電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

生成AIの進化についての誤解

2024-06-10 10:29:15 | デジタル・インターネット
 私は、生成AIの活用について誤解していた。生成AIを上手く活用できれば、だれでもプロになれるという時代がきたという誤解である。2022年の年末にChatGPTが登場して以来、瞬く間に普及し、いろいろな文章や画像が簡単に制作できるようになり、その技術は進化している。そして、いろいろな活用の場面が想定され、実際に活用の結果優れた製品もできつつある。しかし、そうした活用ができるのは、実は素人では無理で、プロフェッショナルであることが前提になっているということに気がついた。だから、一般にはなかなか普及しないということでもある。もちろん、単なる、検索や対話で使われているだろうが。

 例えば、ある絵を画像生成AIに書かせても、ちょっとおかしな手の形、あるいはちょっとおかしな構図があっても、それを簡単には直せない経験はないだろうか。イラストレイターであれば、そのおかしな構図や絵を直ぐに修正することができる。つまり、生成AIは、60点ぐらいの作品はできるが、それを80点以上の質に上げることは、その道のプロでないとなかなか難しいということだ。文章で言えば、一般常識的な知識や情報は生成できるが、とんがった個性的な視点や内容を生成するためには、それなりの専門家ないと難しいということである。

 生成AIというのは、中途半端な使い方しかできないと、中途半端な仕事しかできないということでもある。例えば、画像生成AIを使って、こんなような構図でこんなような内容の絵を描いてくださいとイラストレイターに依頼する見本のとして、使うことはできるが、実際に絵を描くのはイラストレイターである。もちろん、大量にしかも簡単に製作するために60%のできでいいということであれば、つまり、単なる下絵でいいので使ってみるというのも一つの仕事である。しかし、その人は、優秀なイラストレイターにはなれない。ある意味では、画家のアシスタントになるだけである。

 現在では、生成AIをめぐって一つの格差が生まれようとしている。つまり、生成AIは誰でもが使えるが、その使い方には明らかに格差があるということだ。プロが使えれば、それは優秀な助手になるのだが、中途半端なひとが使うととても仕事にはならないという格差である。一方では、仕事を拡張してよりいいものをつくる人がいるかと思えば、他方では専門性を持っていないので、売れる仕事にならず、単なるアシスタントになってしまう。実際に、それらがいま起こりつつあるような気がする。そして、後者の場合は、上手く活用できなくて、役に立たないと放り投げてしまうことにもなる。本当に有効に使えるのは実際に仕事をしている優秀なプロだけかもしれない。彼らはAIを使うことによってより優れた作品をつくり出せる。もちろん、生成AIとともに進化している人もいるかもしれないが、素人のままで素晴らしい作品をつくった人はいないと思われる。

 もちろん、ネット上のSNSやブログなどに素人が生成した文章や画像を投稿していて、それらが溢れかえっているのも事実である。しかし、それはそのままでは、優れた作品になっているわけではないということも当然である。優れた作品になるためには、実は、専門家の手を通してしかできないのだ。生成AIは、優れた同伴者であるが、人間ではない。活用する人間が専門家でないと、生成AIのという同伴者は上手く機能してくれないのだ。

 一時期、生成AIの登場によって、いろいろな仕事がAIに代替され、クリエイターの仕事がなくなるということが話題になった。医者や、弁護士、会計士までAIの代替されるというのである。しかし、それは本当ではない。あるのは、優秀な医者や、弁護士、会計士がAIを上手く使って優れた仕事ができるようになり、そうでない人は、つまり、AIと同じようなことしかできない人たちが淘汰されていくだけだ。おそらく、当面のところ、本来の専門家はなくならないし、より必要になるに違いない。逆に、専門家のなかにも格差が生まれる可能性のほうが高いと思われる。

 私は、生成AIの活用される時代になると、仕事が標準化され、誰でもがプロになれる時代がやってくるとある意味で素朴に信じていたところがある。文筆家や画家は生成AIによって必要なくなるとさえ思っていた。確かに、生成AIが進化し、ほとんど要望どおりのものを生成してくれるようになることは間違いない。しかし、それでもなお、そうしたAIは、それを使う人の才能と技量に依存するのであり、生成AIがかってに創造してくれることはあり得ないと思う。

 私は、そんなに優秀な編集者ではないが、自ら編集のプロであることによってのみ、仕事のなかで生成AIの活用ができるのである。またこれからの時代は、生成AIを活用できことが編集者の一つの機能になることは確かだ。例えば、現在、Wordが使えないようでは編集者としてはおそらく失格だろう。もちろんWordだけでなく、InDesignが使えた方がよりいいことは確かだ。しかし、その逆は正しくない。WordやInDesignが使えるからといって編集者であるわけではないのだ。生成AIは、これからはプロであれば使えるようになることは、当たり前の時代になってきているが、生成AIが勝手に文章を作ったり、絵を描いたりしてくれるわけではないのだ。確かに、編集者の生産性は、それによって大きく左右されることになってくると思われるが、忘れてならないのは、優れた編集者になることが、生成AIを上手く使うことができる前提条件でもあるのだということだと思う。

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