うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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デビス杯は国としての総合力が問われる戦いだ!!

2012年02月13日 | テニス
◆男子テニス国別対抗戦・2012デビスカップワールドグループ1回戦
(2012年2月10~12日 @兵庫県三木市/ブルボン・ビーンズドーム)

クロアチア 3-2 日本 (サーフェス:ハードコート、インドア)
1 ● イワン・ドディグ 2(7-6(3) 6-3 4-6 3-6 5-7)3 ○ 添田豪
2 ○ イボ・カロビッチ 3(6-4 6-4 6-3)0 ● 錦織圭
3 ○ イワン・ドディグ、イボ・カロビッチ 3(6-4 6-4 3-6 6-3)1 ● 伊藤竜馬、杉田祐一
4 ● イワン・ドディグ 0(5-7 6-7(4) 3-6)3 ○ 錦織圭
5 ○ イボ・カロビッチ 3(7-6(4) 6-1 6-4)0 ● 添田豪
〔通算対戦成績・クロアチアの1勝〕

【今大会の日本代表選手】
錦織圭、添田豪、伊藤竜馬、杉田祐一

※この結果、勝ったクロアチアは4月6日~8日に行われる準々決勝に進出し、アルゼンチンと敵地で対戦。
一方、負けた日本は来年のワールドグループ残留を賭けて、9月14日~16日に行われる入れ替え戦に回ります(対戦相手と会場は4月以降に抽選で決定)。

日本テニス協会のリポート
デビスカップ公式サイトの詳細の成績

〔写真は時事通信〕


                        *  *  *  *  *


難敵相手に大健闘するも、あらゆる面で課題を残す

昨年9月に天敵インドを下して、27年ぶりにデビス杯のワールドグループに復帰した日本男子テニス。日本はデ杯初参加となった1921年には、熊谷一弥、清水善造、柏尾誠一郎を擁して決勝に勝ち進むも、米国に0-5で敗れて準優勝。現時点では、これが日本の最高成績となってます。ちなみに、前年の1920年アントワープ五輪では、熊谷がシングルスで銀、熊谷と柏尾が組んだダブルスでも銀を獲得し、我が国初の五輪メダリストを誕生させた競技となりました。しかし、1981年に創設された現在のワールドグループ(16ヶ国が参加)では、日本は今までに2度しか経験がありません。過去2回は、1981年にスウェーデン1985年に米国とそれぞれホームで対戦するも全く歯が立たず、いずれも1試合も勝てずに0-5と完敗。しかも、両国とも2軍同然で編成し、当時の世界のトップ選手だったビヨルン・ボルグ(スウェーデン)とジョン・マッケンロー(米国)らは当然来日してません(ただし、この時の米国にはアーロン・クリックステインが名を連ねていた)。1980年代当時の日本男子は世界は遥かに遠い時代でした。

しかし、今回日本(チームランキング17位)が対戦したクロアチアは、間違いなく本気で挑んで来ました。2005年に1度優勝経験があるチームランキング7位のクロアチアは、マリン・チリッチ(24位)が負傷、イワン・リュビチッチ(33位)は既に代表を引退しているので、ATPランキングの上位2人は不在でした。しかし、エース格扱いのイワン・ドディグ(55位)と身長208cmの巨人イボ・カロビッチ(43位)らを擁し、現状で考えうる最強のメンバーを編成して来日。しかも、ドディグとカロビッチの2人は、直近のツアー大会では好調でした。更に大会前には、「同国の英雄ゴラン・イワニセビッチが、この日本戦限定で代表監督に就任するのでは?」と実しやかな情報まで錯綜。最終的には実現しませんでしたが、今考えると陽動作戦だったのかもしれませんね。また、今大会のダブルスでは“サイン盗み疑惑”までありました。マナー違反ではあるが、それだけ日本を相手に本気で戦っていた証です。ノバク・ジョコビッチの大活躍で一昨年に初優勝したセルビアにも共通してますが、独立して間もない新しい国の選手は非常に愛国心が強いので、国別対抗の大会には伝統国よりも遥かに力を入れてます。

今回の結果はご存知のとおり、ホームの日本がクロアチアに2-3で敗れ、1981年に現行制度となって以降初となる準々決勝進出を逃しました。日本のテニスファンの間で「大先生」のあだ名でお馴染みのカロビッチの巨大な壁が、日本の前に大きく立ちはだかりました。なにせ、時速251kmの高速のビッグサーブの持ち主である大先生は、ファーストサーブが7割以上の確率で入りだしたら、たとえ世界のトップ4でも全く止められません。ワイドサーブが想定外に手前でバウンドし、更には早々に高い位置に跳ね上がるので、ラケットに当てることすら困難です。ただし、ビッグサーブを得意にする大先生は、それ以外は並以下で、ストローク合戦では必ずボロが出ます。しかも、試合数よりもタイブレークが異常なまでに多い選手です。もし、大先生がストロークを上達していたら、とっくの昔に四大大会を制覇してます。なので、自らのサービスゲームを確実にキープして、タイブレークに持ち込めば勝機を見出せました(なお、デ杯の第5セットはタイブレークは無い)。しかし、今回は中々そうした展開に持ち込めず、結局日本は大先生との3試合で1度もブレークが出来ませんでした。やはり、世界はまだまだ広いということを思い知らされました。

とはいえ、日本が大健闘したのは間違いないです。何といっても、添田豪(90位)が初日の第1試合にドディグを相手にキャリア初の2セットダウンから大逆転勝利したのが大きいでしょう。あの勝利が無ければ、最終日は2試合ともデッドラバー(=勝敗が決した後の消化試合)になって盛り下がったし、更にはATPポイントも発生してませんでした。デ杯の初日のシングルス2試合は両国のNO.1対NO.2の対決となり、3日目の2試合は相手を変えて対戦する「リバースシングルス」となります。初日の2試合に関しては、前日に対戦順を抽選します。余談だが、20年近く前のデ杯は、東京で開催される時は抽選会を首相官邸にて行い、両チームだけでなく、対戦国の駐日大使を立会人に招いて、時の首相がドロワーを務めてました。初戦は最も緊張を強いられるだけに、1月にドディグに勝利した実績のある添田が先陣を担ったのは本当に幸運でした。もし初日の対戦順が錦織圭(20位)と逆だったら、結果が違っていた可能性がありました。錦織はカロビッチにまさかの完敗を喫したショックを隠し切れなかったが、内容が良くないながらもドディグをストレートで下してタイに持ち込んだのは見事でした。国別対抗戦であるデ杯は、エースの2敗は絶対に許されないので、まさに意地で戦っていたと思います。

3日間で4単1複を4人の選手で戦うデ杯は、決して1人だけでは勝つことは出来ず、選手層の厚さ、監督の用兵、ダブルスの強化、5セットマッチの経験、サーフェスの選択、アウェーでの適応、観客の応援、協会のサポート体制などが問われるので、まさにその国のテニス界の「総合力」が試される大会です。もちろん、上手い選手を4人集めた顔見世興行ではありません。大会のルールは非常によく出来ていて、2日目にダブルスを戦うのがミソです。初日が1勝1敗になった場合、ダブルスで勝てば王手を掛けて、3日目を優位に戦う事が出来ます。たとえ、初日のシングルスで2試合とも落としても、ダブルスを取れば悪い流れを変わる事が多々あります。ましてや、初日で2勝すれば、ダブルスを取った時点で勝利が確定します。更に言うと、5セットマッチのダブルスはウィンブルドンとデ杯だけしかなく、通常のツアーとは全く異なります。だからこそ、ダブルスは、勝敗を占う上で極めて重要なのです。 また、2日目以降は、試合開始1時間前に選手変更が可能なので、選手起用を巡ってあらゆる虚々実々の駆け引きがあります。今回のクロアチアは、初日に4時間5分の激闘で体力が消耗したドディグをあえてダブルスに起用して、必勝体制で早めの勝負を仕掛けたのは、まさに選手起用の妙です。一方、日本は、杉田祐一からリターンの上手い添田に変更するプランがあったが、翌日のシングルス2試合を重視して予定通りに伊藤竜馬と杉田を起用。1セットを奪って健闘するも、残念ながら経験不足で勝利には繋がりませんでした。今後はダブルスの強化が課題ですね。

たしかに、現在のテニスのツアーは物凄い過密日程で、デ杯に1回戦から決勝までフル参戦すると4週間も拘束されるので選手の心身への負担が非常に大きく、各国の有力選手が参加辞退することは決して珍しくありません。更には、大会のレギュレーションが今の時代にそぐわないので、一昔に比べるとデ杯の価値が薄れたのは事実です。大会の価値を向上させる為に、「セントラル方式で隔年開催」や「3セットマッチ案」や「ワールドグループの2分割案」などの改革案が識者から挙げられてます。とはいえ、1900年に始まったデ杯は今年で112年の歴史と伝統を誇り、参加選手は国の威信を賭けて戦うので、やはり特別なタイトルであります。それに、テニスのツアーは世界各地を転戦するので、自分の国で戦う機会は意外と少ないです。日本は、錦織が先月の全豪でベスト8に進出した直後だったので、国内でのテニス人気が非常に高まってました。しかも、今回のデ杯はWOWOWで3日間完全生中継だったので、テニスファンだけでなく、世間一般にも関心が高く、各メディアでも大きく取り上げてもらえました。日本が世界の強豪を自国に招いて真剣勝負を戦うのは本当に久しぶりだったので、競技発展の上では本当に最高のタイミングでのデ杯開催でした。

それだけに、あの狭くて小さな会場でやってほしくなかったのが、偽らざる本音です。なにせ、あの会場は、防災時に救援物資の集積所となるエコドームなので空調設備が完備しておらず、更には交通も不便なので、プロスポーツの興行で使用する施設として相応しいとは言い難いです。本来なら、“日本テニス界の聖地”である有明コロシアムで大勢の観客を集めて開催したかったのですが、現在は大規模な改修工事中なので使用は出来ません。更には、国際基準を満たしたインドアの会場が他に無かったので、止むを得ずあそこになりました。テニス界というより、日本スポーツ界のインフラ面での貧弱さをを如実に表してます。更に言うと、サーフェスの選択も問題でした。クロアチアの選手はビッグサーバーが多いのが特徴で、ハードコート(しかも球足の速いデコターフ)では相手の方が断然有利なのだから、明らかに選択ミスです。本気で勝ちたいのであれば、会場が室内でも球足が遅いクレーコートを特設しますが、残念ながらそこまで協会に資金が無いので、出来なかったのでしょう。今回は観客の応援が非常に素晴らしかっただけに、地の利をフルに活かしきれなかったのが真の敗因のような気がします。日本がデ杯のワールドグループで世界の強豪を相手に本気の戦いをしたのは、実質的には今回が初めてですが、やはりあらゆる面で「経験の差」を露呈しました。

現時点では、9月14~16日に行われる入れ替え戦の対戦相手と会場はまだ未定です(おそらく、各大陸ゾーンが終了する4月以降に抽選を実施)。日本テニス界を発展させる上でも、ワールドグループ残留は必要条件です。入れ替え戦では強敵が相手となるだけに、勝ち抜く為には、エースの錦織だけでなく、他の選手も一回り大きく成長しなくてはなりません。

〔ATPランキングは2012年2月6日現在〕


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2 コメント

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とりあえず はじめの一歩でしたね (こーじ)
2012-02-18 23:20:30
 千里の道も一歩からといいますが、今大会は
添田と錦織の2人が1勝づつしたので歴史的な勝利を挙げたと とりあえずは喜んでます。

 個人的に錦織が2勝して添田が1勝すれば・・・と思ってまして、添田が初戦で2セットダウンから逆転勝ちしたときは‘これは!’と思いましたけど甘かったですね。

 それでも過去2回は1勝もしてないのですからこれを積み重ねる事でしょうし、TB記事にも書きましたけど出場選手が50位以内に入るぐらいでないと勝てないのではないかと思います。

 ちなみに今回WOWOWで初めて全試合がライブ中継されたので大いに楽しめたし、盛り上がりました。
 
 どうしてもテニスの試合は長いので生中継というのが難しく、これまで殆ど見た事なかったですからWOWOWには感謝したいですし生中継に勝る視聴者サービスはないというのが分かりますね。

 あの会場確かに狭すぎですね。
 やはり有明コロシアム以外にも使える大きな会場がないとダメですし、トルシエではないですが‘会場のムードが歴史を作る’というのを
痛感します。
(02日韓W杯でのロシア戦の横浜とトルコ戦の仙台の会場の雰囲気を比べれば一目瞭然ですね)
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2012-02-19 19:09:29
こんばんは、こーじさん

添田のような選手が観客の応援を味方に付けて格上の選手に勝つことがあれば、周囲から勝って当然だと思われていたエースの錦織がまさかの完敗を喫するのが、「何が起こるか分らない」デ杯の恐いところあり、面白いところですね。

仰るとおり、日本はランキングが50位以内の選手があと1人いると、デ杯はかなり戦いやすくなります。
今回解説をやっていた松岡が現役の時は、彼以外は全体的なレベルがかなり低かったです。
なので、松岡のみに依存する状況だったので、誰もエースを助けることが出来ず、ワールドグループどころか、入れ替え戦にすら進めませんでした。
選手層が厚くなれば、選手起用に幅が広がるので、せめて参加4選手全員が四大大会の本選から出場ができるレベルに達しないといけないですね。
そうすれば、例えアウェー戦でもあらゆるサーフェスに対応できると思います。

ちなみに、デ杯の1週前に同じ場所で行われた女子のフェド杯の話ですが、森田あゆみと初戦で戦ったスロベニアの選手があの会場について、
「いつも練習しているところも寒いから、ここはホームのような感覚でプレーできたわ」
とコメントしてました。
結果は森田が逆転勝利したけど、日本は地の利をあまり活かせずに、フェド杯デビュー戦の17歳の選手にのびのびと戦わせて善戦を許したのは、手放しで喜べないですね。
しかも、あの会場は夏になると、サウナ風呂のような状況になるんですよ。
http://www.wowow.co.jp/sports/tennis/column/detail_110714_01.html

会場に空調設備が無いこと以上に、今の日本には国際基準を満たした会場があそこしか無いのが本当に問題ですよね。
真冬の時期だから屋外開催は無理なので、今回は日本のインフラ面での弱点を晒したのが、試合に負けたこと以上に歯痒いです。
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