読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

貧乏くさい話と景気のいい話

2008-01-10 23:38:27 | 本の感想
*ここを見ている人はもうおわかりのように、ときどきやる気をなくして更新が止まるので出来れば、「はてなアンテナ」みたいなところに登録しておいて頂ければ無駄足を踏むことがなくてよいと思います。

 貧乏くさい話

 私はわりとよく100円ショップを利用する。ダイソーと24時間営業のスーパーとドラッグストアが連なった郊外型のお店が便利でよく行くからだけど、是非とも100円ショップで買わなくてはならないものもあるからだ。
 
 新聞の切り抜きを、昔はスクラップブックに張り付けていたのだけど、それだと値段が高い上にすぐ一杯になってしまう。試行錯誤した結果、子ども用のペラペラのスケッチブックを2冊中表に張り合わせ、背中をガムテープで補強して、そこにべたべた貼りつけることになった。これなら200円で済むし裏表紙の厚紙がちょうどよい硬さで、犬に齧られても中身が無事だからだ。
 朝日beも保存することがある。こちらはA3のクリアファイルだと、そのまんま入るので便利だ。A4サイズのファイルなどは20ポケットなのに最近はA3だと10ポケットしかなくなったのは石油価格の高騰のせいかと思う。でも、ホームセンターでA3サイズのクリアファイルを探したらとんでもなく高くて買えなかったから10ポケットでもありがたいと思う。中身がわかるように赤、青、緑の丸いシールを背表紙につけているがこれも5色セットで100円だった。ハサミも各種あって、新聞の切り抜き用の刃の長いのはとても便利だ。糊だけは100円ショップのものは粘着力が弱いので普通の一本300円の液体糊を使うことにしている。
 こんなふうに、新聞の切り抜きという作業一つ取ってみても100円ショップの商品が大活躍だ。これが以前は結構な経費がかかる道楽になっていたのだが、今は私のお小遣いでもできる。

 先日、ダイソーに行ったら、商品回収のお知らせが貼ってあった。クマのプーさんがついたメラミン樹脂のどんぶりから、基準値以上のホルムアルデヒドが検出されたと保健所からの連絡があったというのだ。もう一点、柿の葉茶から残留農薬が検出されたというお知らせもあった。どちらも中国製だ。柿の葉なんかに農薬をかけるのかと思ったが、去年うちの柿の木にはアメリカシロヒトリが大発生して、ほとんど丸坊主になってしまったことを思い出した。商品として栽培している農家は農薬を使わなくてはやっていけないのだろう。しかも中国だから、どんな農薬をつかっているかわかったものではない。帰ってから同じ健康茶のシリーズがあるかと調べてみたらプーアール茶とかとうもろこし茶とかいろいろ買っていた。念のためすべて廃棄した。
 100円ショップは、商品をいろいろ見ながら買う事自体が楽しいし、安くて家計の節約になるし、あそこでなくては手に入らないものもある。もはや生活に欠かせないものになってしまったが、ときどき「これでいいのかなあ」と思うこともある。そこで読んだのが、アジア太平洋資料センター編「徹底解剖100円ショップ 日常化するグローバリゼーション」コモンズ

 この本は、身近な「モノ研究」から経済と社会を考えるというアジア太平洋資料センターのグローバリズム研究会から生まれた本だ。知らなかったが、鶴見良行「バナナと日本人」(岩波新書)も村井吉敬「エビと日本人」(岩波新書)もこの会の研究の成果らしい。村井吉敬氏はこの本でも執筆しておられる。

 わたしたちは、100円ショップで物が安く買えてよかったと喜んでいるが、はたしてそれはいいことなのかどうか。100円ショップの商品はどのようにしてできているのか、価格破壊が進んだ結果私たちの暮らしにどういう影響があるのか、海外ではどういう影響が起きているのか、それを100円ショップの商品から考えるというのがこの本のテーマだ。

 「第2章 100円ショップはどうなっているのか」で商品の詳細な分析がされていたが、ダイソーの場合、商品の原産国は中国46%、日本15%、韓国12%、台湾10%だ。そこで、取材班は中国に飛ぶ。ダイソーやキャンドゥが取材させてくれたわけではないので、これらはすべて商品を買って分析したものだし、中国の取材は、買い付け旅行を手伝っている旅行会社に頼んで連れて行ってもらったという。100円ショップの商品の多くを製造している中国には、生活雑貨の巨大卸売市場が存在するという。東部沿海地、浙江省の義烏市というところだ。ここはもともと貧しい農村地帯だったところだ。農業だけで食べていけないので行商をする人が多かった。改革開放が始まってまもない80年代に「興商建市」をスローガンに市役所の近くに卸売市場を設立した。義烏市政府の積極的な優遇政策でこの市場はどんどん大きくなり、そこで売る商品を作るために工場団地が出来、ついには海外向けに輸出する商品の一大集積地となる。この「売れるものを作る」「商品の川下から川上へ迫る」という戦略が100円ショップの構造にそっくりだという。この義烏市で売られている商品の単価がものすごく安い。たとえば、目覚まし時計35円、包丁セット(5本)261円~653、定規5円、筆箱11円という具合だ。これなら買って送っても利益が出る。こんなに安くできるわけは、やはり、労働者の賃金がめちゃくちゃ安いからだ。10時間の長時間労働、休みは月2日、給料は一か月8700円~。

 では国内の企業はどうだろうか。100円ショップに商品を卸している会社はなかなかそのことを表ざたにしたがらないらしく取材が難しかったようだが、陶器を製造している会社を取材することができた。100円ショップに商品を卸したいわけじゃなかったらしいが、陶器類の国内需要がこの10年で半分に落ち込んで、背に腹は代えられなかったらしい。実は100円ショップに納入すると通常は一個あたり10円の赤字が出る。これをなんとか利益が出るよう持って行くため、血のにじむような経費節減をしているらしい。第一にロボットや機械を導入し、徹底的な自動化を行う。第二にできるだけロスを減らすよう、品質管理を徹底する。(ダイソーは商品の欠陥があった場合、突き返すだけではなくて、高額のペナルティーをとったりするのだ)第三に「不況を追い風にして業績を伸ばそう」という前向き思考の徹底(???)第四に、残業を増やした。(そーだろーなー)第五に仕入れ価格の削減。
 ダイソーへの納入量は一日5万個、年間1600万個。デザインは頻繁に変える。合理化、機械化によって低コストを実現し、年間1600万個という商品の大量生産によって利益を確保しているということらしい。
 なんだかおそろしい気がした。この大量生産による薄利多売戦略は100円ショップ自体にも言えることで、本来100円以下では仕入れられないものを格安で仕入れるために数十万個単位で買うことで可能にしている。大量に仕入れるということはそれを売りさばく店舗が必要だということで、ダイソーや他の100円ショップが拡大経営をつづけているのはそのためだ。使い捨て、大量消費時代でこそやっていける商売なのだ。ダイソーの矢野社長がテレビで言っていたが「石油ショックがまた起こったらおしまい。いつ潰れるかわからない。」「進むも地獄、退くも地獄」ということで実は非常に危うい商売なのだ。
 
 「第5章 安いからと喜んでばかりはいられない」ではどのような悪影響があるかが考察されていた。簡単に言うと、第一に、しわ寄せは結局メーカーで働く労働者に「低賃金、長時間労働」としてはね返ってくる。第二に、衝動買いを誘発し、使い捨ての大量消費文化を助長する。第三に、小規模な小売店に打撃を与え、地域の空洞化を招く、などだ。では、どうすればよいのか。第6章では、競争ではなく、共生、あるいは棲み分けのための地域戦略ということが提案されている。おもしろいけど省略。こういうのは朝日新聞の社説でもずっと言ってることだ。

 ほんと、安いからと喜んでばかりはいられないなあというのが感想だ。ダイソーのホームページを見たら、ポップでいかにも若者や主婦受けしそうな作りでつい見入ってしまったが、そういうノリに乗ってしまってはいけない。この頃よく、星新一のショートショート、「おーい、でてこーい」を思い出す。今まで私たちが捨てたと思っていたものが、ある日突然、空から降ってきたら・・・と思うとぞっとする。ゴミ一つとっても自分ではとても処分できないのだ。今日も100円ショップでいろいろ買ってしまったが、「こういう勿体ないことをしてたらいつかばちが当たるよな」と思ってしまった。

 「景気のいい話」の方は明日。

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