床に置いてある物体を動かそうとすると力が要る。これは床と物体との間に摩擦力が働くためである。摩擦力は物体が床を抑える力すなわち重力に比例する。摩擦力と床を抑える力との比を摩擦係数と呼ぶ。この摩擦係数は通常正の値をもつが、ナノの世界では摩擦係数がほとんどゼロになったりまた負になったりすることがあるようだ。MEMS(12/8参照)と呼ばれるスイッチなどの小型機械では、体積に対して表面積が大きいため摩擦は深刻な問題で盛んに研究されている。
中国とオーストラリアの共同研究グループの実験によると、厚さ200-400ナノメーターで一辺の長さが20マイクロメーターの柱状のグラファイトの上面に酸化シリコンを張りつけ水平に動かすとグラファイトの一部がはがれる。この際動かす方向によっては摩擦係数がほとんどゼロになるという。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/apr/05/nanomachines-could-benefit-from-superlubricity
摩擦係数が負になることはアメリカの国立研究所NISTの研究グループによって報じられている。この実験では、直径30nmのダイアモンド針をグラファイトの表面に接近させ表面と平行に移動させる。これはもともとは原子間力顕微鏡(AFM,7/2参照)の操作で、ダイアモンドとグラファイトの間に電圧を加え針と表面との間の力を測定することによってグラファイト表面の原子の配列を知ることが出来る。さて、ダイアモンドの針を動かすのには摩擦力に打ち勝つ必要がある。針が表面に近いほどグラファイト表面との間に働く力が大きいため摩擦力が増加するように考えられる。ところが、ダイアモンドの針を表面から遠ざける程針を動かすのに大きな力が必要であるという。この結果は、グラファイトの層(グラフェン)が針に引っ張られ歪み、針が表面から離れるほど歪みが大きくなり針を動かしにくくなると考えられている。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/oct/18/negative-friction-surprises-researchers
ナノの世界では全く予想されないことが起こることがまたは起こすことが出来るようである。
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それに果敢に挑戦しているのが久保田博士他数多くいるのも確かだ。あるトライボロジストはノーベル賞物理学者ヴォルフガングパウリの「表面は悪魔がつくり、結晶は神が作った。」という引用のもと、これを嘆くのだがCCSCモデルほど具体像を示せなかったのも事実だろう。