読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

「イラク戦争、2兆ドルの悪夢」

2008-03-22 15:19:00 | Weblog
 先日の朝日新聞に、ニューヨーク・タイムズのコラムからの引用があった。
 海外の提携紙から コラムニスト ボブ・ハーバート「イラク戦争、2兆ドルの悪夢」(3月4日付) 
 前半を引用してみる。
 
イラク戦争の最終的なコストは、数千億ドル程度では収まらない。2兆ドルか、それ以上という驚異的な額が納税者にのしかかる。だが、こうした出費がもたらす結果について語られることは、ほとんどない。まるで米経済をむしばむガンのようだ。
 米議会の上下両院合同経済委員会は先日、イラク戦争の費用について公聴会を開き、参考人としてノーベル賞受賞の経済学者ジェゼフ・スティグリッツ氏、投資信託ゴールドマン・サックスのロバート・ホーマッツ副会長らが呼ばれた。スティグリッツ氏は、戦費総額は3兆ドルに達すると信じている人物である。
 両者が語ったのは、多額の戦費がつぎ込まれる陰で、失われた機会の数々だ。スティグリッツ氏は「この戦費の一部でもあれば、社会保障制度を今半世紀以上にわたって健全に維持できた」と語った。ホーマッツ氏は同委員会の試算を引用した。1日の戦費があれば、低所得層の子ども5万8千人を1年間、就学援助プログラムに登録でき、あるいは低収入の学生16万人に年間の奨学金を提供でき、もしくは国境警備隊員1万1千人か警察官1万4千人に1年間給与を払えた、というのだ。

 それだけではない。帰還兵の医療費や障害給付など目に見えないところで、今後莫大なコストが継続的にかかるだろうと予測されている。そして、ブッシュ政権はこの戦費に関する情報ができるだけ表に出ないように隠し続けているというのだ。

 ついでに昨日の「貧困大国アメリカ」(岩波新書)の補足。
 イラク戦争のせいで経費が削られ、ひどい目にあった例で有名なのはあのハリケーン・カトリーナの被害。老朽化した堤防が決壊してニューオリンズ市内は大洪水に見舞われたが、その対応の遅れの原因は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)のが予算が大幅に削減され、組織が縮小、多くの業務が民間委託された結果だった。災害対策のような、国民の命にかかわる部分は、決して功利主義に走ったり民間委託をしてはいけなかったのにそれをやってしまった。結果があのような大被害につながったわけだ。しかも、避難民の多くは被災以来職を失い、家を再建する力もなく、治安の悪さと公共サービスの低下などから帰る見込みもたっていない。それで家を手放す人が後を絶たず、そのような地域が地均しされて高級コンドミニアムやショッピングモールが建てられているとか。「やっと、(貧困者の住む地域が)片付いた。我々ができなかったことを、神が代わりにやってくださったのだ」だってさ。

 また、しわ寄せを受けている一つが奨学金制度だ。アメリカでは大学に行くために本人が奨学金を借りたり借金したりするのが普通であるが、返済不要な奨学金の枠が狭くなったため学生がクレジット破産する例が増えているという。
 アメリカ国内の若年層における平均カード借金額は4000ドルにのぼるが、その原因の一つが政府による成績優秀な者に返済不要な学資を提供する奨学金制度の予算カットだ。
 たとえばアメリカの代表的な連邦奨学金制度であるペル奨学金は、25年前には学生たちの学費の77%を占めていたが、2005年には平均で40%に低下している。これは二期にわたるブッシュ政権下で、アメリカ教育省が同奨学金の受給資格枠を縮めたことが原因だ。その結果、全米で10万人が受給資格を失い、120万人が受給額を削減されている。また、政府は奨学金以外では一般の金融機関が行う学資ローンに利子のみ補助しているが、2005年12月にアメリカ上院は連邦予算調整のためだといって学生支援計画予算から140億ドルの削減を、加えて下院が教育補助関連予算90億ドルの削減をそれぞれ提案し可決されたために、全米の学資ローン利用者の借金には新たに5800ドルが上乗せされた。

 ああ、目を覆いたくなるようなひどさだ。教育が唯一未来を切り開く手段と歯をくいしばって、借金を背負いながらなんとか大学を卒業しても、過去のようによい職に就けるわけではない。低収入、借金地獄のワーキングプアだ。イラク戦争の影響はこれからも長い間アメリカ社会を蝕んでいくに違いない。

 上記コラムニストの3月11付コラム Sharing the Pain.

 貧困層ばっかりにしわ寄せが行って、生存権を脅かされるほどひどい状況というのはまったく間違ってると思う。

最新の画像もっと見る