322 『暁闇』

　　長友くに　第4歌集　私家版2016年9月刊
捨て値にて売られし玉ネギの苗百本植えれば頭を起こす翌朝
夜の空にチャコールグレイの雲は浮き黒猫よぎる下田駅頭
風呂の湯に浮きしイノコヅチの種二つ芽吹かぬ生命かそっとすくいぬ
まだ暗き雪の春日社行列は提灯ともし下ろす梵天（ぼんてん）
幾世代も継がれし役を舞いおさめ抱かれて去る小さき舞人（まいびと）
一年を行事で区切る生き方を捨てて都会の空間浮遊

　長友さんはかりん先輩の長い歌歴の方で、伝統文化、旅行、身の回りなど重厚な歌を詠まれるが、それよりなんといっても社会詠というか反体制（反保守勢力）的言動が注目される方だ。経歴を知ると、実は僕の亡くなった前の妻と同じ高校の同学年（だから僕の二級下）。個人的にはご存じなかったようだがお話しすると「高校の頃は私普通だったのだけど・・」とおっしゃるので、現在は普通でなく自覚的にそういう活動に燃えていらっしゃることが分かる。先の戦争は体験していないわけだから、日米安保反対とか反戦活動、沖縄問題勉強あたりから意識が高くなたのだろうか。僕と意見は少し違うがその精神は敬服する。冷静に頑張ってください。

丈高きキャンプシュワブのフェンスまでざくざくと踏む珊瑚の浜べ
島添坂（シマシービラ）曲がりし先は見えねども敷石明るく照らす春の陽
海の王国滅ぼす本土の政権を許すなよ同じ生き物として
残されし宝は家族の写真一葉　五十kgの背嚢（はいのう）より取り出される
軍事研究また始まるか防衛省研究費受ける四大学は
ぴかぴかの憲法まといて七十年戦争せざりきわれらが日本
それぞれが違って無限の創造力あらわす縄文土器の破片は