電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

『勧酒』と元旦

2010-01-01 23:47:43 | 日記・エッセイ・コラム
 昨年は、なんだか、沢山の知人から喪中のハガキをもらったような気がする。また、知り合いのうち何人かがなくなった。その上、年の暮れ30日には、義姉の元夫が亡くなった。そんな年末を過ごしていて、ふと井伏鱒二の「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」という言葉を思い出した。この言葉は、太宰治や寺山修司などにも引用されていて有名になっているが、もともとは、中国の唐の時代の干武陵という人の漢詩『勧酒』を訳したものだ。
  勧酒  干武陵

 勧君金屈巵
 満酌不須辞
 花発多風雨
 人生足別離

 (書き下し文)
 君(きみ)に勧(すす)む  金屈巵(きんくつし)
 満酌(まんしゃく)  辞(じ)するを須(もち)いざれ
 花(はな)発(ひら)いて  風雨(ふうう)多(おお)し
 人(ひと)生(い)きて  別離(べつり)足(み)つ
(林田愼之助監修『えんぴつで漢詩』ポプラ社刊/2006.12.4)

  井伏鱒二訳
 この杯を受けてくれ
 どうぞなみなみ注がしておくれ
 花に嵐のたとえもあるぞ
 さよならだけが人生だ


 この干武陵の漢詩について言えば、「一期一会」という千利休の言葉を思い出す。もちろん、この漢詩は、親しい、あるいは初めてあった友人に向かって、花が咲く頃は雨風が多いときであり、人生には別れがつきものだから、もうしばらく杯を交わしていようよと呼びかけたものだ。一方、「一期一会」というのは、人との出会いは、もうこれで最後かもしれない、一回きりのものとして真心を込めて大切にしようという意味だ。しかし、どちらも、出会いそのもののはかなさと切なさを表した言葉であることだけは確かだ。

 昨年の年末は、29日が年賀状書きと大掃除、30日に三峯神社に行き、神恩感謝と家内安全の祈願をし、夜ネット碁にはまる。31日は息子と映画『アバター』を観、夜「紅白歌合戦」を観た。その間を暇を見つけて、年末の残った仕事を少し消化する。というわけで、多少睡眠不足のまま、新年を迎えた。

 新年の最初の朝は、9時に起床し、顔を洗い、ストレッチ体操をして、バナナ2本と水をコップ一杯。歯を磨き、薬を飲む。今年もまた、同じ朝の習慣から始まった。新聞を読んでいると、岐阜の友人から、ケータイで写真付きの年賀メールが届いたが、雪、雪、雪だった。中津川の実家には、弟たちが泊まり、親父と新年を迎えている。私は、妻と息子と3人で少し早めの昼食。友人からいただいた美味しい冷酒を飲み、雑煮を食べる。静かな元旦である。その後、年賀状のチェックと初詣。そして、日高の実家に新年の挨拶。夕食後、テレビで『相棒』を観る。これで、今日の行事はすべて終わった。

 ところで、昨日(去年)観たジェームズ・キャメロン監督の3D映画『アバター』 (Avatar)は、なかなか面白い映画だった。荒廃した地球から遠く離れた衛星「パンドラ」に住むナヴィ族は、原始的ながら自然と調和した暮らしをしている。ナヴィの村の下には、貴重な鉱物資源の固まりが眠っている。そこに、地球から鉱物資源を求めてやってきたスカイ・ピープル(地球人)が、遺伝子工学の知識を利用して、人間とナヴィを組み合わせた肉体を作り出す。それが「アバター」である。「アバター」は、人間の意識とリンクさせることで、人間がコントロールできるようになり、惑星パンドラで現実のナヴィとして実際に生活することができる。地球人は、このアバターを通して、ナヴィの村の秘密を探っているのだ。

 一方、地球の戦争で下半身麻痺になった元海兵隊員の主人公のジェイク・サリーは、双子の兄の死によって、このアバター・プログラムの参加者に選ばれる。サリーは、ある種の装置により、こちらの世界から、あちらの世界(ナヴィ族の世界)に行き来できるようになるが、ナヴィ族の生活の素晴らしさを知ると同時に、ナヴィ族の娘と結ばれることによって、やがて、自分たちのやろうとしていることの理不尽さを自覚し、ついにはナヴィの戦士として戦うという話だ。

 この映画は、とても象徴的な映画であり、ジェームズ・キャメロン監督は、現代のおける神話のあり方を探っているように思われる。これは、また、村上春樹が作ろうとしている世界でもある。そんなことを思って、朝日新聞を読んでいたら、今年の春に、『1Q84
』の続編「BOOK3」が出るという新潮社の広告が目に飛び込んできた。政権交代後の民主党がどうなるかということも含めて、また今年もいろいろなことが起こりそうな気がする。そういう意味では、わくわくどきどきしながら、2010年1月1日を過ごした。
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