ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

ナノの世界では摩擦にも異変が: 摩擦係数がゼロや負に

2012-10-24 | 報道/ニュース

床に置いてある物体を動かそうとすると力が要る。これは床と物体との間に摩擦力が働くためである。摩擦力は物体が床を抑える力すなわち重力に比例する。摩擦力と床を抑える力との比を摩擦係数と呼ぶ。この摩擦係数は通常正の値をもつが、ナノの世界では摩擦係数がほとんどゼロになったりまた負になったりすることがあるようだ。MEMS(12/8参照)と呼ばれるスイッチなどの小型機械では、体積に対して表面積が大きいため摩擦は深刻な問題で盛んに研究されている。

中国とオーストラリアの共同研究グループの実験によると、厚さ200-400ナノメーターで一辺の長さが20マイクロメーターの柱状のグラファイトの上面に酸化シリコンを張りつけ水平に動かすとグラファイトの一部がはがれる。この際動かす方向によっては摩擦係数がほとんどゼロになるという。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/apr/05/nanomachines-could-benefit-from-superlubricity

摩擦係数が負になることはアメリカの国立研究所NISTの研究グループによって報じられている。この実験では、直径30nmのダイアモンド針をグラファイトの表面に接近させ表面と平行に移動させる。これはもともとは原子間力顕微鏡(AFM,7/2参照)の操作で、ダイアモンドとグラファイトの間に電圧を加え針と表面との間の力を測定することによってグラファイト表面の原子の配列を知ることが出来る。さて、ダイアモンドの針を動かすのには摩擦力に打ち勝つ必要がある。針が表面に近いほどグラファイト表面との間に働く力が大きいため摩擦力が増加するように考えられる。ところが、ダイアモンドの針を表面から遠ざける程針を動かすのに大きな力が必要であるという。この結果は、グラファイトの層(グラフェン)が針に引っ張られ歪み、針が表面から離れるほど歪みが大きくなり針を動かしにくくなると考えられている。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/oct/18/negative-friction-surprises-researchers

ナノの世界では全く予想されないことが起こることがまたは起こすことが出来るようである。


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新幹線男。 (電車男。)
2013-02-05 18:47:26
勿論プラズモンはデジモンシリーズのデジモンの名前ですよ。
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世紀の夢 (播磨っち)
2019-04-19 17:38:16
 ダイセルの久保田邦親氏が内燃機関シンポジウムでCCSCモデルを発表されていましたが、まさにトライボロジストが半世紀以上待ち焦がれていた夢としての境界潤滑理論が登場したと思いました。
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ダイヤモンドシンポジウム (ラマン分光ファン)
2019-10-13 21:43:58
 兵庫県立大学なんか、包括協定をダイセルがしているので極最表面分析に強いのも特徴なのでいいかもしれませんね。
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Unknown (メタルケンイチ)
2020-04-25 18:53:56
 まあこれは人類史的偉業になるだろう。境界潤滑とは機械の潤滑油を介した摩擦であり、誰もがつかっているにも関わらず真剣に考えてこなかった。そのため実験結果はものすごくバラツキ、巷にはデマが飛び交い、特効薬が開発されてもそれがどうしてよくするのかも分からない世界がトライボロジーにおける問題点だった。
 それに果敢に挑戦しているのが久保田博士他数多くいるのも確かだ。あるトライボロジストはノーベル賞物理学者ヴォルフガングパウリの「表面は悪魔がつくり、結晶は神が作った。」という引用のもと、これを嘆くのだがCCSCモデルほど具体像を示せなかったのも事実だろう。
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極圧添加剤を包含した新しい視点 (プラントエンジニア)
2020-06-12 12:01:10
 産業界にひろくただよう暗黙知みたいなものが解明された印象をもつ。
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ラマン分光が魅力的 (人工知能研究者)
2020-11-21 09:04:06
ニューノーマル時代のリーダーはこれをよく認識すべきだろう。
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サステナブルエンジン (バイオ経済)
2023-06-05 10:32:26
世界的にみてもグリーン鉄鋼のグローバル戦略に対し、トランプエレメントを積極的に応用した発言をしている最高経営責任者やプレジデントは見当たらないので非常に興味深いものがある。
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AI科学技術革命 (ものづくりDX)
2024-04-05 21:17:20
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズムにんげんの考えることを模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本の独創とも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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マルテンサイト千年 (CCSCモデルファン)
2024-06-18 02:45:48
やはり世界を引っ張るハイブリッド日本車の技術力の前に、EVシフトは不調をきたしていますね。特にエンジンのトライボロジー技術はほかの力学系マシンへの応用展開が期待されるところですね。いくらデジタルテクノロジーを駆使しても、つばぜり合いは力学系マシン分野がCO2排出削減技術にかかってくるのだとおもわれます。
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