人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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粉飾決算についての特集記事。ビジネスマンの行動規範は、従来しばしば組織人が陥りがちだった「組織内での辻褄合わせ」から、「市場への責任」へと比重を移すことが求められているにも関わらず、この要請を認識できないまま、粉飾の罠に陥っていったケースが紹介されている。

ここで「組織内」とは、社内のみならず、本来ガバナンスを働かせるべきだったメインバンクも含んだりしてきたという指摘が興味深い。また、米国企業の粉飾が「特定の経営者が太るゴキブリ型」であるのに対して、日本企業の粉飾が「組織内に知らず知らず蔓延るカビ型」であるという指摘も面白い。

また、2000年以降の会計ビッグバンの中で制度会計がその記述対象を拡大する中で、会計プロセスの中に将来の収益や費用を現在に引き直すという不確定要素と裁量余地が増え(税効果会計、時価会計、減損会計・・・)、そのことがかえって粉飾の機会を増やすことになっているという指摘も重要であると思われる。


さて、このような不正行為をなくすために、コンプライアンスに関する徹底した教育を行ったり罰則を強化したりすることが必要なのはもちろんであるとしても、不正行為の背景には、不正行為を動機づけるような組織運営の問題があることがわかる。すなわち、単年度予算上の数値目標達成に最大の価値を置き、その目標達成如何によって業績評価や人事評価が決まるような組織運営である。

予算とは、企業業績のある時間的断面を、例えば損益計算書という一定の切り口で切り取り、さらにその中から一部分の数字(売上高等)を割り振ったものでしかないから、その目標達成は必ずしも企業価値創造を正確に反映しない。それにも関わらずその目標達成を過度に強調することは、価値を破壊し、将来にツケを回す不正が行われる動機を生み出す。例えば、押し込み販売、循環取引、納期の前倒し操作・・・


これら不正行為は、年度予算を組織運営の中核として位置づけることの逆機能(反作用)であるので、根本的な解決方法は、組織マネジメントの基軸を年度予算から脱却させることしかない。すなわち、

  • 予算上の予実管理シートではなく、事業別/商品別/顧客別など、様々な切り口から多面的に価値創造の状況を把握する。
  • 組織業績評価や人事評価を年度予算の達成率に拠らしめず、多面的な指標を用いて、同業他社比較や社内部門間比較や経年比較などの比較評価に基づいて業績の良し悪しを評価する。
  • それらデータは社内に公開し、異常値があった場合には、誰もが指摘できるようにする。
  • 減価償却や繰延資産など「みなし」の会計要素を排除した、キャッシュフロー会計をより重視する。


その前提として、自分達がどのようにしたら真に価値を生み出すことができるのか、それはどのような指標によって測定できるのか、ということについて、従業員が理解を共有することが重要になる。例えば、在庫を減らせばどれだけ利益になるのか、顧客訪問を効率化できればその分どれだけ顧客に価格で還元できるのか、そもそも従業員一人一人の時間あたりコストはどれだけなのか、一人一人が一時間あたりいくら付加価値を生み出さなければ会社は回らないことになるのか・・・このようなことを、従業員一人一人が意識していない場合の方がまだまだ圧倒的に多いのである。

このような一人一人の価値創造の意識に基づく組織運営は、成果主義とはまた異なる「全員価値創造経営」ということになる。そして、情報システムの進歩により、例えば活動基準原価計算(ABC)を用いて多面的に価値創造の状況を把握し、それを共有することは容易になっているのである。そして、どの側面からのどの指標に誰がコミットするのか、ということを管理するのは目標管理システムのテーマであり、プロセスオーナーの考え方を導入することが必要になる。



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