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高いプロ意識が、井端、鈴木尚の思い切りの良さを生む。

2014-09-11 23:07:23 | 2014年シーズン

「まぐれに決まっている。自分でも本塁打は考えていなかった。」
7回表、起死回生の同点弾を放った井端は、本塁打はまったく狙っていなかったと謙遜するようにそう応えている。

一方、原監督は 「あの場面は一発を狙っていたと思う。」 と断言。ベテランの勝負強さを絶賛した。

この日、CS放送で解説を務めていた掛布雅之氏も予想外の本塁打と驚きながらも、
「狙っていたように見える。6球目に、いちばんアマい球を投げさせた」 と舌を巻いた。


あの場面、井端は何を、どう狙っていたのだろう。

外の球も内にきた球も上手くおっつけ逆方向へ打つのは井端の真骨頂でもあるが、
もうひとつの井端の特徴に、狙い球を絞り、それを思い切って引っ張るという、
いわゆるキメ打ちが出来る勝負勘の良さがある。
クラッチヒッターという言い方があるけれど、まさにそれだろうか。

先日のスワローズ戦でのセンターへのタイムリーヒットや、
カープ戦で見せた一、二塁間に転がしたタイムリー内野安打など、
内角の厳しいボールを強引にでも逆方向へ持っていく打ち方は、井端にとってもうおなじみの姿である。
だがそれと同じくらい、思い切りのいいスイングでボールを引っ叩き、
強引にレフト方向へ引っ張るといった力強いイメージもまた、
同じように井端の特徴として多くの野球ファンのアタマに残っているのではないだろうか。

そんな思い切りのいいスイングが出る雰囲気を、あの場面、観ている側も少なからず感じていた。
ノーアウトでランナーなし。チャンスメイクしたい場面。条件は整っている。
だからこそタイガースバッテリーも徹底した外角攻めだったのではないか。
さらに2ボール2ストライクから投じた5球目のシュートがボールの判定。
岩田はストライクを確信して、投げたボールがキャッチャーのミットに納まって瞬間にマウンドを降りかけた。
これをボールと判定されたことが、次の球をやや内側に入れてしまう原因になったかもしれない。


「3ボール2ストライクまでの5球はすべてアウトロー。
5球目をボールと判定されたことで、最後の球がやや高めにいってしまった。
最後の球は井端くんがあのコースに投げさせた。
3ボール2ストライクというカウントをつくったことで、井端くんは狙い球を絞りやすくなった。
最後のひと振りは狙っていたようなスイングだった」。
掛布氏が解説するように、スローで見ると、
たしかにフォロースルーはきれいにレフトスタンドに向かって見える。

井端はその後のインやビューでこう言っている。
「二死から連打を続けるのは難しい。二塁打を打てればと思っていた。
中途半端にならないように、しっかりスイングすることを考えた」。

この場面、何が最善かということを冷静に見極めて、
そのためにはどうすればいいか、相手に対してどうアプローチすれば相手も乗ってくるか、
そんなことまで考えながら野球をやっていることは、普段の井端のインタビューの端々からも窺える。
ある程度のリスクを承知で思い切った策に出れるのも、
技術や経験、度胸や責任感といった、裏打ちされた多くの蓄積があるからこそだ。

3回裏の上本の痛烈な一二塁間のゴロに飛びついた際のあの絶妙なグラブの位置にしても、
あるいは初回の無死一塁で上本の犠打を処理したキャッチャー阿部に対し、
走ってくる俊足の上本とかぶって阿部が送球しづらくならないように、
一塁カバーに入った際にきっちりとベースに着かず、
阿部が投げやすい位置に少しだけズレて立っているというそんなプレイすらも、
すべて計算されたうえでの動きに思えてしまう。
そういった楽しみ方を、井端は常に与えてくれる。

タイガースが1点リードしていた中での岩田、菅野のこう着した投げ合いも、
この井端の同点弾で完全に流れがジャイアンツに傾いたように見えた。

「うちの戦う風景が来たということ」。
原監督は8回表の先頭バッター・長野がヒットで出塁した時点で、そこを勝負どころと捉えた。
もはや鈴木尚広の代走は、今季、中盤の代打・高橋由伸、昨シーズンの代打の切り札・矢野謙次、
一昨年の代打の切り札・石井義人に匹敵、あるいはそれ以上の効力を発揮していると言っても過言ではない。

無死一塁、橋本が3球目に送りバントを決めた瞬間、解説の掛布氏が思わず声を上げた。
鈴木尚広のスタートがあまりにもいいスタートだったからだ。
「原監督も苦笑いしてますよ」。カメラが捉えたベンチの原監督はたしかに苦笑いだった。
「成功したとはいえ、バントしたのがもったいなく思えるくらい素晴らしいスタートだった」。
掛布氏がそう感嘆したとおり、スローVTRの映像で見ても鈴木尚広のスタートは完璧だった。
いくらいいスタートをきっているといっても、スローVTRで見れば、
おおかたは投手の足が上がってからランナーが走り出しているのが分かる。
しかし、この鈴木尚広のスタートは、スローVTRで見ても、
投手の足が上がるのとほぼ同時に走り出していた。

「早い段階で盗塁のシュミレーションは出来ていた」。
鈴木尚広は、その回からマウンドに上がっていた福原の投球練習を観察し、
その段階で投球モーションを盗んでいたことを試合後のインタビューで明かしている。

さらに坂本のショート強襲ヒットの際も、鈴木尚広は福原のモーションを完璧に盗んで三盗を試みている。
掛布氏もこのシーンを振り返りながら 「今、鈴木選手はスタートきってましたよ!」 と驚嘆。
ストレートを狙っていたかのように振りぬいた坂本の強い打球がショート・鳥谷のグラブを弾き、
結果的にはこれがランエンドヒットのようなカタチになって鈴木尚広は一気に生還。
今季のジャイアンツの勝ちパターンが完遂した瞬間だった。

坂本の打った強い当たりの低いライナーがハーフバウンドで鳥谷のグラブを弾いたとき、
鈴木尚広はすでに三遊間の辺りを通り過ぎようとしていた。
この走塁が視界に入り、鳥谷は打球から一瞬、目が切れたのではないかと掛布氏は分析した。

「どんな形でも止めないといけなかった。前に落としていたら点は入っていない」。
鳥谷はそう言って悔やんだ。
たしかに強い当たりではあったが、鳥谷の技術なら捕れないことはなかったかもしれない。
とすれば、やはり鈴木尚広の走塁が鳥谷の守備に影響を及ぼしていた可能性は高い。

だが、あの場面はもう、鳥谷の守備云々ではなく、やはり鈴木尚広の走塁なのだろう。
あの状況で躊躇なくスタートがきれる鈴木尚広の勇気は、鈴木尚広の ”プロ意識” そのものである。
かつて、代走という役割をここまで深めた選手が他にいただろうか。

井端の思い切りのいい打撃にしても、鈴木尚広の思い切りのいい走塁も、
高いプロ意識あってこその仕事だといえよう。
もちろんそれは、しっかりと裏打ちされた技術があってこその意識である。