人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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村田製作所というと、セラミック電子部品でエレクトロニクス産業を支える超優良企業で敵なし、というイメージだが、悩みも抱えているとのこと。ITバブル崩壊後に売上が落ち込んだ後、京セラやTDKがV字回復したのに対し、村田製作所は売上を完全には回復させておらず、また、従業員意識調査を行うと閉塞感が著しく現れるのだという。

その中で新たな中長期計画をスタートさせ、新たな成長軌道へと乗り出すものとし、成長を加速させるための「ギアチェンジ」が必要であるとし、そしてギアチェンジのためには、CS(顧客満足)とES(従業員満足)の両方が重要であるとして、CSとES向上のために、「組織風土改革推進委員会」を設置し、組織風土の改善改革プロジェクトに取り組んでいる・・・との記事。

さて、電子部品メーカーが新たな成長路線に乗るための方策として「組織風土改革プロジェクト」に取り組む・・・というロジックには飛躍があるように感じられないだろうか?そもそもここでいう「組織風土改革」とは何だろうか?以下、ロジックがつながらないところをつなげてみたい。


部品メーカーが成長するとは、次のいずれかということになるが、

  • A: 成長分野でのシェアを高める (拡大する市場に深く突っ込む)
  • B: 部品の用途分野を開拓する (面を広げる)

村田製作所ともなると、その部品は既に至るところで使われており、AもBも大きな開拓余地は残っていないように思える。そうなると、成長加速路線は、

  • C: (顧客が加えていた)付加価値を社内に取り込む(モジュール部品として納入する)

という路線しかないかもしれない。そして現に、中長期経営計画では、モジュール部品事業における成長を最も大きく想定していることがわかる。しかし、モジュール部品市場も激戦区であり、コンポーネントやデバイスのような高利益率を維持したままシェアを伸ばすことは至難の業だろう。

そうすると、結局、AとBとCとを掛け合わせた路線、すなわち、

  • 市場がこれから立ち上がり拡大する分野の、(A)
  • 主要部品を丸ごとモジュールとして、(C)
  • 村田製作所の固有技術を生かして、(B)

・・・作ることを狙っていくしかないだろう。そこで思い浮かぶのが、京セラの西口泰夫CEOのインタビューなのである(日経ビジネス2005/9/12号)。西口CEOは、新しい巨大市場を自分達の技術が作っていくのだということを、使命感の認識とともに、熱く語る。すなわち、

  • 次世代エネルギーの本命としての、燃料電池
  • 自動車の省エネの本命としての、ディーゼルエンジン部品
  • 現在の通信環境をさらに大きく変える、次世代無線通信
  • 工程数を1/3にして歩留まり100%を目指す、生産技術革新

・・・これらはいずれも新しい分野であり、社会的に大きな意味があり、緊急性もあり、うまくいけば大きく市場が伸びるとともに、その中の基幹モジュールを独占供給できることになる。

村田製作所も、成長軌道を描いて社員をその気にさせるとしたら、こういった最終市場と要素技術と生産技術が緊密につながるようなヴィジョンが必要になるのではないだろうか?

さて、そのようなヴィジョンや掛け声は、具体的にどのように現場に下りていくことになるだろうか? それは、技術開発や製品開発のロードマップを更新することで、現場の優先順位やスケジュールを更新させる、ということによってだろう。成長の加速に向けての「ギアチェンジ」とは、現場のスケジュールを更新、それも、前倒しに、より具体的なスケジュールとして更新・・・ということ以外のものではありえないだろう。

村田製作所には、22のテクノロジーユニット毎に要素技術を統括して計画的に強化するとともに、「テクノロジー」「プロダクト」「マーケット」の各ロードマップを作成して突き合わせて技術開発の全体に整合性を持たせる、「戦略的技術プログラム」というものがあることは知られている。技術開発スケジュールの調整・更新活動はそのプログラムに集約されることになるのだろう。

ロードマップの調整・更新にあたることになるであろう、全社を統合する新しい組織として、本記事から読めるところでは、次の組織ができたようである。

  • 全国に分散していた材料や加工技術などの研究組織を統合するとともに、マーケティング部隊も交えた、「技術・事業開発本部」
  • 工場の生産性向上を支援する「生産本部」

組織風土改革とは、そのような統合のための組織を中心に、前倒しのヴィジョンに向けて共有・調整されたロードマップの元に、スケジュールを詰めることができるよう、全社がより緊密に連携しあうようになることを指すのではないだろうか。

村田泰隆会長も村田恒夫社長も文系の方であるし、村田製作所の有名な管理会計システムも管理系の話である。技術的リーダーシップの顔がもっと見えてもよいのではないだろうか。村田製作所の技術的リーダーシップの象徴として、村田製作所独自の最先端センサー技術や電池技術をフルに積んだ「ムラタセイサク君」がいるのだと思われるが、ムラタセイサク君は、いつまでにどれだけ成長してどんな子孫を残したいのかという意思がよくわからないので、ヴィジョンの牽引役としては役不足なのではないか。ムラタセイサク君の他にも誰かいないか、幕張メッセで行われる今年の秋のCEATECに行って村田製作所のブースを見てくることにしよう。



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