読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

林壮一「アメリカ下層教育現場」

2008-03-23 23:09:12 | 本の感想
 「貧困大国アメリカ」(岩波新書)と一緒にアマゾンで買った「アメリカ下層教育現場」(光文社新書)を読んだ。著者はアメリカでスポーツ関係のフリーライターをやっている人らしい。ブログがあった。
 ベガスと並んでカジノで有名なネバダ州リノで、大学の恩師に頼まれて著者は「チャーター・ハイスクール」の非常勤講師を勤めることになる。「チャーター・スクール」とは一般の公立学校よりも少人数制できめ細かく独自性のある指導を行うことのできるよう90年代に全米で作られた新しいタイプの学校であるらしいのだが、著者によると現在は一般の学校で落ちこぼれてしまった子の受け皿的な底辺校になっているという。ウィキペディアにもう記述が・・・。そんな学校で「日本文化」の授業を行うのだ。そりゃー、大変だ。教室にはスナック菓子の空き袋が散乱し、授業中に UNOやハッキー・サック(蹴鞠みたいなもんらしい)をやる者、MP3プレーヤーを聞く者、トイレに行ったきり帰ってこない者・・・(マリファナとかやってる)。著者は生徒たちを張り倒してやろうかと一瞬思うが、アメリカで生徒を殴ると逮捕されてしまう。保釈金でアルバイト料なんか吹っ飛んでしまうのでそこはぐっと我慢。工夫に工夫を重ね、体当たりでぶつかってゆく。生徒の集中力が50分くらいしか持たないから、2限目は公園に行って相撲やサッカーやボクシングなんかをやらせる。文字通り体当たりだ。
 生徒のほとんどは貧困層で家庭も崩壊しているから勉強のモティベーションはひどく低い。そういう子らに何を教えるのか。日本のアニメや漫画、童謡、干支などで興味を引き、文章を書かせたり、ディスカッションをさせたり、彼らも最後には自分の名前(カナ)と簡単な単語くらいは書けるようになる。すごい!
 その授業の具体的な様子に「これは並大抵じゃないなあ」とあきれたが、だんだんわかってくる生徒たちの過酷な家庭環境にも驚く。こんな状況から這い上がるのは厳しいだろう。

 著者の授業はおもしろいと生徒の評判を呼び、他のクラスから勝手に聞きに来る子も出てくるが、どうも偏見のあるらしい校長はそれを快く思わず、半年で授業を打ち切ることに決める。残された時間に生徒たちに何を伝えるかを考え、著者は最後に学歴のため苦しんだ自分の体験と、高校時代の同級生が起こした殺人事件を素材にして語る。学ぶことの大切さ、人を見る目を養うこと、決してあきらめずに努力すること。この本の体験もすごいけど、著者自身のそれまでの人生もすごいと思う。ヤンキー先生とかいう人よりもよっぽどましだ。

 その後著者は教壇に立った経験を活かすため「ユース・メンターリング」というボランティア活動に参加する。これは何らかの問題を抱える子供に対し、親でも教師でもない第三者の大人が1対1でサポートし、「子供の友人になること」を目標に掲げて行う活動らしい。この、BIG BROTHER & BIG SISTERという組織は100年以上もの歴史を持つ由緒あるボランティア団体だという。
 インストラクターは、アメリカ社会の暗部にも触れた。
 「低所得者たちのコミュニティーは、常識はずれの大人が独自のやり方で子供と接しています。だから、トラブルが増える一方です。こういった場所では、10歳になるかならないかの歳でアルコール、ドラッグ、喫煙、凶器の携帯などを覚えてしまいます。
 誰かが支えてあげなければ、善悪の判断ができない子供になってしまうのです。貧困エリアは、ドラッグの売人ギャングのメンバーになってしまう子が後を絶ちません。」

それこそ、まさに著者がチャーター・ハイスクールで感じたことで、こういうトラブルを抱える子どもたちをできるだけ早くにサポートすることがこの団体の目的であるらしい。著者はヒスパニック系の10歳の男の子のBIG BROTHREになって小学校に行き、いっしょに給食を食べたり遊んだりする。私が注目したのはここのところ。著者は小学校の校長に話を聞く。
 「担任教師が授業中に生徒と同じ空間にいるのは当然ですが、この学校ではランチルームにも、昼休みの校庭にも必ず先生が何名か立っています。また、我々ボランティアがブラブラすることで、風通しが良くなっているように感じます。大人の目の届かない所で苛めなどのトラブルを防ごうという策なのですか?」
 
「児童に規律を守らせる、マナーを教え込むためには、離れたところからでも常に大人が見ていなければいけませんからね。大人が沢山いれば、ちょっとした会話からでも教育的指導ができますから」
「今、日本では小中学校生の虐めが深刻な問題になっているのですが、非常にいいサンプルだと思いましたよ」
「ええ。いつもオープンにしておく。苛めは大人の見えないところで発生しますから、効果的な作用を齎しているように感じています。やはり年に数回は、そういう問題と直面しますので目を光らせていますよ。学校全体でチェックしています。」

学校にそのような第三者の大人が常にいるということは、問題のある生徒にいい影響があるだけでなく、学校全体が風通しがよくなっていじめの防止にもなるというのだ。

 それで思い出したが、日本でそういうことをやっているのが「よのなか科」で有名な藤原和博校長の和田中学だ。
 参考(WEBちくま 藤原和博×宮台真司対談・司会:鈴木寛)
 今日の「たかじん」で福岡の中学生が大暴れという事件が取り上げられたが、これも学校に第三者の応援が必要だと思った。ここまでひどいと一時的に隔離はするべきだとは思うが、そこからちゃんと教室に帰れるまでに態度を回復させるには学校の先生だけでは無理だ。校長だろうが教頭だろうが、普通の先生は暴力をふるうような生徒に対応する能力はない。そういうスキルをもった人を応援に呼ぶべきだ。それにこの件の背景には地域の問題もあるようで、地域の人たちの意識の改革や協力も必要不可欠だと思う。それにしても「たかじん」でコメントする人たちの意見の下らないこと。(いや、下らないということがわかるようになっただけでも宮台真司の本を読んだ効果があったってことかな)。宮台真司は「親や教師のバカが感染らない教育」ということを言っている。今までのやり方ではもう全然通用しないんだ。


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