人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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コンピテンシーは高業績の要因を分析的に特定しようとする結果、ほとんどの場合、提案されるファクター(要因、因子)の数が多い。

  • 最も標準的な教科書である、Spencer&Spencer の"Competence at Work"(邦題『コンピテンシー・マネジメントの展開―導入・構築・活用』)は、20個のコンピテンシーファクター、それぞれのファクターごとに複数次元の評価尺度、そして評価尺度ごとに行動インディケーターによる評価目盛のディクショナリを示している。
  • やはり標準的な教科書である、Michael Zwellの "Creating a Culture of Competnece"(邦題『「コンピテンシー」企業改革―会社を変える36のコンピテンシー』)は36のコンピテンシーファクターを示している。それぞれのファクターごとの評価尺度と評価目盛のディクショナリはさすがに示していないが、しかしSpencer&Spencerと同じく、行動インディケーターによる評価目盛を設けるのが望ましいと言っている。
  • 日本のマーサー/HRアドバンテージのコンピテンシーは28個のファクターを示している。

しかし、高業績の要因を分析的にとらえることが多くのパラドックスを孕んでいることは、指摘されてきた通りで、要するに、過去の業績を分析して要因を抽出できても、それを目の前の状況にあてはめ、そして未来の業績を再構成することができるとは限らない。事業や人間といったものは、想像した以上にその時々の環境との相互作用や、型にはまらない多様性や、要素に還元されない全体性が重要な「生き物」だったというわけである。このあたりのパラドックスについては、リクルートワークス研究所のWorks 57号の特集『コンピテンシーとは、何だったのか』(2003年)によくまとめられているが、いずれにしても、このあたりの議論は頭が痛くなるような議論なので、あまり深入りしない方がいいです。


ここで頭をすっきりさせるために言いきるべきことは、「いくらファクターや尺度を細かく具体的なものにしても評価・測定しやすくなるわけではない」、ということである。上述の"Creating a Culture of Competnece"には、誤解を招かないような具体的な評価尺度と行動インディケーターの例示として、「イニシャティブ」の評価尺度と行動インディケーターが例示されており、そこには、

  • Level4: moderately effective 時々イニシャティブを示し・・・
  • Lever6: adept ほとんどの状況においてイニシャティブをとり・・・
  • Level8: excellent 難しい複雑な状況においてもイニシャティブをとり・・・

等々と書かれているのだが、これを読みながら私が考えたことは、「私の子供は2歳くらいの物心ついた頃からどのような状況でもイニシャティブを発揮する子供だったなあ。レベル8かなあ・・・」というもので、私は「私の子供は・・・」と考えてニコニコしたが、「私は・・・」と考えてニコニコする人だっているだろう。


そして、細かくすればするほど、問われる状況が具体的になって比較対象者が少なくなるため、ファクターや評価尺度が大ぐくりの方がかえって適確に評価できる可能性が高い。例えば、リーダーを評価するのだったら、

  • リーダーシップがあるのは誰?

と端的に評価する方が、リーダーシップを要素に分解して、

  • 信念を持っているのは誰?
  • 人望があるのは誰?
  • アイデアを明確に伝えられるのは誰?
  • ・・・

と評価するよりも、多くのリーダーをいちどきに同じ土俵に乗せて突き合わせながら評価することになるため、適切に評価できる可能性が高い。


そして、尺度はたった一つでよい可能性も高い。市場経済は「価格」というたった一つの尺度によって動いている。「価格」というたった一つの尺度の中に、無数に存在しうるファクターとその相互作用を読み込んでしまうシステムこそが、世界に現存する最もましな「評価システム」なのである。そしてそれは、誰もが日々用いている評価システムである。少なくても、企業はそのことを前提に運営されている。そうであるとしたら、企業内で用いる人材価値の評価尺度を、「価格」とは異なる多元的な尺度にすることが妥当だと言うことには謙虚であった方がよい。

つまり、人材評価の議論を次の議論に集約する方がかえって人材価値を適切に測定できる可能性が高いと考えるべきなのである。

  • 「A氏は価値を生めるか?」「A氏とB氏とではどちらが価値を生めるか?」

企業組織という場を前提にするのならば、上記の議論を次のように言い換えてもいいだろう。

  • 「A氏はうちの競争優位に貢献できるか?」「A氏とB氏ではどちらが競争優位に貢献できるか?」

このような議論を通して、全社員を上から下まで序列化し、そこに金額をつけていく。その金額を公開し、社内市場を機能させ、多くの人が評価に参加することで、評価は妥当と考えられるところに落ち着いていく。

そこにあえて多元的な尺度を導入することを正当化できる理由は、「複数の市場があるから」ということにしか求められない、と考えるべきであろう。このように考えることで、コンピテンシーファクターはいくつであるべきか、ということについての回答も導かれてくる。



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