ここ2シーズンほどの、亀井の選手登録に違和感を感じる。
内野手・亀井義行。
亀井はやはり、外野手である。
彼の外野での守備力の高さはジャイアンツの中にあって、松本哲也と並ぶ二枚看板と言っていい。
守備範囲の広さ、スローイングのスピード、正確さなど、チームの中でもトップレベルだろう。
亀井がブレイクした2009年。
142安打を放ち、打率.290、本塁打25、打点71、盗塁12、5番を任され優勝に大きく貢献した。
その後の彼の躍進を誰もが信じた。
そんなシーズンだった。
シーズン終了後、その活躍とユーティリティーな存在を買われ、亀井はその翌年のWBC代表に選出された。
そこで彼はその後の彼のプレイスタイルに大きな影響を及ぼしたであろう一人の偉大な選手と出会う。
マリナーズのイチローである。
当時、ソフトバンクの川崎にしても、ロッテの西岡にしても、
ほとんどの若手選手はイチローと同じチームで野球がやれる喜びを口にし、目を輝かせた。
代表チームの中で一番経験の浅い亀井も当然のようにイチローとやれる大きなチャンスに胸を弾ませたろう。
実際、亀井も川崎らが口を揃えるように、イチローのプレイを間近で学びたいと貪欲な姿勢を見せていた。
周知の通り、原代表監督率いるチーム・ジャパンは2大会連続で優勝、世界1を勝ち取った。
大会全体を通して不調だったイチローだったが、随所でその存在感を出し、
最後は自らが発した「持っている」の名言どおりの活躍で主役の座に収まった。
大会後、皆がイチローの存在感の大きさと、プレイそのものに大きな感銘を受けたことを口にした。
原監督もインタビューで何度もイチローの名前を口に出した。
おそらく亀井も例外ではなかったろう。
そしてその影響が、亀井のその後のプレイスタイルに大きな意味を持たせることになったと、
執筆人はそう感じている。
それはWBC後のシーズンで見せた亀井のバッティングフォームやバッティングスタイルから見て取れる。
それまで随所で見られた亀井のドッシリとしたスイングはやや影を潜め、どんな球でも、あるいはどんなに体勢を崩されても、
ボールを拾おうとする器用さばかりを意識したそのフォームは、まるでイチローそのもに見えた。
その器用さをうまく自分のものにした、たとえば川崎宗則などはうまくハマったタイプかもしれない。
しかし亀井はどうか。
執筆人が亀井を強くイメージする二つのプレイがある。
ひとつは、彼がブレイクした2009年の前年、2008年の開幕直後のドラゴンズ戦。
神宮での開幕カード、ヤクルト3連戦戦3連敗からドームに移り、ドラゴンズにも連敗して向かえた3戦目。
開幕から5連敗の流れを引きずり、川上をまったく打てないジャイアンツ。
試合は6回を終えて5対1、開幕6連敗が濃厚なムードだった。
しかし7回の裏、それまで打ちあぐねていた川上から二死一、二塁のチャンスをつくり、バッターは高橋由伸。
ここで由伸が起死回生のスリーランホームランをレフトスタンドに叩き込む。
点差は1点。
ツーアウトランナーなしでバッターは亀井。
1球目のワンバウンドになる変化球を空振りするも、2球目の真ん中に入ってきた変化球を臆せず強振、
完璧にとられた打球はライトスタンド中段に突き刺さる同点アーチとなった。
この流れが次の小笠原にびっくりするようなスイングをさせて、それがライトスタンドポール際への逆転アーチとなった。
亀井らしいきれいなフォームで、思い切りの良いスイングが印象に残っている。
もうひとつは、ブレイクした2009年。
開幕からひと月が経ったドラゴンズ戦。
亀井は開幕からスタメンレギュラーをつかむまでには至らない微妙な立場にいた。
試合は4対2でドラゴンズリードのまま9回を迎え、マウンドには守護神・岩瀬。
先頭のラミレス、次の谷が連続ヒットでノーアウト一、二塁。
ここで亀井が代打に送られる。
送りバントが濃厚な場面だったが、原監督の策は強行。
その期待に応えるように亀井は1球目の変化球を迷うことなく振りぬくと、
打球はセンターバックスクリーン横に飛び込む逆転サヨナラスリーランとなった。
ヒーローインタビューで亀井は1球目から積極的に振りにいったことを「それが自分のとりえですから」と言い切った。
この試合から、亀井はスタメン出場が増え、シーズン中盤から後半にかけて5番を任されるようになったのだ。
この打席も、来た球をフルスイングする、迷いのない亀井の思い切りの良さ象徴する打席だった。
強い振りと、強い当たり。
前年からこの年にかけての亀井のバッティングには、この言葉がピッタリとハマった。
たとえば天才・イチローの一方で、またヨシノブも天才と称される。
しかしこのふたりは明らかにタイプが違う。
どう違うかを専門的に述べるのは素人には難しいが、たとえばどんな球でもヒットにするのがイチローとするならば、
ヨシノブは打てる球を逃さずきっちりと逃さず捉え、ヒットあるいはホームランにする、そういうタイプだろうか。
どちらかといえば、亀井は後者の、ヨシノブタイプのバッターではないか。
どんな球でも手を出してうまく捌くイチローのようなタイプのバッターではない気がする。
イチローはそんなタイプの選手の中にあってズバ抜けた才能を持っている。
まさにそこを目指す川崎宗則は頷ける。
イチローを目の当たりに体験し、攻守にわたり吸収するものは多かったろう。
しかしそれが、亀井が持っていた本来の質を見失わせる原因になったのではないかと、勝手に訝っていたのだ。
その翌年から始まった内野手への挑戦も、ある意味、ポテンシャルの高い亀井だからこそだろうが、
それすら迷宮への一旦に思えてもどかしかった。
来季から登録を外野手に戻す亀井。
もちろんチーム事情で内野を守る機会もあるだろう。
しかし本人のコメントからも伺えるように、外野手として初心に立ち返る決意は強い。
先日のスポーツ報知で、こんな記事を見つけた。
<亀井、来季テーマは「無心」人の意見より「自分の感性」>
内容は、岡崎2軍監督からの亀井に対する痛烈なアドバイス「いろんな人の話を聞き過ぎる」。
亀井本人も、首脳陣や他の選手からの助言を聞き入れるあまり、
試合ごとに打撃フォームが変わることがあったことを告白。
その性格を見直し、「まずは自分の感性を大事にしたい。何も考えない、無の状態で野球をやりたい」と語っている。
本来の亀井が外野に戻ってくると、ジャイアンツの外野争いは大変なことになる。