うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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3大会ぶりに世界水泳で金メダルゼロに終わったニッポン競泳陣

2011年08月10日 | 水泳
「トビウオジャパン」こと競泳日本代表。7月に中国の上海で行われた今回の世界選手権は、昨年1月から高速水着を規制されてから最初の長水路の世界大会となりました。正直、今大会の日本勢の成績をメダル数だけで評するのは難しいです。日本水泳連盟が大会前に掲げていた目標は「金メダルを1個を含むメダル5個を獲得」でした。今大会の日本の成績は、銀4(男子200mバタフライの松田丈志、男子背泳ぎ200mの入江陵介、男子200m平泳ぎの北島康介、女子50m背泳ぎの寺川綾)、銅2(男子100m背泳ぎの入江、男子400m個人メドレーの堀畑裕也)なので、目標の半分は達成してます。しかし、今大会は3大会ぶりに金メダルがゼロに終わったので、残り半分の目標は到達してないことになります。ただ、細かく調べると、今大会の日本勢は物足りない成績だと言えるでしょう。

5人のメダリストの内容は様々でした。4つの銀メダルのうち最も高く評価出来るのは、怪物マイケル・フェルプス(米国)に最後まで食い下がった松田です。入江は苦手の100mで銅メダルを獲得したのは評価出来ますが、得意の200mでライアン・ロクテ(米国)に完敗。あらためてパワー不足を露呈しました。日本人として初の400m個人メドレーで日本新記録を樹立して銅メダルを獲得した堀畑はライバル2人が不在だった幸運が大きく作用しました。寺川は100mではタッチの差で惜しくも5位に終わってメダルを逃したが、50mでは今大会日本女子で唯一のメダルとなる銀を獲得。50mは自由型以外は全て非五輪種目ですが、世界大会に参戦して10年目にして初のメダルを獲得した寺川にとっては嬉しいメダルのはずです。特に、女子は柴田亜衣と中村礼子が北京五輪を最後に引退してから日本勢は苦戦続きだったので、日本女子のエース格の寺川にとっては喜びもひとしおでしょう。堀畑にも共通してますが、どんなにエクスキューズがあろうが、成功体験を積むことはとても大切です。経験を一つ一つ積み重ねることが、いずれ大舞台で花開く素地となるはずですから。

日本競泳界の大黒柱である北島は、100mでは精彩を欠いて1分を切ることすら出来ず、優勝したアレクサンダー・ダーレオーエン(ノルウェー)に1秒32もの大差をつけられて4位と惨敗。得意の200mでは前半途中まで世界記録を上回るハイペースで飛ばすも、最後の50mでスタミナが切れて失速し、ダニエル・ジュルタ(ハンガリー)にゴール直前で逆転されて痛恨の2位。日本水連は、今大会の優勝者に来年のロンドン五輪代表の内定を与える内規を設けてました。北島は本番での勝負強さとピーキングに定評がある反面、国内選考会が行われる春先はあまり調子が上がらない傾向があります(北島と真逆のタイプが、今大会の準決勝でいずれも敗れた100mの立石諒と200mの冨田尚弥)。今大会で内定を得られなかったので、調整方法の変更を大幅に余儀なくされるだけに、実に勿体無い結果となりました。北京五輪終了後、長期休養を取っていた北島はブランクや4月の選考会での負傷の影響があったとはいえ、やはり加齢からくる衰えは隠せないのかもしれません。来年の五輪は29歳で迎えるだけに、もしかしたら種目数を絞る可能性はあるのかもしれませんね。

ちなみに、世界水泳の過去4大会の日本勢の成績は、2003年バルセロナ大会は金2・銀1・銅3の計6個(北島が2種目で世界新記録樹立)、2005年モントリオール大会は銀3・銅6の計9個、2007年メルボルン大会は金1・銀2・銅4の計7個、北島が不在だった2009年ローマ大会は金1・銀2・銅1の計4個です。高速水着で行われた前回大会と比較すると、今大会の日本勢のメダル数は増えてます。また、過去3大会は大会を重ねるごとにメダル数が減少傾向だったので、今大会はそれを食い止めたことはそれなりに評価出来るでしょう。しかし、今大会の日本勢は、4位が3種目、5位が4種目と、取りこぼしが目立ちました。前回大会の男子100m背泳ぎの覇者である古賀淳也が、体調不良の影響で出場した2種目とも決勝に残れずに惨敗に終わったのは、選手団全体としても痛恨でした。更には、入賞者数(男子11、女子7)自体が少ないのは、新戦力の台頭が乏しいことの何よりの証左です。五輪前年に開催された過去の2大会と比較しても、今大会はメダル数と入賞者数の面で物足りず、来年の五輪本番に不安を残しました。たしかに、惨敗に終わった昨年11月の広州アジア大会よりかは幾分マシだったとはいえ、ベテランの北島ら一部の主力選手頼みの構図は相変わらずです。

一方、メダルを取れなかった選手の中で健闘が光ったのが、女子200mバタフライでタッチの差で惜しくもメダルを逃すも4位入賞した星奈津美と、男子1500m自由形で決勝進出を果たして8位入賞した宮本陽輔です。星は決勝、宮本は準決勝でそれぞれ日本新記録を更新。今大会だけでなく、昨年8月のパンパシも振り返って分かるとおり、現在の日本女子は寺川に続く新しい戦力が伸び悩んでます。北京五輪で唯一の高校生の代表で、将来が期待されながら負傷の影響で不振が続いていた星の活躍はとても喜ばしいです。宮本は今年4月の選考会で、それまでの日本記録を約7秒上回る14分57秒56をマークし、この種目で日本人初の15分切りを達成しました。ちなみに、男子1500mで人類初の15分切りを果たしたのが1980年モスクワ五輪で優勝した旧ソ連のウラジミール・サルニコフです。かつて、この種目は故・古橋広之進が世界記録を連発した種目ですが、宮本は実に31年遅れでの達成なので、長年に渡って日本勢が世界で最も通用しない種目だと思われてました。それだけに、今大会で再び日本新記録(14分57秒12)を更新して決勝進出したのは評価出来ます。

とはいえ、この男子1500mで世界最古の記録を10年ぶりに更新して800mとともに2冠を達成した孫楊(中国)や、男子400mを制した朴泰桓(韓国)らアジア勢の活躍を目にすると、正直悔しいですね。体格やパワーが大きくものを言う自由形は世界で最も競争率が激しいので、黄色人種が殆ど通用しない種目だと思われていただけに、世界の舞台での隣国の躍進は日本勢の力不足を嫌でも浮き彫りとなります。水泳の基本である自由形でこれだけ致命的に弱すぎると、五輪で過去2大会連続で銅メダルを獲得している男子400mメドレーリレーでは他の3種目の選手に大きな負担が掛かるだけに、苦戦は免れないでしょう。


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2 コメント

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北島頼みからの脱却を (こーじ)
2011-08-17 10:51:18
 基本的に北島は北京で‘卒業’した選手という認識をしないといけないのに、なぜかマスゴミは北島の話ばかりしてましたね。

 エースである入江の場合は今大会の力関係を
考慮すれば順当な結果なのですけど、ライバルの古賀順也や平泳ぎの末永と富田の不振が凄く
気になります。

 彼らが最低でも決勝に残れないようでは五輪本番では厳しいのではと考えます。

 ちなみに松田丈志の成績を考えると大舞台での経験が いかに大事なのかが分かりますので
不振だった選手達もめげる事なく五輪にピークを持ってきて欲しいものです。

 そして北島には‘エース’などと周囲がいらぬプレッシャーを与えない事でしょう。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-08-18 19:31:11
こんばんは、こーじさん

今大会で内定を得られなかった北島は、選考会と五輪本番の2度ピークを合わせなくてはならないのは、調整が大変になりますね。しかも、2種目ですから。
更には、五輪本番だとメドレーリレーが加わるから、年齢を考慮すると体力面の消耗や精神面での重圧が激しいので、過度な期待は難しいですね。

リレーは予選と決勝で選手の入れ替えが可能なのだから、北島ら主力選手の負担を和らげる為にも選手層を厚くしないと、結果的に個人種目とリレーの双方で駄目になりますね。
こうした面を含めても、今大会で全体的に入賞者数が少ないのは大きな課題です。

故・古橋氏も以前に仰ってましたが、個人種目の競泳には「団体戦」の要素があるので、一部の主力選手のみに期待が集中する歪な構図では、チーム全体として世界を相手に戦うのは厳しいでしょうね。
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