うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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日本人が指導する国と五輪切符を争う展開になりそうなシンクロ日本

2011年04月06日 | 水泳
シンクロナイズド・スイミングの元日本代表監督で、2008年北京五輪で中国代表ヘッドコーチを務めた井村雅代氏(60)が、ロンドン五輪でも再び中国代表ヘッドコーチを務めることが6日分かった。井村氏はこの日中国入りし、世界選手権(7月、中国・上海)から指揮を執る。

 井村氏は日本シンクロの黄金時代を築き、北京五輪ではチームで中国を銅メダルに導いた。再び中国を指導した昨年のアジア大会では3種目を制覇。同大会で契約が切れたが日本から声がかからず、依頼のあった3カ国から中国を選んだ。

〔朝日新聞 2011年4月6日の記事より〕


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現在世界女王のロシアとスペインに次いで、シンクロナイズド・スイミングの世界3強の一角を占める中国。北京五輪ではチームが銅メダルを獲得し、一昨年7月のローマで開催された世界選手権でも出場5種目で全てメダルを獲得。自国開催だった9月のW杯はスペインが不参加でしたが、出場4種目で全て2位以内に入り、ロシアが不参加だったデュエットでは優勝。11月の広州アジア大会では全3種目で他を寄せ付けず圧勝しました。中国の躍進は、やはり日本のトップクラスの指導者である井村雅代氏の中国代表コーチ就任を抜きには語れないでしょう。その井村氏が、今回3度目の中国代表コーチに就任することが先日決まりました。

今回の井村氏の中国代表のコーチ就任の知らせは、近年迷走状態の日本にとって、ロンドン五輪で非常に厳しい結果となる前兆のような気がします。なにせ、2004年アテネ五輪以降の日本は、世代交代の失敗と相次ぐ指導者の交代の影響で継続性のある強化が出来ずに、世界のトップクラスから中堅国にまで転落。現在の実力を考慮すると、おそらく次回のロンドン五輪で、1984年ロサンゼルス五輪以来続いていたメダル獲得の記録が途切れる可能性が極めて濃厚だと思います。というか、今の日本はメダルどころか、チームの五輪出場権獲得すら危ぶまれてます。

デュエットは24ヶ国が本大会に出場できるので、メダル争いは厳しくても、五輪出場権争いに関しては問題は無いです。しかし、チームは、五輪本大会には8ヶ国しか出場できず、非常に狭き門です。しかも、今回の五輪予選のシステムが、日本にとってかなり不利だからです。7月の世界選手権はロンドン五輪の大陸予選を兼ねており、アジア最上位チームに出場権を与えられます。ただ、大会の開催地が上海なので、反日感情が渦巻く敵地で中国に勝つのは厳しいです。しかも、中国のコーチが、日本を知り尽くしている井村氏だから、尚更です

「昨年のアジア大会後、日本を支援するというかすかな期待を持っていたが、日本からは声がかからなかった。(日本と五輪アジア枠を争う)世界選手権で五輪出場権を獲得するのは当たり前。ロンドンでは北京の銅と違う色のメダルを狙う」(朝日新聞 2011年4月6日の記事より)と井村氏が強気の発言をしているように、アウェーの洗礼を問う以前に、現在の日中の力関係を考慮すると、勝機は非常に困難です。実際に、日本の世界選手権の目標は4位なので、当事者ですら端から勝てるとは思ってないですから。やはり、採点競技は審判員の先入観が大きくものを言うので、一旦序列が固定化すると、それを覆すのは容易ではないです。

世界選手権で出場権を逃した場合、3枚の切符を賭けて来年4月にロンドンで開催される世界最終予選に臨まなくてはなりません。実はこの予選が更に厳しいのです。というのも、五輪開催国の英国が欧州代表となる為、欧州は大陸予選を実施せずに、世界最終予選から参加します。つまり、世界女王のロシア、世界2位のスペインが参加することを意味します。おそらく、この両国が五輪切符を獲得するのは間違いないので、日本は米国やイタリアやウクライナなどを相手に、残り1枚の切符を巡って熾烈な争いとなる展開となるのは必至です。しかも、日本のライバルと予想される、米国とイタリアの両国はいずれも日本人指導者が率いてます。米国が藤木麻祐子氏、イタリアが友松由美子氏です。

ご存知の通り、藤木氏は2003年から昨年までスペインを率い、短期間の間に同国を世界のトップクラスにまで成長させた有名な指導者です。今年の1月からは米国のコーチに就任し、かつての王国の再建を託されてます(→詳細はこちら)。一方、友松氏は、シドニー五輪&アテネ五輪の両大会の日本のコーチでした。余談ですが、友松氏は、アテネ五輪後は、一旦は所属クラブの指導に専念しますが、2007年に3年ぶりに日本代表のコーチに復帰。しかし、翌年4月に行われた北京五輪世界最終予選で、日本がスペインにデュエット、チームともに敗れてしまい、本番3ヶ月前に「自信喪失」を理由に辞任した苦い経験があります。それだけに、異国の地で心中ひそかに期するものがあるでしょう。おそらく、世界選手権は五輪世界最終予選の前哨戦となるので、この両国とウクライナに勝たないと苦境に陥るのは必至です。

もはや、メダルはおろか、五輪の舞台に立つことすら危ぶまれるほど、低迷真っ最中のシンクロ日本。日本人の指導者が指導力を評価されて世界各国で活躍しているのはとても素晴らしいことなのですが、本家の国が日本人指導者の手によって引導を渡されるのは、さすがに複雑なものがあります。だからこそ、本家の意地を見せてもらいたいものです。それにしても、日本水泳連盟は、井村氏と再び契約するチャンスがあったのにも関わらず、なぜオファーを出さないのか、大いに疑問に感じますね。


7月の世界選手権のシンクロ日本代表
前回北京五輪から変更されたシンクロの五輪予選システム


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