうきらいがある。
ファームで目を見張るような成績を出していたわけでもなく、
例年通り、一定の成績は残していたものの、やはり、外野手の故障者が一気に出たことで、
繰上げ的に上がってきた昇格だった感は否めず。
昇格した当初も、これまで何シーズンかで見てきた昇格と何ら変わらない状態だった。
ただ原監督が言うように、足と守備ではいいアピールが続いていた。
「チャンスを自分で勝ち取った」 という評価は、観ていたファンも今回は納得ではないだろうか。
先日のスワローズ戦での同点弾を振り返る大田のコメントを、スポーツ報知が取り上げている。
「力みなく打てました。ガチガチに力んだ方が、飛ばない。力任せに振って、いいことなんてない」。
さらに、ドラゴンズ戦の試合前には、 「7、8割の力で、今日は打撃練習くらいのつもりで打席に立つ」。
そんな言葉を呪文のように自分に言い聞かせ、
芯に当てることだけに集中してフリー打撃に取り組んだと大田は語っている。
おそらくここ何年ものあいだ、さんざん言われてきたことだと想像するが、
簡単ではないのだろう。
今季のファーム交流戦。甲子園で行われたタイガースとの2連戦で、兎に角、大田はヒドかった。
あまりの内容に、CS放送の中継で解説をしていた掛布雅之氏が、
掛布氏からすれば対戦チームの選手であるにも拘らず、かなり親身な口調で大田の状態を憂いだ。
1試合目は4の0で2三振。2試合目は4打席4三振。その三振の仕方も無残なもの。
キャッチャーが身体を大きく横に逸らして捕球にいくような、完全なボール球の変化球にも手を出す始末。
ピッチャーがボールを手から離すと同時にバットを振りにいっていると掛布氏も驚くありさまだった。
その後、何試合かファームでの打席を目にする機会もあったが、
良し悪しの具合にこれといった変化はなく、
それでもジャイアンツのファーム打線で規定打席に達している打者の中では、
ほぼトップクラスの成績を出し続けていた。
その結果が、8月の昇格に繫がったことは間違いないだろう。
一昨年、プロ入り初ホームランを放ったのもシーズンの後半である。
2試合連続ホームランのあともヒットが続いていたが、
ポストシーズンはベンチ入りできなかった。
原監督は大田の現状に対し、いい風が吹いている、と表現したが、このままいい風に乗って、
今季こそはポストシーズンまで一軍ベンチに残れるだろうか。
CSには高橋由伸も間に合うとの報道もある。
そうなるとよほど状態が良くなければ立場的には厳しいかもしれない。
少なくとも兆候はあった気がすると前に書いたけれど、
ここ数試合の上昇具合には、うれしさと同時に少々面食らうところもある。
原監督ではないが、そう簡単でもないだろう。
でも今回はちょっと楽しみたい。なんといっても2年ぶりだし。
だから、突然の爆発力も大田らしさと捉えよう。
多少の浮き沈みはあっても、豪快なバッティングこそが大田らしさ。
…。
なんだか似たような人がひとりいるな。
そうだ、澤村だ、澤村の愉しみかたも、たしかそんな感じだった。
投手・澤村拓一、打者・大田泰示。
なんとなく、共通点がありそうなふたり。
パワーピッチャーに、パワーヒッター。
力で打者を制圧したい澤村と、フルスイングでスタンドに打球をぶち込みたい大田。
力まずに投げることが課題の澤村。
力まずに打つことを身につけたい大田。
突然、22イニング無失点と快投を見せる澤村に対し、
かたや大田は、一週間のあいだで突然、2ホーマーにタイムリー2ベースと暴れまくった。
今季、派手さのないチームにあって、このふたりはズバ抜けて賑やかである。
今のジャイアンツには欠かせない投打の ”お祭り男” 。
ポストシーズンでも大事な役割を担えるだろうか。
大田の2本のホームランで、両方とも塁にいたのが鈴木尚広だった。
今季、神々しいほどの活躍を見せる鈴木尚広がホームでハイタッチのお出迎え。
これは縁起がいいぞ大田泰示。
最後の打席も死球で大当たりだったし。
そう、この日の大田は、あと3ベースが出ればサイクル安打達成というおまけまでついていた。
当てられても一塁ベース上で笑みを浮かべる大田に、この日、解説を勤めていた牛島和彦氏は、
「こういったケース、打者からすればわざと当てにきたのではないかと威圧的な態度になる選手が多いが、
大田はそんな態度を見せずに立派」 と大田を賞賛。
そういえば、今季、対ドラゴンズ戦で、
あとシングルヒットが出ればサイクル安打達成だったドラゴンズの和田に対し、
ジャイアンツは2打席連続で死球を当ててしまっている。
たしか、東京ドーム。
当ててしまったのは山口とマシソンだったと思う。
わざとではなかったと思いたいが、まあ、大田の死球は仕方がない。
笑顔で一塁ベース上に立つ大田の脇で、一塁手の森野の表情は何とも複雑だった。
後味の悪さが残りそうな瞬間だったが、大田の笑顔が一切を帳消しにした。