読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

犬の散歩 2

2008-02-15 16:55:50 | 日記
 以前テレビの「トリビアの泉」で、「ご主人が崖から落ちそうになったら助ける雑種犬は・・・」というトリビアがあって、実験の結果は50匹中たった3匹だったが、家族と見ながら「そりゃあ、何の訓練も受けず、非常事態になったこともない犬が自分で考えてなんとかできるわけがないよ。これは頭の善し悪しの問題ではないと思うけどね。」と話したことがある。雑種犬を試す類似のトリビアはいくつかあるが、いずれも結果は芳しくない。それは当然だろう。犬にも向き不向きがある。飼い主だっていつか恩に報いてくれると思って飼ってるわけでもあるまい。私なんかもテレビを見ながら「この犬、すごく変な顔。毛並みが悪い。ちゃんとシャンプーしてるのか?やっぱりうちの子が一番かわいいね。あっ、この子はうちのにちょっと似てる。頭がよさそう。あー、やっぱりだめか。」などと犬バカ丸出しであった。

 昔、夫は飼っていた犬に救出されたことがある。

 散歩の途中だった。神社へ上がる道に、歩道から用水路を跨いだ小さな石橋が架かっていた。犬はちゃんと直角に曲がって橋を渡ったのだが、夫は走りながら斜めにぴょんと跳んだ。飛び越えられると思ったらしいが、少し歩幅が足りなかった。用水路に落ちて側壁でしたたかに胸を打ちつけてしまった。あばら骨にひびが入って、激痛のあまり溝の中にしゃがみこんでしまったそうだ。
 夫によると、「痛みがひどくて息もできない。ずっと溝の中にしゃがみこんでいたが、こんなところにいつまでもいたら死んでしまうと思って、思いきって立ち上がったら、目から火花が散った。」というくらい痛かったそうだ。用水路はかなり深くて、立ち上がっても頭がやっと出るか出ないかという高さだ。車が来たので痛くない方の手を伸ばして「おーい!」と叫んだが声がかすれてほとんど出ない。車はそのまま行ってしまった。がっかりしてそのまま側壁にもたれかかって突っ伏していたという。
 そしてその頃犬はクンクン鳴きながら歩きまわっていたのだが、走って行ってしまったので夫は自分を見捨てて家に帰ったのだと思い、悲痛な気持ちになったという。しかし、それはすぐ傍の家の奥さんが自転車で買い物から帰って来たのを見つけて走って行ったのであって、奥さんによれば「犬がクンクンいいながら走って来て何かを訴えるので、ついて行ったら人が倒れていた」ということで、すぐに救急車が呼ばれた。よかったよかった。事故の後、間もなく石橋は幅が倍くらいに広げられた。

 犬はその後、救急車の音を聞くとクンクン鳴きながらオロオロ歩きまわるようになった。おもしろいから私はその犬の前で倒れたふりをしてみたことがある。一度目はオロオロして服をくわえて引っ張ろうとしたが、二度目にやったときにはうさんくさそうに顔を嗅ぎまわっただけだった。三度目だともう完全に無視だった。犬を試してはいけない。
 その犬は柴犬でたいへん賢かったのに、夫が転勤して家を離れた時、世話ができないからとお義母さんが近所の家に譲ってしまった。私はそれを聞いた時とても悲しかった。なんで犬をぽいぽい人にやれるのだろうかと思った。あんなに賢い犬ってちょっとそこらへんにはいないよな、と思っていたらトリビアでそれが証明されたので、夫があまり思い出したくないらしいあの事故の話を子どもたちに聞かせてやったものだ。

 今うちで飼っている犬はどうだろうか?到底救出してくれそうにない。きっと大喜びで遠くまで遊びに行って、帰って来なくなるに違いない。

 それよりも最近心配なのは、犬自体が事故の原因になるかもしれないという不安だ。犬は神社の坂道で早く上に行きたいと馬車を引くようにして紐を引っ張る。私は息が切れるので坂の途中でリードをはずしてやることが多い(ほんとはダメなんだけど)。犬は弾丸のように走り出し、上まで一気に駆け上がると、杉林の方に抜けてUターンし、今度は坂道を駆け下りてくる。私が遅いので呼びに来るのだ。しかし、私のところで止まるわけではない。ドン、と体当たりすると下まで駆け降り、Uターンしてまた駆け登ってくる。そして後ろからキックして私のことを突き飛ばす。横っ腹にぶつかられるのも結構きつかったが、足をキックされると完全に前に倒れてしまう。15キロの米袋が時速30キロくらいで飛んでくるのだ。そりゃあ痛い。ご主人さまをバカにしているとしか思えない。
 私は想像する。もしも前から飛んできて膝をキックされたらきっと膝の関節がグキッとなって歩けなくなるに違いない。あんな人気のないところで倒れてしまったら、救出されるのは夫が帰ってきた後の夜中になることだろう。それまで私は神社の裏の林の中に倒れているのか?夏ならば藪蚊の餌食になるだろうし、冬ならば凍えて死んでしまうかもしれない。犬はどうするだろう。きっとバカだから「やったー!」とか言ってうれしそうに走り回ってどこかに行ってしまうだろう。そして遊び疲れたら家に帰って小屋に入り、何事もなかったかのような顔で寝るに違いない。あー、悔しい。
 想像するとムカムカと腹が立ってきて、坂道を2、3回往復する犬が私にぶつかってくる時に蹴飛ばしてやった。すると犬はゲホッと言ってそれ以降はキックしてこなくなったのだが、私は蹴飛ばしたときに膝がグキッとなって、ときどき痛むようになった。今も痛い。犬を蹴飛ばしてはいけないのだ。

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1 コメント

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おじゃまします (pinky)
2008-02-15 23:47:57
自分の語彙力のなさ表現力の欠如を、今更ながら嘆いております。そんな時、こちらのブログに出合いました。時間を見つけては、夢中で読ませていただいております。今日のお話も大変面白く読ませていただきました。どんな方が書かれているんだろう・・・と想像は膨らむばかりです。これからも楽しみにしております。
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