読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

「論座」10月号より

2008-11-15 15:24:45 | 雑誌の感想
 嫌だけどまた「田母神論文」

 何か書き忘れたような気がして仕方ないので思いつくままに書いてみる。

 田母神論文の件でびっくりしたのはアパグループという会社が「真の近現代史観」などという右翼くさい論文を募集するほどトップがアレだったのかってこと。まあ、変な宗教を信仰しているような経営者もたくさんいるし、本社ビルの屋上に祠があったりするようなとてもレトロな雰囲気の会社もあるしそれはどうでもいい。
 アパはかつて、派手な服装の女社長が自社の宣伝CMに出たところ、「(ビジュアル的に)ひどい顔を見て精神的に苦痛を受けた」といった類の苦情電話が殺到し、そのお詫びにホテル宿泊無料券を郵送し、また大々的にお詫びのCMを流したため、その真摯な対応に却ってひいき客が増えたというエピソードがテレビで紹介されていた。そのクレーム対応のユニークさはともかく、女社長が夜なべして、客室すべてに置くメッセージ付きの折鶴を折ってるという姿はちょっと熱血体育会系っぽくって嫌だなと思ったもんだがそういう立志伝もどうでもいい。

 問題は、 田母神「侵略否定」論文の背景 自衛隊とアパグループの密接な関係(J-CASTニュース)に見られるような、右翼の論客とグループ代表、および自衛隊との密接な関係だ。このブログ(SHINAKOSAN IS OKINAWAN)に出てくるが、そういえば耐震偽装で問題になったヒューザーの小嶋進氏も、アパ代表の元谷外志雄氏も安倍元首相の後援会幹部だったっけ。してみると安倍さんのいう「美しい国」の中身や憲法改正を目指す自民党保守系政治家たちのものの考え方がわかるってものじゃないか。

 上記ブログに、「鵬友」という航空自衛隊幹部学校幹部会発行の文集に掲載された田母神氏の論文が紹介されている。(リンクは下の方にある)
「航空自衛隊を元気にする10の提言~パートI~」
「航空自衛隊を元気にする10の提言~パートⅡ~」
「航空自衛隊を元気にする10の提言~パートⅢ~」

 論文というには散漫な文章で決めつけが多すぎる。パートⅡの「6 止(や)めない勇気と始める勇気」「7 身内の恥は隠すもの」なんて、あーそー、だから前例悪習が断てないのねとつい思ってしまうし、「また戦後の社会風潮や日教組に牛耳られた学校教育のせいで、何にでも自分の権利を主張したがる人が増えてしまった。」「マスコミもこれをあおり立てるようなところがある。」ってあーそー、やっぱり戦後教育が悪いってことー?社会保険庁をバッシングする番組なんかには制裁を加えてやれって発想も出てくるわなと納得する。「8 戦場は二つある」なんて怖いなあ。世論が相手の戦場でメディア操作がうまくできなくては戦争に勝ってもマスコミに負けてしまうってさ。ブッシュ政権のメディア操作を礼賛してるじゃない。パートⅢの「はじめに」「無実の罪が真実として一人歩きをするようになってきた」「当時の中国大陸や朝鮮半島はいまのイラクのようにテロが日常的に起こり、多くの日本人が殺害され続けていたのだ。治安は不安定でいわゆるゲリラ戦状態である。日本軍が進出したことにより治安は安定こそすれ、決して悪くなることはなかった。テロに会い続けながらも日本は、日本本土に投資する金を削って満州や朝鮮半島に金をかけ続けた。日本の投資があったことにより満州も朝鮮半島も住民の生活は飛躍的に改善されたのだ。」って、イラク侵攻を正当化するアメリカの言い草とまったく一緒だし、過去を反省なんて視点は片鱗もない。次が「攻撃は最大の防御」っていうのだから実に物騒。

 読むだけでぐったり疲れる文章だけど、これが自衛隊幹部の方々には絶賛されてたのか?

 論座2008年10月号より

 軍事関係の上層部はもっと常識的歴史観の持ち主で戦略的な思考の人に就いてほしいものだと思う。それで、実はさっき内田樹氏のブログを読んでいて思い出したのは「論座」2008.10月号(最終号)五百旗頭(いおきべ)真氏(防衛大学校校長)インタビュー、「日中関係の鍵は東シナ海での共同事業にあり」という記事だ。
こういうところ。
 私が福田さんに一番お願いしたのも、東シナ海のガス田問題で合意をつくるために頑張ってほしいという点でした。
 中国の軍事力はこの10年で3倍でしょうか、たいへんに上げ潮になってきています。今は日中中間線あたりで中国が開発しているガス田の上を日本の航空機は自由に飛べます。しかし、その状況は5年、10年たつと変わってくるかもしれません。
 そうなったら日本が既得権のように思っているものと何かの瞬間にぶつかったりするかもしれません。日中軍事衝突が思いがけず起こるかもしれません。それが世界の大ニュースになってしまうと、「第三次日中戦争」みたいな空気になりかねません。
 今は実のところまれなチャンスだと見ています。意外と思われるかもしれないけど、反日暴動のあと、胡錦濤政権は日本との関係に非常に気を使っているのです。例えば、香港の運動家らが尖閣諸島へ船を繰り出していこうというのを、中国政府がきちっと止めていますし、ブログ等での反日的な言動をかなり厳しく抑えている。小泉さんの時は、中国としては関係改善したかったけれども、ブレることなく靖国神社に参拝されたのでは国内がもたない、じっと我慢をしながら、さらなる悪化を食い止めていたんです。
 そこで、首相が安倍さんに交代したとたん、安倍さんが親中派でないことはよく知った上で対応を変えたのです。そういうことを日中友好21世紀委員会で中国側の人に言ったら、「ああ、いいんです。ニクソン大統領と同じです。ニクソン氏は大変な反共の戦士です。だけど、その人が米中改善の歴史的役割を果たす。二クソン氏の真意が反共かどうかということは最重要の問題ではない。彼が歴史的役割をしっかり演じてくれたらいいのです。安倍首相も同じです。安倍さんは他方ではインドやオーストラリアを誘って、中国封じ込め的な政策を試みるかもしれない。しかし、小泉時代に悪化した日中関係を改善するのが、安倍首相にとっても、政治的にプラスのポイントになって、それが一つの政治的資産になるとしたら、裏切れないでしょう。それでいいんです」と話していました。

わお、中国の政治家ってなんて戦略的な考え方の持ち主なんだろう。相手の立ち位置をよく理解した上で、お互いプラスになる方向に導いていく。特攻玉砕的な右翼の方々の行動パターンとなんと隔たりがあることか。
安全保障システムをまともなものにしなきゃいけないというのは、安全保障にかかわる学者、政治家や防衛省の幹部とか、そういう人たちの間では、いわば悲願だった。
 安全保障について先進民主主義国として求められる二つの要件があります。一つはシビリアンコントロールがしっかりできていること。もう一つは、必要な場合にしっかり機能する組織であること。小さくても安全保障を全うする部隊を持っている。あるいは意思決定システムを持っている政治です。この二つがそろって初めて国際水準だと思うんです。

きわめて真っ当だと思う。「たかじん」に出演した惠隆之介とかいう人が、「有事の際に自衛隊の出動が遅れたら大変なことになるから」と現場の裁量権の拡大を執拗に主張していたあれはやっぱ妄言の類か。
戦後日本については、国民が政治家を選び、国会が総理を選んで、民主主義的正統性を帯びる政府に、自衛隊は服するわけです。それは戦後日本社会で当然視されるようになったし、防衛省・自衛隊も、その考えは共有している。私も防衛大学校長という立場で半分、中へ入ってみて、それに対して反発する、かつてのような勇ましい人がいるかと思ったら、そうではなかった。自衛隊の幹部になるエリートは、まともな常識を持っていて、シビリアンコントロールをいわば内面化しています。

ほんとかよ。田母神さんはこういうのも「マインドコントロール」の成果だというんだろうな。
報告書には、ネガとポジというようなものを書いています。マイナスのミス、エラーをしないことが重要な課題ですが、エラーを恐れてダイビングキャッチをしないチームとなっては役に立ちません。ミスの回避を最終目標にするのではなくて、志を持って組織を挙げて立派な安全保障の仕事をやろうと、それに燃える中で、技量を高めて、ミスを極小化していく。そういう観点にたたなきゃいけないという主張をしています。
 もう一つ大事なのは、自衛隊を生かすも殺すも、結局は政治次第であり、国民次第です。部隊レベルでは頑張っているが、国家戦略レベルでは愚行の極みというのでは、かつてのような構図をつくってしまう。それは絶対にやってはいけない。首相官邸が大局に立って外交や内政の基本方針をしっかり打ち出す。それができるような人材を政策を防衛省が用意する。そして、政治が大局から方針を決めれば、それを踏まえて効率的に健全にそれを実施する。いつでもそれができるよう自衛隊は、精強にして規律ある部隊を用意していなければいけない。

私は思うに、あの論文の正否はともかくとして、ああいう人が自衛隊幹部だったのかという失望感があって、漠然と抱いていた自衛隊に対する信頼やイメージが崩れたってのが大きいと思う。それに世界的な金融危機でどこの国も今、生きるか死ぬかの瀬戸際ってときに、過去の戦争が正しいだのどうのと言いだすとんでもない復古調が流行して連日議論してるこの国って何よ、と世界中の人が首をかしげてるだろうなあと思う。2ちゃんねるでも最近バカにされてるっぽい麻生さんはさっさと解散総選挙してほしいよまったく。

――長年にわたって、陸海空は予算比率が同じという直接的体質をもっています。そのため脅威の変化を踏まえた組織改革ができないでいます。こういう問題は報告書の中からどう読み取ればいいのでしょうか。
五百旗頭 私の最初の案では、一番事情を分かっている陸海空がそれぞれ予算案を作った後、内局で全体案をまとめればいいとしていました。(中略)そしてたら当時の石破大臣が、「20年にわたって3幕の予算比率がほとんど変わってないことをご存じですか。一度、陸海空が自己完結的に予算を作ったら、その後は聖なる戦いになってしまい必死で守る。そのため予算比率を変えられないのですよ」と「全体最適化」論を説かれました。そこのところはもっともと思い、修正しました。
 大きな変化も起きています、例えば陸上自衛隊はソ連軍の北海道上陸作戦に備えて戦車を1200両持っていましたが、それをまずは900両に減らし、いずれ600両になります。
 だけど、こうした変化は誰が考えてもそうでしょうということになって、実感がじわっと出てきたところでやっとできるのが日本の通例です。聡明な人を集めれば「国際環境がこう変わって、これから日本が関与するであろう活動を考えたら、こんな大型戦車を使う機会は極めて少ない。もっと機動性のある、軽くて、しかも情報能力の豊かなもの、それが要るんじゃないか」というふうに、すぐに結論が出せると思うんです。世界の主要国もその方向で動いてます。しかし、自衛隊の場合、日本の多くのお役所と同じく、ジワッとみんなが諦めるまで待っている。これは遅いですね。

「歴史観」とかどうでもいいから、もっと現場の効率性とか機動力とかお金の使い方の適切さとかを真剣に考えてほしいです。


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1 コメント

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一語一語が傲慢 (釣本直紀)
2011-03-09 04:57:06
>彼が歴史的役割をしっかり演じてくれたらいいのです。安倍首相も同じです。安倍さんは他方ではインドやオーストラリアを誘って、中国封じ込め的な政策を試みるかもしれない。しかし、小泉時代に悪化した日中関係を改善するのが、安倍首相にとっても、政治的にプラスのポイントになって、それが一つの政治的資産になるとしたら、裏切れないでしょう。それでいいんです」と話していました。


この記事の中国側の人、の意見は大変中華思想の濃い傲慢な考え方だ。
「日中関係が悪化したのは小泉首相が原因だ」と決め付けて、日本の首相が誰に替わろうと中国側の姿勢が改まらなければ何の意味も無い事に考えが及んでいない。
日中関係を改善するのは日本の歴史的役割だと、日本の仕事だと見做してる。中国側から歩み寄る態度がまるで無い。
しかも関係改善が日本の為にもなるのだと、おためごかしまで抜かしている。如何にも中国人らしい図々しさだ。


>わお、中国の政治家ってなんて戦略的な考え方の持ち主なんだろう。相手の立ち位置をよく理解した上で、お互いプラスになる方向に導いていく。

この中国側の人とやらは戦略的でもなんでもなく只日本を舐めてかかっているだけです。
まず「日中関係良化を日本国民は望んでいる筈だ」と自惚れている。
その上、中国側の態度次第で安倍首相は中国を裏切れなくなるだろうと勝手に空想している。
安倍首相の評価を高めてあげようというのではなく、日本の首相に首紐を付けようという考え方です。日本の首相はその程度の罠にかかる存在だと軽んじている。冗談じゃない。
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